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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
奈落の麗姫編
334/340

第三十二話「鉄中錚錚」

挿絵(By みてみん)

 第三十二話「鉄中錚錚(てっちゅうのそうそう)


 「正気か?正面からだと」


 天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)一之太刀(いちのたち)鷹司(たかつかさ) 具教(とものり)が呟く。


 ――日限(ひぎり)熊谷(くまがや) 住吉(すみよし)が城から打って出た!


 臨海(りんかい)領、九郎江(くろうえ)を目指して侵攻する天都原(あまつはら)第二軍は進軍途中でその報告を聞いた。



 天都原(あまつはら)の大元帥、藤桐(ふじきり) 光友(みつとも)の号令により開始された臨海(りんかい)領三方同時侵攻は……


 天都原(あまつはら)軍は戦力を三軍に分けて一軍は(あかつき)中央部にある尾宇美(おうみ)攻め、三軍は中央南部の日乃(ひの)支篤(しとく)の旧南阿(なんあ)領から海路で攻め込み、


 そして――


 鷹司(たかつかさ) 具教(とものり)が率いる、この二軍は天都原(あまつはら)領都の斑鳩(いかるが)から南下し臨海(りんかい)旧首都である九郎江(くろうえ)攻めを行っていた。


 そこで、臨海(りんかい)王である鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)九郎江(くろうえ)城防衛を任されていた日限(ひぎり)熊谷(くまがや) 住吉(すみよし)は、五万の大兵力で攻め寄せる天都原(あまつはら)第二軍に対して半数以下の二万三千の兵力で迎撃戦を敢行したのだ。



 「籠城でなく打って出るとは……玉砕覚悟ということでしょうか?」


 信じられないという表情で総大将の鷹司(たかつかさ) 具教(とものり)に聞くのは真加部(まかべ) 幹生(みきや)、今回の作戦で副将を務める最年少”天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)”である。


 「城を出た敵兵力は一万八千ほどです、このままではあと数刻もせずに我が先行部隊と接触します」


 続いて入る部下の報告に鷹司(たかつかさ) 具教(とものり)は”うむ”と頷いてから指示を出す。


 「敵の意図は解らぬが小細工できる状況ではあるまい。相手は猛将で知られる日限(ひぎり)の蛮族王だ、ならばこの判断も有り得る行動だろう。()(ちら)は浮き足立たずに常道通り対処すれば良い」


 誠に落ち着いて威厳のある言葉に部下達は大いに頷く。


 「行軍中の中央部隊を厚く、後方部隊は押し上げて左右に伸ばし待機させよ、直ぐに動け」


 そして同じく、その方針に大いに納得した若き副将の真加部(まかべ) 幹生(みきや)が、鷹司(たかつかさ) 具教(とものり)に代わって全軍に命令するのだった。


 ――


 ――それから数刻後


 天都原(あまつはら)側の予想通り、鷹司(たかつかさ)軍と熊谷(くまがや)軍は正面からぶつかった!!


 小細工無しの正面衝突である。



 「わぁぁぁぁぁっ!!」


 「おぉぉぉぉ!!」


 最初こそ熊谷(くまがや)軍の勢いで押され気味だった鷹司(たかつかさ)軍であったが……


 中央部分は分厚く、決して突破を許さない鉄壁の防御で応対、


 そして、その間に左右に伸ばした部隊で足が止まり攻めあぐねる熊谷(くまがや)軍を挟み込むように追い詰めていた。


 ――理想的といえる包囲殲滅戦である



 ギィィン!


 「やっぱだめだなぁ、ワンチャンあるかと思ったが敵が無駄に多過ぎだぁぁ!」


 浅黒い肌に獣染みた白い犬歯が特徴の男が、多数の天都原(あまつはら)兵士に囲まれた状況で馬上より槍を振るいながら愚痴を吐く。


 ガキィィン!


 「あるわけないだろうがっ!猪武者の伴右(ばんえ)!」


 そして同じように、敵兵の中で槍を振り回す男が合いの手を入れる。


 ガキィィン!ギィィン!ギャリリン!!


 ――(おさ) 龍左衛門(たつざえもん)(だん) 伴右衛門(ばんえもん)


 数十人以上からの敵に囲まれながらも奮戦する巨漢の二人は、日限(ひぎり)領主である熊谷(くまがや) 住吉(すみよし)の古参武将であった。


 ガシィィ!ドカァ!


 「やっぱ無駄に多いなぁ、このままじゃ……疲れるぞ」


 ドスゥゥ!


 「疲れるだけか!?この戦争(いくさ)馬鹿がっ!」


 次々と襲い来る天都原(あまつはら)兵を斬って、捌いて、突き倒す!


 無駄口を吐きながらも二人を囲む天都原(あまつはら)兵士たちが目的の首を獲れるのは、まだまだ時間が掛かりそうであった。


 「いよいよ不味(まず)いな。おい、伴右(ばんえ)!そろそろ本格的に後退を……」


 「おおおおおおおおっ!!」


 ――っ!?


 ガッ!――――キィィィィィン!


 龍左衛門(たつざえもん)が相棒にそう声をかけようとした瞬間に、刀を振り上げた男が割り込み!


 そして伴右衛門(ばんえもん)に斬りかかったのだ!


 「おおう!?マジか!?ぐぅぅ」


 落馬こそ免れたものの、槍を持った両手が大きく弾かれて!


 (だん) 伴右衛門(ばんえもん)の胸辺りの鎧に大きな斬り傷が入る!



 勇猛で名を馳せる巨漢の(だん) 伴右衛門(ばんえもん)を刀の一振りで仰け反らし、そして当たり所によっては致命傷を負わせるほどの一撃を放った男の正体は……


 「……くそ、浅かったか」


 年若く細身の青年。


 「なんという見事な剣筋だ……この男」


 (おさ) 龍左衛門(たつざえもん)も驚いて目を奪われる。


 「ま、真加部(まかべ)様!!単独で特攻など……御身になにかあったらどうされるのですか!!」


 その男の前に馬を入れ、自重を求める部下らしき天都原(あまつはら)兵士。


 「この者達は大将首だぞ!今、討たねば他に先を越される!!」


 ヒヒィィン!!


 「くっ……真加部(まかべ)……様」


 若武者は馬上で抜き身の刀を振り上げたまま、もう一方の手で馬首を掴んで馬を押し出し部下を()けて前に出る!


 「なんだぁ?”手柄”目当てかぁ?」


 「ふん、若いな」


 機先を制され、圧されそうな展開であった伴右衛門(ばんえもん)龍左衛門(たつざえもん)は一転、呆れ顔でそれぞれが槍を構え直す。


 「…………」


 ――そうだ、耶摩代(やましろ)での失態を私は……早々に汚名を(そそ)がなければならない!!


 「我が名は真加部(まかべ) 幹生(みきや)っ!栄えある天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)九之太刀(くのたち)であるっ!!貴殿らも誇りがあるなら名を名乗れっ!!」


 そして若武者はここぞとばかりに大見得を切る。


 「…………はぁ、まぁなぁ?」


 「ふん、馬鹿らしい」


 呆れたままで顔を見合わせる二人だが――


 「熊谷(くまがや) 住吉(すみよし)が家臣、あ、名前は、(だん) 伴右衛門(ばんえもん)だぁ」


 「同じく、(おさ) 龍左衛門(たつざえもん)


 一応、名乗りはする。



 「熊谷(くまがや)……日限(ひぎり)圧殺王(あっさつおう)の配下か!ああ、ちょうどいいじゃないか!」


 真加部(まかべ) 幹生(みきや)はその名を聞いて嬉々として刀を手に前に出る。


 「無駄にやる気あるぞぉ?どうする、龍左(たつざ)


 「どうするも、この数相手だ。そろそろ後退する潮時だろうが、伴右(ばんえ)


 ドドドドドッ!


 「なにを()()見している!いくぞっ!!」


 ヒュ――――ギィィン!


 「ぐっ!マジで無駄に鋭いなぁ!?この若造ぉ!!」


 ブゥゥン!


 「我らでは十剣(じゅっけん)に適うはずもない!一度離脱するぞ!」


 真加部(まかべ) 幹生(みきや)の剣を受けて()される(だん) 伴右衛門(ばんえもん)と、その幹生(みきや)の後ろから槍をひと突き!牽制してから離脱を図る(おさ) 龍左衛門(たつざえもん)


 スッ――――ザシュッ!


 「ぬ……ぐはっ!」


 だが!背後から攻撃された穂先(それ)をまるで後頭部に目が付いているかの如き最小の動きで(かわ)した幹生(みきや)は、そのまま振り向きざまに龍左衛門(たつざえもん)の伸びた右腕に斬りつける!


 「おお!?龍左(たつざ)ぁ」


 「くっ……かすり傷だ、伴右(ばんえ)


 二人はなんとか落馬だけは免れるが、離脱には失敗した。


 ――


 「ふふ、その程度か?この真加部(まかべ)の剣が敵ではない……」


 若武者の真加部(まかべ) 幹生(みきや)が勝ち誇ってそう言い終わる前に――


 「ぬぉぉぉっ!!」


 伴右衛門(ばんえもん)が槍を突き出す!


 「ふっ、無駄だって言うのが……」


 ヒュルルルル……


 ――――――ガシィ!


 「……え!?」


 槍を避けた幹生(みきや)が言い終わる前に彼の頭上から輪になった縄が降り注ぎ、それがスッポリと幹生(みきや)の同体を両腕ごと縛り上げていた。


 「お、おい……まてっ!?これ……」


 馬上でカウボーイの投げ縄よろしく、緊縛された若武者は――


 「良し!引けぇぇっ!!」


 見計らって龍左衛門(たつざえもん)がそう号令し、馬上の若武者に繋がった縄が数名の兵士によってたぐり寄せられる!


 「ひ、卑怯……」


 ドシャァァァッ!


 「う……うわぁぁ」


 ――――ズズズズゥゥゥゥッ!!


 たちまち、幹生(みきや)は落馬して、さらにに地面を擦って引き回される!


 「こ、この……ひ、ひきょうだ……」


 ズズズズゥゥゥゥッ!


 「い、……いっき……うち……じゃなかったの……がっ!ぎゃっ!」


 地面に着いた体の側を大根おろしの様に削られ、若武者は途切れ途切れに悲鳴を織り交ぜた抗議を喚き散らす。


 「異な事を、誰がそんな古風な申し出を受け入れたか?それに戦場にマナーを守って傍観するお行儀良さなど無いぞ、若者よ」


 (おさ) 龍左衛門(たつざえもん)が答える。


 「一騎打ちなんてぇ代物はなぁ、”お決まり(ルール)”じゃないんだってぇの!無駄に死にそうな戦場でぇ、無駄にそんな酔狂かましやがるバケモノ様共になぁ、俺らみたいな十把一絡げはビビって近寄れないから成立すんだっての!」


 (だん) 伴右衛門(ばんえもん)がケタケタと笑いながら応えていた。


 「ぐ……うぅ……」


 散々に引き回され、刀は手から離れて地面に(みの)(むし)状態で横たわる真加部(まかべ) 幹生(みきや)


 「にしても、流石は十剣(じゅっけん)、桁違いに強いな。普通なら俺達が適う相手ではないが」


 「そうだぁ、だが”真加部 幹生(こいつ)”は怖くないなぁ」


 「うむ。(ゆえ)に我ら如き”鉄中錚錚(てっちゅうのそうそう)”にこうも(やす)く遅れをとるのだ」


 「おおよ、恐ろしく怖くないなぁ、龍左(たつざ)ぁ」


 「言葉がおかしいぞ、伴右(ばんえ)


 二人の巨漢が笑いながら地面に力なく横たわる若武者を見下ろしていると……


 「ぎゃっ!」


 「うぎゃっ」


 「な、なにや……ぐはっ!」


 彼らの後方で何人もの日限(ひぎり)兵士達が瞬時に斬り伏せられ、そして――


 「…………なにをしている」


 そこには、如何(いか)にも面白みの無いといった表情をぶら下げた男が兵を引き連れて馬上に在った。


 「う……こいつは……」


 「大した大将首だぁ……だが」


 そして、それを見て、笑っていた二人の巨漢達の表情は一気に青ざめていた。


 「…………日限(ひぎり)雑把(ざっぱ)共か」


 情けない状態の真加部(まかべ) 幹生(みきや)にチラリと一瞥だけくれて、そして男は二人の巨漢と、その兵士達を真正面から捉える。



 ――天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)一之太刀(いちのたち)、”鷹司(たかつかさ) 具教(とものり)


 押しも押されもせぬ、天都原(あまつはら)軍で最上級の将であり戦士である。



 「ほ、本物は違うな……くっ」


 「む、無駄にちょうこえぇぇ……」


 (おさ) 龍左衛門(たつざえもん)(だん) 伴右衛門(ばんえもん)は手柄どころか、これで撤退も不可能になったのだと心の芯から恐怖を感じていた。


 「完全に包囲した。貴様らに残された道は全滅しかない」


 鷹司(たかつかさ) 具教(とものり)が馬上から睨み付け、殲滅の号令を掛けようとした時だった。


 ――


 ドゴォォォォォンッ!!


 「ぐぅぅっ」


 「わぁぁぁぁぁ!!」


 ひゅぅぅぅぅぅ――――――ボトッ!ボトッ!ボトッ!


 終結へと向けて進んでいた戦場(そこ)に、空宙(そら)から人間(ひと)が降ってくる。


 ズドォォォォォォンッ!!


 「ひゃぁぁぁ!」


 「ぐはぁぁっ!」


 ひゅるるるるる――――――バタッ!バタッ!バタッ!



 「…………」


 鷹司(たかつかさ) 具教(とものり)がその残骸たちの確認をしてみれば、それらは全て天都原(あまつはら)軍兵士たち。


 ザシッ、ザシッ……


 「よく来たなぁ、天都原(あまつはら)のお偉いオッサン」


 仰々しい重装鎧(プレートメイル)を装備した上背のある偉丈夫、熊の様な破格の大男が笑いながら巨大な鉄塊を屈強な肩に担いで現れる。


 「ひっ!」


 「うわぁっ!」


 ガシャ!ガシャ!ガシャ!


 途端に日限(ひぎり)軍を囲んでいた天都原(あまつはら)兵士達の一部、大男の前から鷹司(たかつかさ) 具教(とものり)までの兵士達が、まるでモーゼの奇跡のように別れて逃げ惑い、労せずそこまでの道が出来上がっていた。



 「今日の天気はなぁ、曇りのち天都原兵(ひと)、時々”鷹司 具教(オッサン)”の首が降るらしい……ぜぇ?」


 巨大な凶器を担いだ巨漢は小国群がひとつ、日限(ひぎり)領主の熊谷(くまがや) 住吉(すみよし)であった。


 「ひ、ひぃぃ」


 「ば、ばけも……の」


 ()()()た鉄の塊を担いだ大男。


 群がる天都原(あまつはら)兵士を(ひと)(まと)めに天に(はじ)き飛ばす規格外の巨人。


 血の雨を降らせ、その赤黒さに凶器の鉄塊と狂気の巨体を染め上げた恐ろしい笑顔で堂々と敵中を闊歩する”圧殺王(あっさつおう)”に……


 「ぬかすな、辺境の蛮王が。貴様ら反乱者が息絶える吉日は常に晴天ぞ」


 天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)一之太刀(いちのたち)鷹司(たかつかさ) 具教(とものり)は眉間に影を落としたままで吐き捨てたのだった。


 第三十二話「鉄中錚錚(てっちゅうのそうそう)」END

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