表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
奈落の麗姫編
332/340

第三十一話「堅塞固塁」前編

挿絵(By みてみん)

 第三十一話「堅塞固塁」前編


 「数に劣る上に奇襲にも()く守る……」


 支篤(しとく)と本州を()ける天南(てな)海峡――


 そこに浮かぶ小幅轟(おのごう)という小島に(そび)え立つ大要塞にて――



 剃り上げた頭にへの字に堅く結ばれた口の、如何(いか)にも寡黙で偏屈感が漂う男が呟いた。


 「……」


 対してその横に立つ、更に輪をかけて無骨そうなスキンヘッドの男は無言だった。


 ――


 この頃、臨海(りんかい)の領土である日乃(ひの)に海路から攻め込んだ数倍する天都原(あまつはら)軍をなんとか海岸線で防いでいた臨海(りんかい)軍は十分に奮闘していると言えた。



 「日乃(ひの)を守るのは”伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)”という十四、五の小童(わっぱ)と聞くが。これもあの”南阿(なんあ)の英雄”の血が成せる(わざ)か?」


 自分でそう言いながらも、この偏屈そうな男はそう思っていない。


 「……」


 そしてそれを”ある理由”から完璧に理解しているであろう、もう一人の無骨な男もまた敢えて返事はしなかった。



 今回の日乃(ひの)攻め総大将を務める天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)六之太刀(ろくのたち)織江(おりえ) 慈斎(じさい)は武の道一本で現在の地位を手にした剛の者で、世間一般で有り難がられる”生まれによる高貴さや根拠の無い才能”などには興味も無いのだ。


 ならば――この状況を維持出来ている現実(リアル)の原因は……


 「有馬(ありま) 道己(どうこ)……」


 ”織江(おりえ) 慈斎(じさい)が何を言いたいのか”


 それを完全に理解している隣の無骨な男が誰に言うでも無く呟いた。


 「…………そうよな。それが正解であろう」


 そして織江(おりえ) 慈斎(じさい)()(ちら)も特に振ったわけでも無い返答に独り言のように呟く。


 「確か、(ぬし)の元、同僚であったな。どのような男だ?」


 続けて織江(おりえ) 慈斎(じさい)は独り言の延長線上の様な口調でチラリと視線だけを横に移す。


 受けて――


 スキンヘッドの無骨な男、織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)は……


 「何でも(こな)す男だ。()れと言って欠点が無い」


 (しか)(づら)が平常の素っ気ない返答。


 「……成る程」


 こうした特徴が”まんま”同種である織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)織江(おりえ) 慈斎(じさい)


 受けた慈斎(じさい)も素っ気なく再び視線を前に向けた。


 このように、ここまで誠に面白みの無い、要点だけの会話である。



 「(ぬし)がそこまで評価するとなれば侮れん。”南阿(なんあ)三傑”とは名ばかりではないか」


 (かつ)支篤(しとく)の小国であった南阿(なんあ)を率いて島を統一、大国である天都原(あまつはら)を煩わせるほどの国家にまで成り上がった南阿(なんあ)の英雄、”風雲児”と呼ばれし伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)


 その代表的な臣下は――


 総大将補佐、有馬(ありま) 道己(どうこ)


 艦隊司令官、長谷部(はせべ) 利一(りいち)


 そして今現在、織江(おりえ) 慈斎(じさい)が問うているスキンヘッドの無骨な男……


 剣豪、織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)という三英傑を世間は総じて”南阿(なんあ)三傑”と呼んでいた。



 「我が天都原(あまつはら)の海軍部隊を率いるはその長谷部(はせべ) 利一(りいち)だが、どうだ?」


 「問題無い。海戦に限っては(あかつき)でも有数の猛者だ」


 元、南阿(なんあ)一刀斎(いっとうさい)に確認する織江(おりえ) 慈斎(じさい)は希望通りの応えに頷く。


 「しかし……(かつ)ての大戦から領土を逆にしての再戦、しかも相手は当時の天都原(あまつはら)軍総大将にして総参謀長であった”紫梗宮(しきょうのみや)”の嫁ぎ先とは因果なものよ」


 「……」


 そのまま会話を続ける織江(おりえ) 慈斎(じさい)の言葉に織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)は反応しなかった。


 性格通り、(いくさ)に直接影響の無い雑談には興味が無いという現れだ。


 「(ぬし)もじゃぞ?一道(かずみち)


 対して――


 普段の無愛想とは違い、織江(おりえ) 慈斎(じさい)何時(いつ)になく饒舌である。


 「…………その名は海に捨てた」


 仕方なく一刀斎(こちら)も応えるも……


 (そもそ)もこの二人は愛想というものを忘れて生まれてきたような(やから)達である。



 「そうであったな。(ぬし)天都原(あまつはら)を去って十年以上、随分と面相も変わった様だが……どうだ?」


 「どう……とは?」


 だが、それでも、この難儀な性格の二人でここまで会話が成り立つのも、やはり血の成せる(わざ)なのかもしれなかった。


 「”剣理”を求道(ぐどう)すると大言壮語して天都原(あまつはら)から出奔し、命を賭し姿形が変容する程の覚悟で海を板きれ一枚のみで渡った先で、(ぬし)は一体”なにほど”を得た?結局は国家を、主君を変えただけではなかったのか?」


 剃り上げた頭にへの字に堅く結ばれた口、如何(いか)にも寡黙で偏屈感が漂う男……


 天都原(あまつはら)十剣(じゅっけん)六之太刀(ろくのたち)織江(おりえ) 慈斎(じさい)


 織江(おりえ)一刀流剣術の開祖にして織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)の実父である男は、恐らくそれこそがこの久方ぶりの父子(おやこ)による会話の意味であると、土足で踏み込む。


 「…………」


 「(ぬし)には我が一刀流、”妙剣”・”絶妙剣”・”真剣”・”金翅鳥王剣(こんじちょうおうけん)”・”独妙剣”という全ての奥義を授けてやったが(いま)だ足りぬと……」


 「敵を打たんとする心が相手の心に写るのみ」


 「なに?」


 「(おや)()殿の剣は”剣理”、(いな)、”剣如(けんにょ)”とは程遠い粗蛮(そばん)の剣だと得心したと語っておるのだ」


 「……」


 「……」


 無言になる二人。


 どちらも本来は寡黙な男(ゆえ)に、その緊張感は半端ではない。


 「ふん……言うは(やす)いな、一道(かずみち)臨海(りんかい)の若造に(ひね)られたと伝聞(きき)及んでおるが宗旨替えか?」


 「変わったのでは無い、(ひら)けたのだ」


 「……」


 「……」


 またも黙り合う父子(おやこ)は――


 「まあ……良いだろう。それより目前(まえ)(いくさ)だ。こうして軍の中枢に(くすぶ)って()るならば(ぬし)とて口ほどの役に立つのだろうな」


 「……………………無論だ」


 こうして終始に()いて無愛想な表情のまま噛み合わぬ二人であったが――


 しかし、臨海(りんかい)領・日乃(ひの)への攻撃は想定以上に順調に進んでいたのだった。


 ――



 攻守(ところ)、切り替わって――


 攻撃を受け続ける臨海(りんかい)軍は日乃(ひの)領、覧津(みつ)城の中――



 「敵先行部隊は第一から第六艦隊まで、艦艇おおよそ五百三十隻ほど!須佐(すさ)海岸沖にて我が城を包囲せんと展開中です!!」


 その報告が入って四日目……


 「兵数にして五万近く、予備兵力を残して殆どで攻め込んで来たと考えるべきでしょう」


 立派に整った髭の将、有馬(ありま) 道己(どうこ)が主君に見解を述べる。


 「那知(なち)城および堂上(どのうえ)城との陸上での連携は問題ありませんが、この位置を押さえられ海上輸送路となると……」


 迅速果断!実に絶妙な場所に布陣する。流石は”長谷部(はせべ) 利一(りいち)”であると、有馬(ありま) 道己(どうこ)は心中で元、同僚を称えつつも――


 「猪親(いのちか)様、ここは先ず海岸線の守備を固めつつ、陸路堅守の為に各城主との連絡をいち早く取るべきかと」


 現状で成すべき事の優先順位を促す。


 「わかっちゅう……解っている。けど兵力的にそんなには……」


 臣下の指摘に、少女の様な見た目の弱々しい印象の少年、伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)は頭を抱えた。


 臨海(りんかい)日乃(ひの)部隊は須佐(すさ)海岸に構築した防衛戦のためにかなりの兵力を動員していた。


 「陸路は我が勢力圏内です、要点だけ押さえればそう兵力は要りません。派遣されております加藤(かとう) 正成(まさなり)殿のところから内谷(うちや) 高史(たかふみ)殿を現地に向けて貰いましょう、機転も利き戦場を細やかに見渡せる彼ならば適任でしょう」


 道己(どうこ)は主君の懸念などは改めて探るまでも無いと、既に人選までも済ませて整えていた。


 「う……そうか……よし、直ぐに内谷(うちや)殿を……と、内谷(うちや)殿が属する白閃(びゃくせん)隊は……う、うん!白閃(びゃくせん)隊なら少数でも拠点の確保ができる!!」


 近隣諸国に恐れられる”臨海(りんかい)終の天使(ヴァイス・ヴァルキル)”こと久井瀬(くいぜ) 雪白(ゆきしろ)が抜けている現在の白閃(びゃくせん)隊であっても――


 副長の武知(たけち) 半兵(はんぺい)、そして(おか) 伊蔵(いぞう)灘沖(なだおき) 伸太郎(しんたろう)と逸材は多数在籍する。


 指名された内谷(うちや) 高史(たかふみ)が参謀を務める白閃(びゃくせん)隊の少数精鋭の最も有効な使い道に、臣下に上手く導かれて辿り着けた若き将は指示を出す。


 「は!猪親(いのちか)様、早速そのように手配致します!」


 そう応じて頭を下げた髭の立派な将は満足げに口元を緩めるのだった。


 そして――


 「…………」


 ――とはいえ機先を制せられたのは痛い!


 本国からの援軍には如何(いか)ほど時がかかるのだろうか?


 いや、(そもそ)もここ日乃(ひの)出陣()せる余力はあるのか?


 ――どちらにしても正念場だ!


 ――ここからどう巻き返したものか……


 元、南阿(なんあ)古参の名将にして現在(いま)臨海(りんかい)の保護の(もと)南阿(なんあ)復興の志を燃やす若き後継者の補佐たる有馬(ありま) 道己(どうこ)はこの後の展開も仕事が山積であった。


 第三十一話「堅塞固塁」前編END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ