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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
奈落の麗姫編
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第三十四話「ふたつの援軍」前編

挿絵(By みてみん)

 第三十四話「ふたつの援軍」前編


 時は少しばかり遡り――


 尾宇美(おうみ)領攻めの天都原(あまつはら)軍本陣は尾宇美(おうみ)領内の西方、


 自軍が築いた尾宇美(おうみ)城前平原の簡易砦という最前線から距離を置いた後方に在った。



 「天都原軍(ぼくら)尾宇美(おうみ)城攻めに対する敵の最も効率の良い対策としては……」


 整った容姿で爽やかな――


 「後方を遮断し本国からの補給路を断って撤退させる策が最も有効だね。で、僕らにとって今回の後方(それ)斑鳩(いかるが)領のある西方になるから」


 しかし、どことなく浮世離れした――


 「だから、天都原軍(ぼくら)は橋頭堡としている簡易砦より西に陣を構えて、敵の動きを牽制するのが良いんじゃないかなぁ?」


 ――青年将校がそう進言する



 「……」


 それを黙って聞いているのは――


 長髪を結わえた、飾りっ気のない目つきの鋭い男。


 「そこなら戦場全体を見渡せるし、敵の小細工に素早く対応できるはずだよ。万が一にも後方遮断なんてされたら大軍(かず)有利さ(アドバンテージ)も逆に足枷にさえなるからね」


 「……」


 依然として黙って聞いている男の、常人なら息を呑むような、殺気さえ感じる重苦しい沈黙。


 「どうかな?」


 言葉を発するのにもかなりの勇気が要るだろう空気の中、整った容姿の青年将校は笑みを浮かべる余裕で遠慮無く見解を披露し続けていた。


 「臨海側(てき)は後方遮断が目的……ならば、敵援軍の出現箇所も推測可能か?」


 漸くそれらを受けて、殺気の元凶たる、目つきの鋭い男が初めて口を開く。


 「だね。臨海(りんかい)側の援軍は僕の予測通り、東の岐羽嶌(きわしま)領から出陣したみたいだし、そっちから城に直接的な合流は無いよ」


 青年将校は敵援軍は直接に尾宇美(おうみ)城に合流はしないだろう、この数的不利を少しでも縮めるため迂回して虚を突くだろうと、そういう読みに完全な自信を持っていた。


 「……」


 目つきの鋭い男は再び黙って、青年将校の返答を聞いていた。


 「(そもそ)もさあ、援軍を足したって総兵数に劣るからね。僕なら北か南から迂回して天都原(あまつはら)本陣の側面か背面を狙って混乱させたうえで、それから正面の尾宇美(おうみ)城軍と連係して起死回生の大損害を与えるのが常套手段かなぁ?」


 攻める、天都原(あまつはら)軍・総数十三万に対して――


 守る、臨海(りんかい)軍は五万五千!!


 単純に援軍を足しても尾宇美(おうみ)決戦の兵力差を埋めるだけの戦いは困難だろう。


 ならば臨海(りんかい)軍は必ず”そういう”小細工に出ると……


 容姿の整った青年将校はそう予測しているのであった。


 「なるほど。如何(いか)にも、あの詐欺(ペテン)師の考えそうな戦術だな」


 一通り聞き終えた目つきの鋭い男は十分に納得して頷いていた。



 自分たち天都原(あまつはら)軍は……


 ――”尾宇美(おうみ)”攻め


 ――”九郎江(くろうえ)”攻め


 ――”日乃(ひの)”攻め


 と、戦力を三軍に分けて侵攻した。


 これは迎え撃って来るだろう臨海(りんかい)軍に、()ずは的を絞らせないための一手である。


 援軍を分断、或いは躊躇させるための周到な先手。


 情報を駆使し、相手の懐事情を十二分に分析、理解したうえでのそれは――


 戦国の世で”赤目(あかめ)の妖怪”と恐れられた鵜貝(うがい) 孫六(まごろく)という、


 現在(いま)天都原(あまつはら)軍総参謀を務める老練な策士の用意した巧妙な初手であったのだ。



 「()な爺さんだよねぇ?”彼”と違って僕は相手にせずに済んで良かったよ」


 ”他人事”のように……というか”敵事”なのだが、素直な軽口を吐く青年将校。


 そして青年将校の言う”彼”とは言わずもがな、臨海(りんかい)王である鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)を指す。


 「臨海(りんかい)軍はね、尾宇美(おうみ)の北に香賀美(かがみ)領を所有()っているでしょ?そこに一度入るルートから川を下って尾宇美(おうみ)領土北側にある峰月(ほうづき)湖に船で来襲!城攻めに集中している我が軍を一気に北と西の城から挟撃とか?そのまま後方に回り込んで補給線を断つとか?」


 「……」


 「或いは、そうだなぁ……逆に南に位置する臨海(かれら)の同盟国、正統・旺帝(おうてい)那古葉(なごは)領から迂回して尾宇美(おうみ)南方の山脈伝いに襲撃!あとは同じで……って、そんな感じだと思うよ」


 軽い口調ながらスラスラと淀みなく敵軍行動予測を披露する青年将校。


 目つきの鋭い男は沈黙から再び問う。


 「どちらが本命だと思う?中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)


 鋭い目つきから、更に鋭利な視線を向けられ、


 「どうだろう。”鈴木(すずき) 燦太郎(りんたろう)”……いいや、”鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)”は、この僕でも最後の最後で読み切れない男だからね」


 背年将校……天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)三之太刀(さんのたち)である中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)は悪びれずに笑って躱す。


 「……」


 その軽い対応に、目つきの鋭い男はまたも無言にて……


 「てかさあ、忠隆(ただたか)君はどう思う?”鈴原 最嘉(かれ)”みたいな相手(タイプ)には生粋の武人による勝負感みたいなのが意外と役に立つのかもしれないし」


 そんな相手に、全くの冗談ともとれない表情で星志朗(せいしろう)は質問を質問で返した。


 「……」


 確かに――


 ”そういう事”ならば……


 目前の星志朗(せいしろう)の進言通り、自分達が城攻めのために築城した簡易砦の前衛部隊とは距離を置いた後方にこの本営を敷いて、予測の難しい敵の動きに対し臨機応変に応じる必要があるだろう。


 そして――


 これも星志朗(せいしろう)の言うように、自身の勝負感なるものを信じるならば……


 「……」


 目つきの鋭い男、天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)四之太刀(しのたち)にして天都原(あまつはら)第一軍総大将、今回の尾宇美(おうみ)攻めの責任者たる”阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)”は、暫しの思案の後で静かに口を開いた。


 「速さや効率なら北か?南は隘路で悪路だ、まとまった兵の移動は難しいだろう」


 「だね。加えて言うなら南の山脈沿いからこの平原への出口は十一箇所存在する。その殆どが忠隆(ただたか)君の指摘するとおり隘路で中規模の兵どころか軍馬による移動も難しいね。」


 「……」


 「つまり、例え攪乱目的でも”そんな小勢”では意味が無いし、”徒歩の兵士”なんて鈍足は発見してからでも充分に対応できるよ」


 忠隆(ただたか)の出した解答に即座に用意していただろう補足をする星志朗(せいしろう)


 それは既に周辺の地理も詳細に調査済みで、実際は答えなんて聞くまでもなく出ていたと言わんばかりの反応だが……


 それもこれも、忠隆(ただたか)に対する優越や嫌みなどは全く無く、星志朗(せいしろう)唯々(ただただ)”軍議”を面白がっているだけだろう。


 「では?南からの援軍の可能性は無いか?」


 そして、その星志朗(せいしろう)の性格を知る忠隆(ただたか)もまた、それを一切気にすることも無くそう確認していた。


 「だね。二箇所ほど、それなりの行軍ができる山道の出口があるけど……まぁ、それくらいなら兵を出口付近で待ち伏せさせれば封殺はそう難しくない。そんなに兵力を割く必要もないだろうね」



 「一先ずは……そうだな」


 納得いく解答に阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)は頷いた。


 「まぁ、取りあえずは……ね」


 臨海(りんかい)領・尾宇美(おうみ)攻略を任された天都原(あまつはら)第一軍の総大将、阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)


 その副将で参謀を務める中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)


 天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)の”四之太刀(しのたち)”と”三之太刀(さんのたち)”はお互い含んだ視線を交わす。



 「あの詐欺(ペテン)師のことだ、こういうふうに我らの思考を揺さぶる意味で南を囮に、本命の北から小細工を成就させる」


 「だよね、北の峰月(ほうづき)湖経由が本命。移動(あし)の速い水路で大軍を送り込んで僕らを後手に回させる。そうなれば僕らは不利を免れないから……けど、南も警戒は怠らないようにしないとね。なんせ彼には一度、痛い目にあってるから」


 中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)のいう痛い目とは――


 奇しくも同じ尾宇美(おうみ)の地で”鈴木(すずき) 燦太郎(りんたろう)”と対決した時の事で、


 後に判明した、その”鈴木(すずき) 燦太郎(りんたろう)”正体は……


 何を隠そう、現在敵対している臨海(りんかい)王、鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)そのひとであったのだ。


 ――


 「……」


 阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)は考える。


 軍略と剣術、文武において幼少から神童と称えられ、現在も不世出の天才と賞されるこの傑物、”中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)


 これほどの男を”まんま”と出し抜いた実績を持つ詐欺(ペテン)師の底知れなさを……



 「敵援軍本命の北には次花(つぐはな) 臆彪(むねとら)、彼に三万の兵で向かわせ、南は五千ほどで充分かな。それで本陣はこのまま忠隆(ただたか)君が、敵の城攻めもそのまま平山(ひらやま) 行造(こうぞう)に続行させるとして……僕は」


 テキパキと差配して、中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)はそのまま背を向けた。


 「貴様が行け、中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)


 その背に当然のように投げられる阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)の言葉。


 「だね、二万ほど借りてくよ。”彼”だけじゃなく”彼女”の方にも借りがあるしねぇ、僕は」


 そして中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)も振り返らずにそう応えて去って行ったのだった。



 ――天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)たる二人の名将が最も懸念する本当の脅威……


 ――”ふたつめ”の援軍……


 天都原(あまつはら)第一軍が現在(いま)、最も警戒するとさえいえる相手は……


 遙か北の地より、この尾宇美(おうみ)を目指して襲来するだろう――


 ――”ペリカ・ルシアノ=ニトゥ”


 (ほのお)闘姫神(ミューズ)と恐れられる姫将の援軍の存在を見抜いていた星志朗(せいしろう)(あらかじ)めそれを忠隆(ただたか)に伝えて最優先で対応を検討していたのだった。


 ――



 「あの詐欺(ペテン)師、王たる鈴原 最嘉(じぶん)をも囮として更なる暗器(やいば)を仕込んでいるとは……」


 独りになった阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)は無意識に腰の刀に手を添えて立ち上がった。


 ――尾宇美(おうみ)への真成る援軍は”そちら”だろう


 北か?南か?その選択肢さえもが敵の用意した罠だ。


 戦場の意識をより狭い範囲に集中させ、思考を散漫とさせる。


 適所に小細工をばらまいて戦場を攪乱し続け、いつの間にか戦場を支配する厄介な敵。



 ”それ”は、(かつ)天都原(あまつはら)最高の叡智と崇拝された美姫、”無垢なる深淵(ダーク・ビューティー)”を軍門に降らせ、


 ”それ”は、現在(いま)天都原(あまつはら)最高の謀将である”赤目(あかめ)の妖怪”と互角の情報戦で鎬を削っている。


 その武は、”屍山血河(しざんけつが)”魔人、伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)を屠り、


 その武は、”最強無敗”志那野(しなの)の咲き誇る武神、木場(きば) 武春(たけはる)を打倒した。



 「…………」


 ――辺境の麒麟児、王覇(おうは)の英雄、そして……詐欺(ペテン)


 ――臨海(りんかい)王、鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)とは……


 百伶百利・千軍万馬の畏怖すべき強敵に相違無い!



 だが……



 「尾宇美(ここ)に対抗する(すべ)はある」


 数多の賢者を出し抜きし詐欺(ペテン)には、天才と名高い中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)が、


 戦国世界屈指の武功を誇る珠玉の武術には、この……


 カチャ


 (つか)に添えた手で僅かに鞘内の殺気を震えさせる。


 「どういう類いの鬼であるか……」


 ――鬼を狩る鬼


 ――”戦場の羅刹”


 「愉しみだ」


 阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)は静かに、彼には希な笑みを浮かべていたのだった。


 第三十四話「ふたつの援軍」前編 END

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