表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藤吉郎におまかせあれ  作者: ヤブ医者
上洛将軍擁立編
25/35

心の内

第1章 三人衆


織田軍 本陣


9月26日、信長は義昭を迎え入れ琵琶湖を渡り大津に入った。

まず信長達は東福寺に本陣をしいた。

そして今は軍議のまっ最中だ。

「まず落とすべきは勝竜寺城だ」

信長が言った。

それは皆も総意の事でコクコクと頷いている。

「ですが勝竜寺城を守るは三好三人衆の一人岩成友通。手強いでしょう」

恒興が言う。

三好三人衆とは三好長慶死後に活躍した三好家の重鎮達の事でそれぞれが絶大な権力を有していた。

無論そこまで登り詰める程の実力はあるのでとても手強い。

だが勝てない相手じゃない。

その時、

「その任、某にお任せください!」

名乗りを挙げたのは勝家だった。

「勝家か、確かにお前なら任せるな」

「ならば!」

「あぁ、勝家お前に兵と可成そして猿をあずける。それで勝竜寺城を落としてこい」

「はっ!」

勝家は頭をさげた。

これで軍議が終ると思われたその時、

「あっ!あっにうえーっ!」

一人の女性が勢い良く飛び込んできた。

皆その女性に驚いた。

そうそれは、

「い、市様ーっ!」


東福寺 一室


先程市が激励だと言って訪ねてきた。

だがあの場で大騒ぎされるのもあれなので信長ど長政と市と俺で別の部屋に移った。

「市、何故に来たのだ?」

長政が聞いた。

「だって、長政様や皆が心配だったのです」

市はそう答えた。

市様、久しぶりに会ったな…。

確か今は一児の母か、母親になっても市様は市様だな。

『猿、お主の事好きになった』

そんな俺を過去の思い出が襲った。

だめだ、忘れよう…。

その時、

「猿も久しぶりだな!元気であったか?」

と市に言われた。

あまりの不意打ちに俺はビクッとしてしまった。

「あっ、ははい!元気でした…」

「なんじゃそんなに驚いて?」

市は怪訝そうに呟いた。

そこに長政が、

「来てしまった物は仕方がないしばらくここにいることを許そう…」

と言った。

市は表情を急に明るくさせ、

「誠ですか!?ありがとうございます長政様!」

と言って長政に飛び付いた。

「そうとう長政を気に入ったんだな」

信長も何やら愉快そうだ。

そうだな、市様にはもう長政様がいる変な気などもう持っていないだろう。

「猿っ!?行くぞ!」

市はいきなり俺の袖をグイと引っ張った。

「え、行くってどこに?」

「散歩じゃ!昔みたいにな!」

俺は市に引っ張られるまま部屋から引っ張り出されてしまった。

市が部屋からでると、部屋はたちまち静かになった。

長政が、

「お二人は仲が良いのですね」

と言った。

「そうだな、市は昔から猿にべったりだった。不快なら止めるぞ?」

「いえ、いいんです。微笑ましいではありませぬか?」

長政は不適な笑みを浮かべた。


「市様っ!?ねぇ、市様!ちょっ、どこ行くんですか!?」

俺は市に引っ張られるまま寺を出て近くの森に入った。

日は傾きかけ空は紅く染まっていた。

「市様っ!危ないですよ。襲われるかもですよ!」

「そうなればお主が守ってくれるのであろう?」

「それも限界があります!ましてやここは敵のど真ん中どこに敵がいるか?」

「大丈夫だ!お主は強い」

「でも市様はもう長政様に嫁いだ身じゃありませんか?」

俺のその言葉に市は足を止めた。

「市様…?」

俺は市の顔を除き混んだ。

夕日に染まった市の顔は酷く儚く俺の胸まで締め付けられた。

「確かに、確かにっ!わらわは長政様に嫁いだ…。だがあの日の事忘れたとは言わせぬぞ!」

市は吐き捨てる様に言った。

「市様…!」

「あの日の事わらわは1度たりとも忘れた事は無い。あの日ほど緊張したことは無かった!わらわはあの日の気持ちお主に伝わったと信じている、だから頼む…!忘れないでくれっ!」

市のその瞳は心なしか潤んでいる様に見えた。

「市様…。俺は、俺だって!忘れた事無いです…。ずっと胸に引っ掛かってた」

「猿…!そ、そうじゃこの先に見せたい景色があるのじゃ共に行こう!」

市は再び歩き出した。

市様…。

あの日の言葉はただの戯れじゃ無いんですか?

また、俺の前から消えるんですか?

「大分、名をあげた様だな…」

「え、あぁはい。昔に比べればそうとう功をあげました」

「そうだろうな、最近はどこに行ってもお主の名を聞くようになった」

「まだまだです」

「そうだな…。まだまだだ」

市は俺に沢山の事を聞いてきた。

昔と同じだ攻め手はいつも市様で俺はいつも受け身。

でも少し、一歩だけ踏み出してもいいですか?

俺にだって聞きたい事は一杯ある。

近江はどうですか?

長政様とは仲良くやってますか?

赤ちゃんは可愛いですか?

子育てはちゃんと出来てますか?

今、どんな気持ちですか?

俺にもう少し勇気があれば聞けるのに…。

いつも逃げてばかりの俺を許してください。

そんな事をしていると開けた崖に出た。

俺はその景色に目を見張った。

崖下に広がる京の町が夕日に輝き美しく瞬いていた。

「綺麗だろ?」

市は俺に訊ねた。

「はい、綺麗です…」

俺は心からそう答えた。

それからしばらくその景色を見ていたが市が突然語り始めた。

「近江に行ってからもお主の事が好きだった。もちろん長政様も好きだ。わらわはズルい奴なのだ…」

「ズルく何かないと思いますよ」

「そうか?そう言ってくれるなら嬉しい…。ならば一つだけお願いを言っていいか?」

「お願い?」

「ずっとお主がわらわの事を好きになってくれれば良いと思っていた。それならば何れだけ楽だったか?」

「…」

「だから頼む…。わらわの事好きになってはくれぬか?」

俺はその言葉に耳を疑った。

何て答えれば良いんだ?

素直に言えば良いのか?

あれ、何で俺は迷ってるんだ?

おいおい、俺にはねねがいるだろ!

俺は…、俺は市様の事好きなのか…?

「市様…!」

「気にするなっ!ただの戯れじゃ…!」

市は俺の言葉を遮った。

市はいつものハイテンションに戻ると、

「さぁ!帰るぞ猿っ!」

と言って歩き出した。

俺はそんな市の背中を見ながら。

市様…、貴女はやっぱりズルい人だ。

貴女のせいで気づいてしまった…。

気づいてはいけないのに…!

俺は市の後を追った。


結局あの後の市様はいつもと変わらず騒ぎながら寺に帰ってきた。

「戻ったか市」

寺に着くと長政が出迎えてくれた。

市は、

「はい、長政様!されど少し疲れました。わらわはしばらく部屋で休みまする」

「そうかゆっくり休め」

市は自らの部屋に行ってしまった。

俺には市が俺から逃げたような気がしてなんだか悔しくなった。

その時、

「市は良いおなごだろう?」

と長政が言った。

「そうですね、市様は本当に美しい女性です」

「そうじゃな。お主市と相当仲が良いのだな?」

「そうですか?そうでも無いですよ」

「ふっ、左様か…」

「何を言いたいんですか?」

長政は明らかに何か言いたげだった。

「ばれていたか。お主に一つ質問があってな」

「質問?」

「あぁ、もし俺が信長を裏切ったら市はどうなるだろうな?」

その質問に俺の堪忍袋は音をたてて切れた。

ガキンっ!

気がつくと俺は抜刀し長政に切りかかっていた。

長政はそんな俺の凶剣をギリギリの所で刀で防いでいた。

「織田の一家臣が大名に抜刀?身分違いにも程がないか!?」

長政は俺を蹴り飛ばした。

「うるせぇ!信長様を裏切る!?そんな事をしたら市様にどれだけの傷がつくかわかってのかぁ!」

「あぁ、わかってる。だがお前もタイムトラベラーなら分かるだろ?俺の未来、市の未来!」

「そんな事はどうでも良い!本当に好きなら歴史くらい変えちまえっ!」

「じゅあお前はそれできてるか?」

長政のその言葉に俺は固まった?

俺が出来てるか?

何を言ってる、別に俺はする必要はないはずだ!

長政は続ける。

「お前は自分に嘘をつき続けてる」

「俺が…?」

「認めたらどうだ、お前は市の事を好いている」

その瞬間俺の頭は真っ白になった。

「うぉーっ!」

気がつけば俺は雄叫びをあげながら長政に突進していた。

殺す、殺すっ、殺すっ!!

俺の刀が長政を捉えたその時。

バスっ!!

背中に凄まじい衝撃が走った。

その衝撃に俺の体は地面に叩きつけられる。

いってぇ!

長政は俺を峰打ちした。

首筋に殺気に満ちた切っ先を突きつけられた。

「勢いと気持ちだけじゃ俺は倒せないってお前が一番分かってるだろ?」

「うるせぇ!信長様を市様を危機に落とそうってんなら、腕斬られようが目潰されようがお前の事追っかけ回して殺す!」

「ふっ、血の気の多い事だ。安心しろあれはただの戯れだ」

長政はそう言うと俺の首筋から刀を離した。

俺は危機が去ったので立ち上がる。

「戯れだと?今更そんな事信じられるか!?」

「信じないならば信じなければ良い。ただ俺は市を愛している、それにこんな時代で死ぬ何てごめんだ。出来ることならば元の時代で静かに死にたい」

長政のその言葉は妙に説得力があった。

それに俺は分かっていながらも市の名を口にされると何も出来ない。

俺は、

「裏切ったら俺が真っ先にお前を殺しに来るからな…!」

「ふっ、安心するのじゃ。わしは裏切らない、ましてやお主に等殺られん」

そう言いながら長政は去っていった。

まただ、また騙された。

とり逃がした。

戯れ…?

そんなの嘘だ、タイムトラベラーだろうと長政は長政なんだ。

止めないと、信長様や市様が傷つく。

でも止めて良いのか?

歴史を変えることになる、それは今まで俺がやって来た事を否定することになる。

どっちを取るべきなんだ?

戦が近づく。

果して俺はこんな気持ちで戦に出て大丈夫だろうか?

俺は今回の戦、生きて帰れるだろうか?

俺の中で今まで忘れていた戦への恐怖が甦った。

だが時間は無情にも過ぎて行く。

藤吉郎は再び戦いの渦に放り込まれるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ