36 使えねーコロボックル
このカマキリ3匹は次の検証にうってつけだ。
逸材といっていい。
「あなたたちねぇ……とっとと倒すわよ」
「まてブラン! 【コロボックル】!」
ため息交じりに、一閃しようとしたブランを制止。
そして、試してみたいスキルナンバー1を発動。
どうなる?
見当もつかんが。
面白そうなのは間違いない。
”コロボックル”というのはアイヌに伝わる小人で、アイヌ語で「蕗の葉の下の人」という意味がある。集落をもつ背の小さい種族らしい。とってもシャイで、姿を見られることを極度に嫌い、交易はするも真夜中の時間を指定していたとか。
伝承にしてはずいぶん具体的で世俗的。
かつて、とある研究者は、アイヌ以前に日本に暮らした民族だったと力説してる。
西洋の物語の小人に馴染んでしまった日本人としては、なんか違和感がある。
違和感の遺伝子は【コロボックル】にも適用されたようだ。
なぜに【アーキテクチャ】内なのか。存在が浮いてる。
設計ソフトみたいな性能の子スキルが”小人”と。
酢豚に入ったパイナップルか。
ホームセンターのレジで売ってるお菓子か。
100円ショップにおいてる500円エコバックか。
それくらい浮いてる。
でもそれがいい。
何が出るのか。
【コロボックル】には腕と足と頭があり、それぞれ5の回数が割り当てられている。
腕とか足と言わずに、直でコロボックルとした。
地面から生えた手や足が、カマキリの行動を阻害する。てなイメージなんだが。
期待に拳を握りしめて、カマキリをガン見する。
うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
……遅っ。
こちらの都合で待ってくれるカマキリではない。
ガギギギギと、おそいかかってきた。
【粘着糸】で縛り上げて【脚力増強】で蹴り倒す。
3匹のうち、もったいないが2匹を始末。
残った一匹が糸を斬ろうともがく。
キミにはちょっと付き合ってもらう。待ってろ。
「おのれっ! クモの分際でわが剣を避けるとは!」
びっくりした。復活したか。
横のストライトさまから唸りが起こったのだ。
体勢を立て直す騎士さんは、大上段に構え、クモに再び斬りかかっていく。
さっきより整った構え。すさまじい速度で突進。
隣の3カマキリに見守られて、クモへと特攻。
だがクモは、そんな背後から襲撃をなんなくかわしてしまう。
まるで、後ろにも目がついてるみたいだ。
いや、目が多い生物だし。後ろも見えてるのかも。
そしてストライトさまは、またしても未踏域へと滑り込んいった
「2度も避けるとは! クモの風上にもおけん!」
クモの風上って。風下とか居場所が決まってるのか?
カマキリ魔物が現れたぞ。4匹も。
さっきからルート以外のエリア荒らし、してんだけど。
「ストライト。じっとしていなさい」
嘆いたブランだが、護衛がやらかした責任をとるらしい。
まず目の前のクモを真っ二つにして、光の粒に変えた。
あれが攻撃? めんどくさそうに手をふっただけ。手抜き感スゲー。
スキルは【万能鋏】だと思うが見えなかった。
クモの消えたあたりに雫の痕が。まさか鼻水か。
「私が手こずった魔物をこんなあっけなく……」
呆然とたちつくす16歳の騎士さま。
護衛対象のお嬢様が、いとも簡単に魔物を切り伏せたんだ。
立場もなくなるってもんだ。
12歳であるブランは護衛に目もくれず次の獲物へと照準を合わせる。
4匹のカマキリを見据えると、足の裏で地面を軽く踏んだ。
「【植物魔法:カギカズラ】」
足先の芝からから蔓が生えると、地面を這うように延びていく。
たちまち、蔓の先がカマキリに到達。鉤状の茎となり、フックのようにひっかける。
カマキリがカマをふるい、掃うように切り落とすのだが、蔓はひるまない。
すぐさま、茎の切られた箇所の先から鉤が生えて、カマキリへ手を延ばす。
「ギギギギ、ギギ!」
蔓の成長速度は爆発的だった。
昆虫独特の反射速度で、カマキリは斬りまくってるが、鉤の増産に追い付かない。
引っかかる鉤からは、順次、鈎が枝分かれし、それは群生しながら絡まっていく。
死に物狂いの抵抗をみせた4匹は、飲み込まれるように緑の奥へ見えなくなる。
身身じろぎできないカマキリたちは、蔓に絞り切られて光を四散させた。
「すごいな……植物って」
あんな死に方だけはしたくないもんだ。
墜ちるのを除いてだけど。
「スキルを誉めてよ。それよりテルアキ。あれがあなたのスキルなの?」
そうだ。【コロボックル】だ。
目を離してたが、やっとこ発動したのか。
長いダウンロードとインストールだったな。
どれどれ。
「んげ!?」
「あ、足の下に足。か、カマの先に手。頭の上に頭が! ば、カマキリのバケモノ!」
適切な解説ありがとよ。騎士さん。
最初からデカいカマキリは、バケモノだろうけど。
騎士の言う通り、化け物具合に拍車がかかった。
カマキリに、子供サイズの頭と手足をつけた、見上げるくらいの高さの魔物がそこにいた。
見ようによっては、きぐるみを着た子供に、見えなくもない。
だがひとことで言うのなら、人ならざる改造人間だ。
俺の配下ってことで、いいのか。
呼んでみるか。
「こっちこい」
【粘着糸】の糸を消し、呼び寄せた。
カマキリは、異様にちっちゃい足で、えっちらよっちら近づいてくる。
うん。配下とおもえば、愛くるしいような気が、しないでもない。
目前まで最接近。い威圧感があるな。
カマキリに見下ろされる日がくるとは。
長生きはするもんだ。5歳だけど。
手を、いや、カマを持ち上げて”Hai”ポーズになった。
あいさつか。もう、人間社会に溶け込んでるのか。
「よ、よう」
挨拶を返すと、ふいに、カマキリの陰が濃くなった気がした。
俺を見下ろすヤツは、持ち上げてるカマを高く振り上げ、そのまま振り下ろした。
やばっ【脚力増強】!
「ギギィーッ」
反射的に、蹴りスキルを発動。
強烈な一撃に、カマキリは光の粒となって消えた。
「あ、アブなかった。【コロボックル】使えねー」
「テルアキ。ストライト」
ふり向けば、いい笑顔で仁王立ちするブランがあった。
「二人にお話があります…………ここに座りなさい!」




