観音寺城の戦い2
第1章奇襲
織田軍 本陣
織田軍では今圧倒的戦力差を有していながら吉田出雲率いる箕作城に押されている事について軍儀が開かれていた。
「まさか敵の勢いがここまで強いとは…」
そう苦々しく言ったのは家康だった。
確かにそうだ、敵の士気は予想以上に強くそう簡単には折れそうに無い。
「強いのは勢いだけでは無い!地形、設備、そして吉田出雲の采配全てに我らには不利なのだ」
長政が反論した。
現在我々が戦っているのは敵の拠点箕作城の目の前でありそれは敵の圧倒的有利を意味する。
それを承知で戦っているんじゃなかったのか…?
俺は心中で悪態をついた。
俺がこうして軍儀を静観しているのは俺の中にこの戦に勝つる確たる策が浮かんでいるからだ。
今はそれを口にするタイミングを見計らっている。
だがそれも時期にくる、既に信長が俺の異変に気がついている。
その時は直ぐにやって来た。
「猿、今日は静かだな?何かあるのか」
来た…!
俺は体を傾け信長に向いた。
そしてそれを口にした。
「信長様、俺に兵を預けてください」
「ほぅ、何かあるのか?」
「はい、『夜襲』です!」
周りの奴等がどよめいた。
「夜襲じゃと!?箕作城までは山道あたりは暗がりで何も見えぬぞ」
「それじゃあ近ずく事すらできない」
みんなが反論を口にする。
だが俺は、
「大丈夫です。山の中腹まで松明を配置し攻め上がる時に一斉に火をつけます。そうすれば灯りにもなりますし敵の士気もくじけます」
と言った。
さっきまで散々喚いていた家臣達が一様に黙りこくった。
「決まりだな…。猿、お前に500の兵を預ける」
「5、500ですか?」
「何だ足りないか?」
「逆です。300で十分です」
俺は意気揚々と言った。
信長は、
「ふっ、分かった。300の兵を貸そう、それであの箕作必ず落としてこい」
「はっ!」
落とすさこんな城、こんな戦さっさと終わらせよう。
箕作城 物見
「退屈だな」
箕作城の物見は物見櫓の上であぐらを書いていた。
「まぁ、そう言うな」
「でもよう休めるのも今くらいなのに俺も休みてーよ」
物見の一人は溜め息をついた。
このとき既に松明の設置は終わっていて後は攻め込むのを待つばかりとなっていた。
箕作城 中腹
兵士達は山の地に体を張り付け攻め上がる時を今か今かと待ちわびていた。
だがその時は順調に迫る。
あぁ、素直に500の兵を貰っとけば良かったな、そうすれば犠牲は減っただろうか?
選択しなかった未来は誰にも分からない。
俺達はただ選択した未来を突き進むだけだ。
さぁ、戦だ…!
「松明点灯っ!!」
俺の声と共に松明に一斉に火が灯る。
「全員っ!突撃ーっ!!」
『うぉーっ』
全員が箕作城目掛けて突撃を敢行する。
どうだ箕作守備隊?
どうだ吉田出雲?
どうだ池田勝正?
この景色お前達にはどう見える?
俺は、俺達にはスゴい綺麗だぜ!
「前方!門確認!」
「門を破れっー!」
ガッシャーん
門は誰も抑えて居なかったのか一押しで破れた。
『駛馬衛門!一番のりーっ!』
続々と城内に兵が突っ込む。
みな足は止めない、彼らが足を止めるときそれは即ち死を意味する。
「本丸だ!てんっぺん目指せ!」
俺も必死に声をあげる、敵を斬る。
凄まじい乱戦だ!
こんな戦見たことがない。
そこには切羽詰まった両陣営の兵士達が入り乱れ、生き延びる為に死力を尽くして戦う、そんな風景が広がっている。
いつぞやの英雄よこれこそが『聖戦』だ!
本気の命の奪い合いこれこそが戦の本当の姿であり聖戦なんだ!
『敵将討ち取ったぁっ!』
『首もらい受ける!』
あちらこちらで首があがる、それは敵だけでなく味方も。
無駄にはしない、失われた命!
「うぉっー!!」
俺は雄叫びをあげ本丸目掛けて駆け出した。
立ちはだかる敵を切り捨て、牙を向く武器を撥ね飛ばし。
俺は進む、死なない為に!
その時、
「ここから先は行かせん!」
目の前に立ちはだかったのは勝正だった。
「邪魔だぁーっ!」
俺は勢いで押しきろうと、高く跳んだ。
俺は空中で勝正と睨み合った。
ガッキンッ!
刀と刀がぶつかった。
「愚かな、勢いではわしは倒せん!」
勝正はそう言うと俺を吹き飛ばした。
くっ、やっぱりな…。
でも俺は先へ進む!
「やぁーっ!」
俺はまた突進する。
ガッキンッ!
激しい打ち合いになった。
くっ!はやい!
でも何か違う見えてる!
刀筋が見える、これならまだ勝ち目はある!
その時俺の目の前に小さな光が指した。
ここは、がら空きだ!
俺はすかさずそこに打ち込んだ。
ガキんっ!
だが勝正はそれをギリギリで防いだ。
だが反動で吹き飛ばされた。
「へっ、今回は俺の勝ちだな!」
俺はそう言い残しその場を急いでさった。
ただ一人残された勝正は呆然としていた。
「まさか…!あの技は、神陰流のものだぞ!」
勝正は小さく呟いた。
まさか…な!
この短時間でしかも見ただけで出来る事ではない。
「はぁはぁ、まだか?本丸…」
俺は天守を探した。
だが炎による煙と砂ぼこりによって視界が相当縮まっている。
何も見えないな…。
走るか…!
その時だった。
「まて藤吉郎!」
後ろから声を掛けられた。
「師匠、どうしたんですか?」
それは利家だった。
利家は馬に乗っていた。
そしてそれとは別にもう一頭の馬を牽いていた。
「馬を連れてきた。これですこぶる楽になるじゃろ?」
「あ、ありがとうございます!助かりますよ」
「いいんじゃ。ほれ乗れ、行くぞ!」
俺は馬にまたがった。
すると師匠が、
「なぁ藤吉郎よ。本丸まで競争といかぬか?」
「良いですね?負けても知りませんよ」
俺達は一斉に馬を走らせた。
「なぜだ?某の策は最高だったはず…。なのになぜこうなるのだ!」
広間で吉田出雲は声をあらげた。
「出雲様の策は最高にございます!織田勢など直ぐ様退きまする!」
一人の家臣が宥めるように言った。
だが出雲は、
「そんな事はわかっとる!口を動かすならば腕を振るえ、さっさと戦ってこい!」
と言いながらその家臣を撥ね飛ばした。
「おのれ織田!わしに恥をかかすとは直ぐ様ここで死ね!」
ドダドダ!
広間の外が何やら騒がしくなり始めた。
『と、とまれっ!』
バダバダ!
「な、何の音だ?」
出雲をはじめ広間の者たちは浮き足だった。
その時!
ガッシャーんっ!!
二頭の馬が広間の壁を突き破り広間に飛び込んできた。
「いってぇーっ!でも俺の勝ちでしょ師匠?」
「あ?何を言っとる、わしの勝ちじゃ!」
そうそれは利家と藤吉郎だ。
出雲はそんな二人に、
「お、お主ら何を考えておる!馬から降りよ、無礼じゃないか!」
と怒声を飛ばした。
「は?無礼は貴様じゃ、わしを誰と心得る!?」
利家は出雲の首に槍を突きつけた。
出雲が、
「あ、あぁ…。まてっ、待ってくれ!」
と怯えていると。
利家は
「わしは天下人一の家臣になる前田利家ぞ!」
と叫んだ。
『ふざけるな!』
『殺してやる!』
その場に集まっていた出雲の家臣が利家に牙をむいた。
それには俺が馬上から刀を振るって応戦する。
『ぐあっ!貴様ぁっ!』
「ふっ!今はうちの師匠が腕振るってんだ邪魔はさせない!」
俺は敵を睨みつけた。
馬上からという威嚇もあって敵は全員怖じ気づいた。
さぁ、師匠好きに殺ってくれ。
俺の思いが通じたのだろう利家が語りはじめた。
「どうじゃ?死を目前にした気分は?」
「お、おのれぇ!野蛮な猿め!」
「猿か、それはわしの後ろにおるやつじゃ。我らが猿ならば差し詰お主らはそれに食われる水菓子といったところか…」
「み、水菓子じゃと!ふざけるな、尾張等という貧しき大名など我らの…!」
「生まれだ出身だ!そんな者に捕らわれる世はとうに終わった、新しき世の始まりよ。信長様のつくる人の中身で人が格付けられる世のな…」
「中身じゃと…?」
「あぁ、そしてその戦に負けた者は…。死ぬのみ!」
利家は槍を振り上げた。
「ま、まてっ…!」
ドスっ!
出雲の腹に槍が突き刺さった。
「ぐ、ぐふぅ!おのれぇ…。新しき世など、来ぬ…!そんな世、我らが…滅ぼして、やろうぞ…!」
ズシャっ!
利家が話を聞き終わる前に出雲の首を飛ばした。
「往生際が悪いは、死ぬなら武士らしく潔く逝け」
『と、殿ーっ!!』
家臣の一人が取り乱した。
それ以外の家臣も顔が青白くなりポカンと胴から切り離された出雲の首を見据えていた。
だが誰一人として俺達に牙を剥く者はいない。
俺はそんな家臣達に、
「お前ら全員武器を捨てて降伏しろ!」
と促した。
すると、
ガシャッ!ガシャッ!
と家臣達が次々と武器を捨てて降伏を始めた。
ここにこの戦の織田軍の勝利が決定した。
夜があけた。
長い夜だった。
俺は辺りを見回した。
辺りには大量の死体が転がっていた。
それはこの戦がいかに激戦だったかを物語っている。
「勝ったな…」
利家はしみじみと言った。
「でも死にすぎです…」
「あぁ、この戦は人が死にすぎた…」
「俺達はこの沢山の骸を踏み越えなければならないんですか?」
「踏み越えられる分けなかろう」
「え…?」
「踏み越えるには多すぎる、じゃが我らは進まねばならん。そう無理をする必要もないとわしは思うぞ」
「じゃあどうすれば?」
「抱えていけば良い。我々じゃなくても、その者の父母でも父母がいないのなら兄弟がそれも居なければ友がそれでも居ないなら我らが抱えれば良い。天涯孤独な者などそうおらんのだからな」
「師匠…。そうですね、師匠にも俺にも抱えてくれる人がいる。抱えてやれる人もいる、だから戦えるのかもしれませんね?」
「そうじゃな…。よし我らは行くぞ死んでいった者を抱えて、この先に…。殿の天下に!」
「はい、戦の無い世に!」
二人は天高く刀を突き立てた。
その日本の刀は悲しみに明け暮れる将兵を生き返らせ次の戦いへといざなった。
戦いは次の舞台へ…。
大和争奪戦が今始まる。




