14 この少女じつは捨て子
評価ポイントがつきました!
ありがとうございます
「しくしくしく……」
そこにはいたのは泣き崩れる少女。ステレオタイプ案内人だ。
女の子座りであっち向いていて、俺に気づいてない。
「ブランチェスは、この場にて息絶えるようです。迷いの森に捨て置かれたこと、自らに課せられた苦難とは存じても決して恨むものではございません。この身が果てた暁には星となり天よりスプラード家の繁栄を見守りましょう。どうかみなさまご健創で」
自己紹介ありがとう。
ブランチェスっていう名だね。攻略に疲れて死にかけてるさなかと。
捨てられたのは、こいつじゃないか。
さっきの威勢は、どこへいった。
肩をたたいて、励ましてもいいが。後のフォローが思いつかない。
俺が知ってる女性は、会社のおねえさまか、スカイツリーのアイツくらい。
叩いて、はい・さよならってなら、そこらのストーカーのほうがよっぽど親身だ。
どうする?
ほっとく!
最初の印象は、とても凛々しくたくましい少女だ。なんとか立ち直ることだろう。
そろり回れ右だ。直進コースへと引き返そう。
そろり、そろり、ペキッ。キャー! 小枝を踏んだ。
なんで踏むかな俺は!
「あああああ! ひどがいるぅ!魔物じゃない、ひどだぁぁ!」
気づかれた。いや、逃げ遅れた。
肩まであるストレートヘアを靡かせ、こっちの逃走先に回り込む。
目鼻口から、流れるよだれと涙の液体は、もはや汚水。
逃げようとしたが、遅かった。背中に、しみつかれる。
服の上に、生暖かいおかゆを垂らされたような感触に、身震いが停まらない。
背中の鳥肌は、逆毛立ちが活性化しすぎて、まるで羽毛だ。
鋏? それ、いま気にするところじゃない。
「よだれ、きったない。く、くっつくな」
生まれてこの方、これほどの悪寒を感じたのは初めてだ。
考えてないで、とっとと去っときゃよかった。
逃れようと手をふりまわしたが、動けば動くほど液体は浸透。気持ち悪さだけがアップ。
美少女? 訂正だ訂正。
「話す!動く! もっとしゃべって! ぶって! 蹴って! この、ぷにぷにした感触!生きてるって最高!」
「いてて、はなせ! 離せよ!」
がっちり抱え込まれ、あたまや頬を、撫でたりひっぱったりしてくる。
振りほどこうとするが無理。肘で少女を連打、痛いはずなのに、緩まない。体格が大きいからか、力が強い。必死の抵抗も、空振りで、いいようにもて遊ばれてる。
「むね胸! くっついてる!」
膨らみを感じるラッキー展開ではない。革製の胸当てが顔に擦れて、マジ痛いのだ。
「くんくん、ああー人類的な文明の香りね。たまらないわ」
「少しはじらえよ! ええい!はなせー。あ、そうか」
声を張り上げたおかげで、頭がクールダウン。対処を思いついた。なんのことはない。
どれほどのボディ差があろうと、バカ力をかます筋力があろうと、決して鍛えられない逆急所が人間にはある。たとえば、肘や膝裏などの関節。首の後ろや背中の中枢。目や内臓。
それに指の一本とか。
小指をぎゅと握って、逆関節に曲げてやった。
「うきゃっ」
サルみたいな奇声をあげてひるんだ。チャンス。
手の高さそのままに、離れた腕の肘を外側から押し上げる。
関節をとって引っ張ると、面白いように体の重心が崩れる。
ここまでくれば俺の土場。
右にくるりと身体を半回転させ、少女を地面に組み伏せ、馬乗りになる。
「い、ィだああぃ」
「もうくっつかないか?」
「くっつかないから。ぎゅっともしないから、離して」
息を整え、気持ちを落ち着かせてから、慎重に立ち上がる。
警戒は解かず、少女との距離を、とるため面の端までよった。
載っていた荷重から解き放たれて、少女が大きく息を吸った。
「キミはさっきの。なぜ来たの?ダンジョンは危険だといったはずよ」
「あぁ。そうですね」
いまごろ気づいたとは。
分かれたのは、ちょっと前。時間にして、30分といったところか。
さほど過ってないのに、別人といってもいい人格変動。不自然にもほどがある。
関わりたくない。だが、ささやかな興味が、湧かないことも、ないかもしれない。
「もしかして、何か、その身におこったのかなぁ~?」
「なによ。ヘタ虫だってもっと親身に語りかけるわよ」
ヘタ虫がなにかは知らんが、イヤイヤ気分が、露骨にでてたらしい。
返事の代わりに、背中についた気持ち悪い液体を、明示してやった。
少女は顔色が変えた。慌ててとりだしたハンカチで自分の顔をぬぐう。
いや、そこじゃなくて。拭くんなら俺の背中ろ。
「……ここは、迷いの森なの」
「はぁ。そんなこと言ってたな。ネーミングが陳腐なだけのハッタリかと思ってたけど、本当に迷わされてるし。それで?」
「忘れてるだろうけど、レブンには西と東に森のダンジョンがあるの。何かの坑道だったのがダンジョンになったという言い伝えだけど。敷地はとても狭いわ。決まった道をいくなら迷わないほどにね。でも道から外れてしまうと、とたんに脱出が難しくなる」
狭い空間を、わずかなヒントだけで攻略させると。優しいヒントだって、解けない子供には役立たない。脳筋な人もだな。どっちも彷徨うだけだ。ターゲットを絞った、ある意味えげつないダンジョンといえる。狭いといってもどれほどの狭さなのか。テーマ―パークは限られた空間を広く感じるよう設計されてるっていうし。
「迷いのダンジョンか」
誰が作った、なんのためのダンジョンなんだろ。
悪趣味だな。……う?
なんか、俺、この世界にハマりはじめてない?
「そうなの。父上と兄上が私を……そこ、なぜ笑うのよ」
「ぷ。わらってない。ぷぷぷ」
「ほら笑った! どこが可笑しいの!」
「ち、ち、ちちうえって、いまどき父上兄上って、設定にしても……うっはははっ。腹が、イテて。叩くな」
いや、自分の状況が、ちょっと可笑しかったんだが。
ちちうえって言い方が可愛くて、ついでに、からかってしまった。
「貴族はどこもみんなそう呼ぶの。父上って。キミの家だってそのはずよ」
「ぷぷ。わ、わかった悪かった。俺も貴族で父上がいる。それでいいだろ」
「気に入らないけど。まあいいわ」
ふーぅ。笑った笑った。涙がでるほど笑ったのはいつぶりだ。
今気づかされた哀しい事実……ふっ。笑いなど俺の人生に不要だ。
ところで、ひとつ、気になる言葉がでてきたな。地名だ。
「レブンって言ったか。離島のこと? ここはレブン島なのか?」
「離島ってなによ。レブンはシタデルにきまってるでしょ」
「したでる? 下出る、いや、舌DELL? なんだそりゃ」
「その記憶までおとしてしまったの? うぅ不憫だわ」
「泣くのやめろ。鼻水女に不憫がられたら、マジ不幸に突き落とされた気分だわ!」
「はなみずおんなですって!」
「ごめん言いすぎたな。びすいじょあたりで」
はっはっは。びすいじょな。
「響きが美女みたい。それなら許せるわ」
「いいのか!?」
なんだかな。緊張と真剣が薄れてしまった。
バカ少女とのやり取りのせいだ。
攻略しなきゃって危機感が、ぽわぽわ削がれてく。
もとから、薄かったけど。
「あーあ。危機感がへったわ。キミのせいで」
「お前が言うか! あ頭が痛てぇ」
頭を抱える仕草をしようと、見つめた自分の手に驚いた。
なんという、紅葉のようなお手手とは、幼子のてのひらの表現だ。
まさに、そういう手をしてる。
まぁ……真面目に考えてもしかたないんだろな。ここも笑うしかない。
人生には潤いが必要だ。
「ブランチェスは、ダンジョン攻略に行き詰ってて泣いてたようだけど」
「そうだったわ! わたしたち、このまま、出られないまま、朽ち果てるのよ!」
「かんたんだぞ?」
「か ん た ん ですってぇぇええ!?」
森を突き抜けそうなおお声で少女はわめく。
震わせる両手の指は、俺を絞め殺したそうな動きだ。
「おー解けた。ちょーかんたん」
3面進んで、一回左。元の直線に戻って、また3面。
検証はこれからだが、まちがってないと思う。
「3面進んで左へ行ってまた戻って、なんて。つまらない答えじゃないでしょうね。まさかとは思うけど」
「そすけど」
その通りですが。違うのか。
解読が違っていたのか、別にも読み方があるとか。
解読できたと思い上がってた。恥ずかしい。
「あたっているわ」
「当たってんのか!」
こいつ。ひとを疲れさすタイプか。親は本気で見捨てたのかも。
関わらないほうがよかったか。
親にならって、俺も捨ておいたほうがいいか。
今から間に合うだろうか。
「キミ、ほんとうは文字が読めたのね?」
「読めない。カンだ」
あれはやはり文字だったと。そりゃヒントだしな。
「カンでここまできたっていうの? 本当なら、かなり高いセンスをもってることになるけど。捨てられたのね」
「捨てられてねぇって!」
こいつは。
「もういい。当たってるっていうなら、正解だと確信してるんだな。なら、なんで鼻水垂らしてたんだ」
「美酔女よ!」
気のせいか、発音が違って聞こえた。
「文字が読めるだけで解決できるなら、シタデルマスターはいらないのよ」
シタデルマスターって、なんだ。”警察はいらない”の例えか。
知らない設定が次から次へと……。
ま、とにかく。看板解読だけじゃ解決はできないと。
深いもんだな。ダンジョンだけに。
「それよりも」
ブランチェスが続けた。
「どうして私のなまえを知ってるの。しかも呼び捨てなんて生意気だわ。子供のくせに」
「イテ! 叩くな。自分で名乗ってただろう」
ちなみに、評価ポイントを付けられるのは、この下の☆で。
三つ★★★で 「まぁまあやね」
五つ★★★だと、「こりゃすげー!」
1コ★は 「ろくでもねぇ」




