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高い所が死ぬほど嫌いな俺が、空中ダンジョンの下級貴族の子に転生した話  作者: きたぼん


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16/83

16 二つの糸

ブックマークが伸びてる!

ありがたいことですねー


「まぁた魔物。大蛇だぞ。そっち蹴るからなー」

「わたしに回さないで欲しいわね」


うさぎ出現がきっかとして、魔物が頻繁に出現するようになった。

フラグでも立ったんだろか。静かだったのに、おかしなものだ。

出現する魔物は、ネズミやカピバラや、兎などのげっ歯類が大半。

蛇やトカゲなんかが時々だ。森の生物たちって分類だ。


強さは、それほどじゃない。時間をかければ、俺でも蹴りや踏みつけで倒すことができる。が、けっこうな体力を削られる。武器などで一撃のもとに葬れば楽なのだが。俺にはこれといった決定打がない。ブランチェスに魔物を回すよう、心がけてる。


「剣をもってるんだから。構えろ。いくぞ!」

「もう……いいわよ。せーのっ、オイショ!」


大蛇が消滅した。気の抜けた一閃に倒される哀れな最期である。それほどまでに、素人目にもわかるほど、力みのないひと振りだともいえる。魔物に慣れてきた証拠だ。


「ナイスフォロー!」

「ふぅ。キミねぇ、なにか武器とかないの? 蹴って逃げ回ってるだけじゃない」

「立ってるものは親でも使え、てな。ついて来たんだから仕事しろ。俺の得意分野は、関節技や投げ技なんだ」


ダンジョンで倒した数は、20を超えた。これまでに何かを落とした魔物はおらず、レベルアップなんてゲームイベントもない。変化のない、遭遇した魔物を手あたり次第に倒していくだけの、旨みなき攻略だった。1秒でも早く脱出したい。正直、飽きてきてる。


「むむー。蛇にだって関節くらいあるはずよ!極めなさいよ」

「そうか? 関節みつけたら、ぜひともおしえてくれ。あるならな」

「いっちいち腹立つわね。いまの蛇は頭から5センチのところを斬ったわ。次は8センチを狙う。反対側に曲がらない骨があれば、そこが関節よ。絶対にみつけてみせる」


襲いかかる蛇を2センチ単位でスライスかよ。

すっげー精度で、執念だ。意味ねーけど。


「ガンバりゃあ~」

「むっかつくっ!」


からかうのが、ちょっと楽しくなってきた。一人より二人のほうが心強いのは確か。ダンジョンを脱出するうえでも、複数のほうが方向を間違いにくいなど、アドバンテージが多い。なにより、気分転換できるメリットは計り知れない。危険をさまようダンジョンで、滅入らずにいられるのは、バカ話のできる相手がいるから。ブランチェスがいるからだ。


「なによ?」

「いいや。いくぞ」


トカゲ、兎、またトカゲ。空腹を気のせいと無視して、突き進む。

店なんかどこにもない、食い物のことを考えるとよけいに腹が減る。

とにかく集中。なんにしても、脱出するしかないのだ。


「ちゃららら~♪ 魔物が現れた!」

「バカ言ってないで、こっちへ蹴りなさいよ」

「でっけーイモムシ登場。お初だな。行くぞ!!」


のそのそ、這って現れたのは、薄緑のイモムシ。

子犬ほどのコタツの下にもぐれるそうなそいつを、剣を構えたブランチェスへ、右脚で蹴りつける。だが、イモムシは見た目を裏切って俊敏だった。


上半身だか首を、ぷるんとふって俺の蹴りをかわす。口から3本の糸を吐き出した。

2本が肩と脇をかすめて飛んでいき、1本が俺の足に付着した。


「早くよこしなさい。何をやってるの!」

「くそっ。ネバっとして、とれない!」


引っ張ってちぎろうとした。強靭で千切れない。

しかも粘つきが強力だ。

絡みつかれた手の自由が奪われる。

蹴るどころではない。


「て、テグス製の納豆糸みたいだ。ショーユでかき混ぜてやろか!」

「すぐ剣で切るわ。そのまま動かないで」

「待てブランチェス! 俺よりも……」


俺よりイモムシを。糸でなく、糸を吐き出してる本体を倒しさないと、終わらない。

そう伝えようとする前に、彼女の剣は、糸にむかって振り降ろされる。

その糸は現在、俺の両手を封じてる。そいつを切るってことは。


「俺を糸ごと抹殺する気か!?」

「あ、あれ? 斬れない。け、剣が絡まっちゃった。よかったね」

「そういう問題じゃない!」


切られかけた。それも胸を。

血液ドバドバの瀕死状態に、あやうくなるところだった。

イモムシ糸の粘着力に感謝したい。


「ど、どうすればいいのよ。剣がとれなくなったわ! 攻撃できない!」

「胸くっつけるな。離れろよ。ったく、よけいなことをして……ブラン!後ろ!」

「え?アッ」


ブランチェスの背後、別の魔物が現れた。今度はクモ。

大きさが、丁度いまの俺くらいの、黒クモだ。

クモは、ブランチェスの首をつかもうと二本の前足を交差させた。

だが、間一髪。彼女のほうが一息、早い。

攻撃をかわして逃げおおせる。


「でも、剣が」


ブランチェスが、クモから逃げられたのは、剣を手離したからだ。

一時の安全の代償は大きいといえよう。

目先の危機は脱した。彼女は丸腰になった。

対峙するクモが、ゆっくりと距離を詰めつつ回り込んでくる。

射しこむ日に6つの目が輝く。こいつ、自身の優位を理解してる。


「くっ、最悪すぎるわ。2匹同時、しかも動きがとれなくなってからなんて。このダンジョン性格悪すぎよ」

「同感だが、悪口はダンジョンの心証を悪くするぞ。意志があるならだけど」

「いまさらだわ」


クモの策略にひっかかった。

俺たち二人は、攻撃ができないどころか、その手段すらないまま、背中合わせに追いつめられ、ますます動きがとれなくなる。

イモムシのときおり吐き出す糸が、厚く重なって、俺の上半身は封じられつつある。

クモの尻から糸が勢いよく跳んで、それがブランチェスの片腕に巻き付いた。


「わたしたち、ここで死んでしまうのかしら」

「フラグ立てるな。いちいち落ち込まない。考えるのは退治のしかただ」

「退治ですって。どの口が言うのよ、殺されかけているのに」


前にも後ろにも魔物。種類はちがうが、どちらも糸を使う。

このままじゃ、二人まとめて繭にされて保存食だ。

クモなんて、玄関に張られた巣を棒で絡めとるくらいしか付き合いがない。

イモムシはさらに、付き合いがない。


「毛のはえない毛虫のことをイモムシっていうだけで、明確な分類はないそうだ」

「それがどうしたっていうのよ!」


ごもっとも。だが、しゃべることで、なにかがまとまってくることがある。

どっかで読んだどうでもいい記憶。

読んだことさえ忘れた知識が、口から出てきた。


「どっちも糸の攻撃。クモなんか粘る糸を粘らない糸の2種類を使い分けてる」

「その口が、糸に塞がれるわよ。少しは抵抗しなさいよ」


ブランが糸を切断した。懐から取り出した鋏で切ったのだ。

剣より小さく小回りが自由だが、ガムテープを切っているようなもの。

粘ばり成分が付着するにつれて、切れ味が落ち、吐かれる糸にペース負けしてる。


「自分の糸は、見分けがつく……ってことは。場所を変われっ!」

「え?」


俺は、一定距離から近づいてこないイモムシへ、一息で迫った。

ピンと張っていた糸にたるみが生まれた。

身体をよじり、まだ自由の残るほうの手で、イモムシの糸を鷲づかみする。

たるみつつくりだした糸を両手に持ち、イモムシを蹴り飛ばして離す。

その勢いを駆って、逆の、クモへの側へと身体を翻す。


「ブランも! クモの糸をイモムシに!!」

「わかったわ!」


輪にしたイモムシ糸をクモの前両足に引っかける。

クモは一瞬も動きを止めず、尻糸の矛先をブランチェスから俺へと変えた。

が、糸の先端はブランチェスにある。彼女がそれを引っ張った。

糸は横にピンと張られたが、俺への影響はなし。


よし! イモムシ糸をガンガン引き出し、クモの足という足に巻きつける。

クモは糸をかじり解こうとあがく。しかし糸の主はイモムシ。成分が異なる。

自分の糸ならなにかの溶液で分解できでも、これは溶けない。

糸はどんどん絡まっていく。クモはついに、身動きができなくなった。


「こ、これに触らなきゃいけないの? うぅぅー」


ブランチェスは、イモムシを踏んづけてるが、クモの糸で縛るのをためらってる。

俺が無理やりに、糸を引き出したせいで、すでに苦しそうなイモムシくん。

縛るほう縛られるほう、ともに震えている。珍しい光景だ。

意を決したブランチェスが、糸を絡める。


「きき、、きもい……わわ。ぷにょんぷにょんする、冷たい」

「いや、べつにもう縛らんでもいいんだけども。おりゃ、おりゃっ」


俺はクモの上で跳ねて踵で着地。何度も繰り返す。

8回目でようやくとどめを刺した。クモが粒子になって消えていった。

意外としぶといもんだな。楽に踏みつぶせるサイズじゃない。

額の汗をぬぐう。疲れた。


「そっちは……」

「死んで! 早く死んじゃってよ! えいっ、えいっ」


ふり向けば、鋏を何度も打ち下ろしてるブランチェス。

必死の形相で、子犬サイズイモムシに、鋏をズクズク刺していた。

手を貸さないほうが、いいかな。


俺は手の糸をみつめる。魔物が消えたのに糸は残った。

不思議だな。いわゆるモンスタードロップなのか。

どうせならもっと役立つものがいい。食い物系なら、なお良い。


イモムシが粒子化した。ようやく倒したようだ。

2匹同時が、こんなにやっかいだとはな。

RPGなら、横一列に並んで正面からやって来るのに。

”迷いの森”には、ぜひ見習ってほしいご都合主義だ。


今回は、運が良かったにすぎない。ひとつ間違えたら、死んでいた。

対策を考えないとマズイ。本当にここで朽ち果ててしまう。


ブランをみれば、ぺたり座り込んでしまってる。

肩ににじませた疲労感。2歳は老けて見える。それでも不動JKなんだが。


「わたしたち、ここから抜け出せるのかしら」

「ブランチェス……」


少女はそれから、ぽつりと付け加えた。


「死にたくない」


1ミリでも、おもしろいと感じたあなた。

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モチベの上がらない作者へ、清き一票を!

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