15 初めての魔物
ブックマーク、増えてきてますね。
ジョジョに、ですが。
ブランチェスと出会った左域から、元の道へ取って返した。短い芝に変化はなく、3連エリアは維持されていた。ブランチェスが当たりと言ってはいたが。推測はあたってる。
看板は消えていた。誰かさんが撤去したってわけじゃないだろう。ダンジョンってのは、そういうものと思うしかない。撤去を指図する者がいるとすれば、ゲームなら設計者。異世界ダンジョンなら、ダンジョンマスターか。
うーむ。それにしても。
「なんでついてくる」
「こちらの台詞よ。わたしのゆく手を先回りしないでほしいわ」
少女ブランチェスがついてきた。これは想定外だ。
青い3連芝を見つめ誰にともなく、うなづいた。
「そう。ここまではいいのよ。ほら行くわよ」
鋏を仕舞うと、力強い号令とともに剣を勢いよく抜く。
傷心から完全回復したのか、気分がコロコロ変わる少女である。
倒産寸前の株価みたいだと思った。
上昇したり下降したり、上がったり下がったりと。
俺はいえば、理性としては突き放したい。
だがそれを邪魔する本能がいる。少女を見捨てるつもりかと。
キレイと可愛いが同席する時期の、大人になる刹那の少女を、もっと味わえと。
下心ともいう。
美少女の範疇にある顔立ちとモデルにも負けないスタイルが、そこにあった。
好きなだけガン見できるチャンスは捨てがたいぞと、本能が強弁する。
半ボッチの俺には、二度とは巡ってこない春。
旅は道連れ世は情け。行動をともにするのも、悪くないんじゃね。
理性が割って入る。
鼻水たらしさえなければなっ!
「行くのよっ!」
ため息がはぁっと漏れた。
3連エリアから次の地へ。未踏の一歩を踏み入れる。
すぐさま、新しいエリアが現れる。同時に後方の1面が消失。
これは、これまでと同じだ。エリアを3つ分進んだ。
バナー広告ごとくにしつこかった看板が、出現しない。
「攻略した。よしよし」
拳をぐっと握る。
歩数を数えて歩く。
5歩で次の面となって、続く7歩でその次の面。
いったん左サイドにズレて復帰。また直進。看板は出てこない。決まりだな。
謎が解ければ単なるコース。ダンジョンを脱出するのも遠くないだろう。
俺が一面を歩くには、5歩から7歩かかる。
差が2歩あるのは、気まぐれな俺の性質を表してる。
気分屋さんねって、言われたことあったし。
1エリアは、適当に、タタミ2畳と見積もった。
1畳は地域でちがうが、最小の団地サイズでも170センチ、京間なら191センチ。
計算すると、一歩あたりの長さは、28から31センチとなる。俺の歩幅だな。
自衛隊じゃ一歩が65センチになるまで行進訓練するそうだ。
その半分も無いってのは、いかにチビすぎるか。
「ふぁ……」
「あくびなんて、緊張が足りないわよ」
「そういわれてもな」
どんな複雑な迷路でも、答えが分かれば、つまらない。
一度解けた知恵の輪を、はずしてハメるを強要されてる気になる。
苦痛だな。単調の繰り返しは、忍耐力を試される。
斜め後ろに位置取ってついてくるブランチェスをチラ見。
歴然たる身長差にめまいがする。鼻の下を伸ばしてる場合じゃない。
せいぜいJKな少女よりも身体が小さいなんて。大問題だな。
攻略より、そっちの原因リサーチを優先したい。
ちんちくりんになった指先をみつめ、思った。
ブランチェスは俺を貴族だとか言った。
子供化もダンジョン効果かもしれない。
脱出すれば、元の体サイズに戻れるのか。そうだと期待したい。
喉元から出そうな言葉”異世界転生”を、飲み込んだ。
そうして、踏破のルーチンをこなしていく。
ところで。
俺を気分屋って言ったのは誰だっけ。嫌なこと思い出した。
彼女しか――むこうはそう思ってなかったが――いないのに。
「伏せなさい!」
突然、ブランチェスが叫んだ。
「え?」
”なにか”が真横から飛び出す。伏せるには間に合わない。
ジャンプでかわそうとしたが、それも遅い。
そもそも、たいしたジャンプもできない。
うぐっ!
中途半端な空中で、ぶつかられた。
地面に叩きつけられる。その衝撃を身に付いた受け身で緩める。
それでも勢いは殺しきれない。
真後ろへ、ごろごろ転がった。
回転受け身の要領で立ち上がる。
めまいがないのは、部活の柔道のおかげだ。
さんざん背負い投げの練習台にしやがった先輩に、いまだけ感謝。
口に入った草をぺっと吐きだし、ぶつかってきた”何か”を視た。
「うさぎ?」
野生のウサギだった。大きい。ふさふさの耳。愛らしいもふもふ感。
そして。愛らしくない悪い人相したつり眼。
だが、それを除けば、たしかにウサギ。明らかに俺を睨んでる。
攻撃意欲を剥きだし、再び、突進してくる。
今度は正面。とっさに蹴った。だが蹴りが軽い。
かわいい脚が、ウサギの図体に押し負けた。
敵の軌道は変わらない。直進だ。どてっぱらにつっこまれた。
「ぐはっ」
なんっつー威力。ウサギのくせに。
そのモフモフが、柏手をパンパンと打つ。殺る気満々だ。
草食動物なら人間から逃げろよ。
「牙をもつウサギ、ウッドラビッドよ。攻撃のセオリーは、突進で起き上がれなくしてから、肉を食いちぎる。気をつけなさい。倒れたら最後、牙の餌食よ」
「ご教授、どうも」
ゲームならば初期装備の棒くらい装備するもんだが、何もない。
ゲームならば?
もしかしかすると……俺は指をふってみた。
「なにをしてるの!」
「いや、操作パネルが現れるかと……半透明の」
その隙を狙って、突進するウッドラビッド。
「せいっ!」
なんなくかわせた。いいね。
突進も3回目。目が慣れてきて、身体も反応し始めてる。
「なにをわけの分からないことを。じっとしてなさい」
フルダイブMMOはゲーマーの夢。
ログインを期待する習性くらい、見逃してくれ。
ブランチェスが剣を上段に構え。そのままウッドラビッドへ振り下ろす。
ウサギは俺に対峙中。横にいる少女にまでは意識が向いてない。
頭部を狙ったひとふりを、まともに受けた。
きぃー。
ウッドラビッドは粉々に飛び散って、破片は、空中に消えていった。
米粒でできていたかのように、粒子状に分解し跡形もなくなったのだ。
「……この辺り、ゲームっぽいな。どうなってんだ。」
呆然と立ちすくむ。目の前におこった出来事が、理解できない。
この手の現象はよく知ってる。ゲームやラノベ、アニメで、何百回となくみてきた。
ファンタジーと見なせば、既存の出来事として、落とし込むこならできるが。脳が拒否る。
画面越しに鑑賞するのと、実際に目で、身体で感じるとのとでは、まったく違う。
指をふったが、やはりモニターはでなかった。
「いつまでもぼうっとしてないの」
ブランチェスは剣を鞘に収めた。
「あれはなんだ。なんで消えた」
「そう。キミは知らないんだったね。ダンジョンの魔物は、消えるのが当然なのよ」
「当然って。バーチャル映像みたいなものか」
いや違うなと、自分の言葉を否定する。映像なんかじゃない。
体当たりされた腹が重く痛む。
足には蹴った感触が残ってる。
たしかな実態。あれはリアルの生物だ。
「ねぇ。方向は覚えてる?」
「こっちから来て、あっちだろ?」
考えるまでもない。
「迷路順だけならカンタンなのよ。でも魔物に襲われるともうダメ。攻撃したりかわしたりして、体が動いて、方角が分からなくなるの。だから……」
魔物のせいで方向を狂わされるのか。
文字読めるだけでは、攻略できない。
なるほどね。
「そうやって、はなみずおんなが出来上がった」
「花美女よ!」
「また変わってるし」
プランチェスが、俺の肩をつかむ。
突然のアップ。うむ、かわゆい。思わず目をそらす。
「わたしと一緒に攻略しない?」
「い、い、一緒に?」
「下級貴族にしては頭がよさそうだし、とっさの事態に対応する適応力も下級貴族にしてはある。それに方向を間違えない。ダンジョン向きの優れた感覚ね。下級貴族のくせに」
下級貴族、下級貴族って。いちいちくどいしうるさい。
言わなきゃ死ぬって制約でもあるのか。
「でもその剣があれば楽に退治できたよね。なのにしなかった。俺を試した?」
「半分はそうね。あとの半分は――」
「半分は?」
「言いたくない。いっておくけど、心細いなんてこと絶対にないんですからね」
あー。そういうタイプ。
「了解した。同行はやぶさかではない」
「下級貴族のくせにえらそーに。一緒にきて。いや来なさい。いいわね?」
ところで、評価ポイントを付けられるのは、この↓の☆マークです。
星は1から5まで。
おそらく、こんな意味があるのでしょう。
三つ★★★で 「読んでやってもいいなか」
五つ★★★だと、「神だ! ぜひ、読ませていただきます!」
で、1コ★は…………「チッ、目が穢れたわい」
ORZ




