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藤吉郎におまかせあれ  作者: ヤブ医者
上洛将軍擁立編
23/35

観音寺城の戦い 1

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@soutatym3

第1章 開戦


1567年9月7日、信長は遂に軍備を整え六角家が支配する南近江に進行した。

その数約60000人。

これを迎え撃つ六角軍は約11000人、兵力には明らかな差があった。

まず織田軍は愛知川に布陣し策をたてる為に軍儀を執り行っていた。

「やはりまずは和田山城から攻めるべきだろう」

恒興はいぶかしげに言った。

「そうですな、観音寺と箕作は恐らく相当堅固じゃろう、それに比べ和田山はこの二つに比べれば守りは薄い。まずは佐和山を落とし敵の士気をさげるのが良いじゃろう」

恒興の意図を汲み取ったのは利家だった。

他の者も二人の意見に賛成していた。

二人を除いては。

和田山城…。

確かにこの城は地理的にも規模的にも他の二つに比べて弱い、でもこの城の利点それは観音寺と箕作との距離…!

これは佐和山のと言うよりこの地域のと言うべきだろう。

距離的に観音寺と箕作から和田山までは一夜でつける。

もし和田山が囮で攻撃され次第他の二つから兵をだし挟み撃ちにするのが狙いなら、俺達は敵の土坪にはまり成す術もなく総崩れとなる…。

俺にはその未来が見える。

伝えなきゃ!

「待ってください。その策は止めるべきです!」

俺は声をあげた。

皆がこちらを向いた。

怪訝そうな顔をするもの、煩わしそうな顔をするもの、様々な視線が俺に突き刺さった。

俺はその視線に負けない様に強気で言った。

「恐らく佐和山は囮です!この三つの城の距離感を見てください。観音寺と箕作から和田山までは一夜でつけます、もし佐和山が囮で攻撃され次第他の二つから兵を出して挟み撃ちにするのが狙いなら我々は確実に負けます!」

俺のその堂々とした態度に辺りの皆の目付きがかわった。

「じゃあ、どうする?」

信長は俺に尋ねた。

「軍を三つに別けましょう…」

俺は静かに答えた。

皆がどよめいた。

だがこれはいつもと違って肯定のどよめきだった。

「確かに我軍は数が取り柄、それ活かさずにはいられまい」

と一鉄。

「そうじゃ、その為ならば軍を別けて複数の城を同時に攻めるのが一番…!」

利家も太鼓判だ。

そこに勝家が、

「それにこれならば敵の裏をかける」

皆申し分無いと言う様子だ。

反論は上がらない。

「きまりだな…。勝家は観音寺、稲葉は和田山へ行け!兵を貸す」

そして俺の事を見て、

「猿、お前は俺と来い!共に箕作を攻めるぞ!」

と言った。

俺は、

「はい!」

と一言放った。

信長は再び皆に向き直ると、

「さぁ、ぐずぐずはしてられない!皆、出陣だぁっ!」

『おぅっ!』

信長上洛の前哨戦『観音寺城の戦い』もとい『六角家殲滅戦』今、開戦!


箕作城


織田軍は箕作城を包囲した。

その数はおよそ20000人。

箕作城を守っているのは約4000人だ、数には圧倒的な差がある。

だが箕作城は急坂や堅木のある堅城で、その上ここを守備する吉田出雲の守りも堅いため落とすのはそう容易い事では無い。

まずは軍議が開かれた。

「この城をどう落とすか皆で考えよう」

信長が言った。

やはりここは数を活かすべきだ!

「やはり数を活かすべく総力戦を挑むのはどうでしょう?」

長政が言った。

「確かに我々には数の利があるなそれを活かさない手はない」

信長もその策に同意を示した。

「ならばこれはどうでしょう?軍を二つに別けて交互に攻めさせるのは?」

そう言ったのは家康。

それに対し信長は、

「確かにそれならば数の利を活かせる上に敵に休む暇を与えない。つまり敵方の士気に関わる」

と賛成した。

だが藤吉郎は一人腑に落ちていなかった。

そうか…?

これが最適か…?

確かにこの作戦なら数の利を活かせる、でもそれだけで勝てるのか?

この戦、そんな簡単な物じゃないと思う。

「皆、異論がある奴はいるか?」

信長が皆に聞いた。

言うべきか…?

でも言えば代わりの策を問われる、俺にはまだその策が浮かばない…。

それじゃ認められる訳がない。

それに他の策が浮かばないなら今の策が最上の策なのかもしれない。

「なら、この策で決まりだ!」

決まってしまった。

もう変えようがない。

だがだんだんとこっちの方が良いように思えてきた。

「じゃあ、軍を2つに分ける!第一軍を俺と長政、第二軍を猿と家康に率いてもらう」

軍の内訳も決まった、もう戦は直ぐに始まる。

あと戻りは出来ない、また無意味な殺し合いをしなければならない。


織田軍 本陣


「突撃ーっ!!」

遠くで怒号が聞こえる、戦が始まった。

俺達は二番目なので始めは待機だ。

俺はその遠くから聞こえる怒号に聞き入っていた。

こっちに来てもう十数年たつがこれだけは慣れないものだな…。

まずあっちに居るときは死ぬ何て何か遠い存在だと思ってたからな、それが隣にやって来て、自分の死以外にも仲間の死まで背負わなきゃいけなくなって。

はぁ…、俺は平成で一番のメンタルを持ってるな。

いや、他にもトラベラーはいるか…。

俺は一人思案を広げた。

俺はずっと昔から探していた答えを、自分がここに来た理由を、だが見つかった事はない。

俺が一人気を落としていると、

「何をしておる?」

突然忠勝に声をかけられた。

俺はビックリしてビクッとなった。

「そんな驚くこともなかろう」

どうやら忠勝は俺のその僅かな動きに気がついたらしい。

俺は罪悪感が沸いた。

「す、すいません。ただ考え事をしてて」

「考え事?戦はもう始まったのに考えても遅いだろう」

「まぁ、そうなんですけどね」

俺は苦笑いを浮かべた。

別に戦の事じゃないもっと大きな事、未来の事。

忠勝ならわかってくれるだろうか?

話せば少しは楽になれるだろうか?

それなら話して見てもいい…。

話したい…。

「戦の無い世の中は作れますか?」

俺はふいに口にした。

忠勝はこちらを向いた。

だが特別驚いた素振りは見せない。

俺は怪訝に思った。

「ふっ、なんだそんな事か…」

忠勝は言った。

「そ、そんな事って…!」

「少なくとも家康様はそう信じておるぞ…」

忠勝は俺の言葉を遮るように言った。

「い、家康が…?」

「うむ、正直わしもまだ夢物語としか思っとらんが、どうやら家康様は本気でそう思っているらしい。『近い将来、戦の無い泰平の世がくる』とことある毎に申される」

「家康様も信じていた…!この戦国でも平和を夢見る人がいた…!」

「平和か…。それがお主の信念なら曲げるな、たとえ何を言われようとな。家康様と同じ信念を掲げるお主をわしは全力で応援するぞ」

忠勝はそう言った。

今の忠勝はどことなく優しく見えた。

初めて忠勝を怖いと感じなかった気がする。

俺は忠勝に、

「ありがとうございます。おかげで自分が見えました。もう信念は絶対に負けません、世に平和が訪れるその日まで!」

と言って礼を言った。

忠勝はふっと優しそうな笑みを浮かべるとおもむろに右手を差し出した。

俺が戸惑っていると忠勝が、

「何をしておる『握手』じゃ。ほれっ!」

と言った。

「あ、握手って。でも!」

「良いんじゃ。わしはお主を認めた家康様の次にな!」

と言って忠勝は右手をふり握手を催促した。

俺は促されるままにその右手を握りしめた。

忠勝はそれをみてニッと笑った。

俺もそれを見てニッと笑った。

その時、

「第二軍っ!出陣準備じゃあっ!」

兵士の声が聞こえた。

忠勝はまたいつもの怖い顔に戻り、

「よし、出陣じゃ!お主も早よ準備せい」

と言って俺に背を向けた。

忠勝は一言去り際にこう言った。

「死ぬなよ…!」

俺はしっかりとそれを聞き取った。

そして忠勝には聞けない声で、

「死にませんよ」

と返した。


箕作城 戦場


「第二軍っ!突撃ーっ!!」

『うぉーっ!!』

藤吉郎、家康率いる第二軍は、吉田出雲率いる箕作城に決死の突撃を敢行した。

兵士たちの踏み鳴らす足音により地揺れ、その怒号により空気は震えた。

「走り続けろっ!そうすればその先に道が見えるっ!」

俺は兵士たちに向け叫んだ。

『行けっー!』

『殺せーっ!』

兵士たちはそれに答えるように走り続ける。

ズダァーンっ!ダァーンっ!

そんな彼らを敵の鉄砲隊が襲う。

その凶弾に味方は次々と倒れいく。

「倒れたものには構うな!目の前の敵だけを見据えろ!」

家康の声が響く。

『うぉーっ!』

『やぁーっ!』

遂に藤吉郎軍と出雲率いる守備隊がぶつかった。

辺りが一気に血生臭い臭いに変わった。

味方も敵も次々と倒れていく。

くっそ…!

思ったより敵がしぶとい!

これで4度目の突撃だ、なのに敵の勢いは収まる気配を見せない、むしろ強まってる気がする。

それにやはり不利だ!

まぁ、攻城戦だから不利なのは当たり前だがあまりにもこちらに利が無さすぎる。

この急坂秤の地形それにこちらは全部登り、そして守備隊も危なくなれば直ぐに城の中に引っ込んで上から鉄砲を撃ちかけてくる。

もう何人死んだんだ!

俺は周りを見回す。

周りには敵と同じくらいの味方の死骸が転がっていた。

俺はその死骸達が無念でならなくて目を反らした。

あの人達は、死んでいった人達にはいったい何人の家族がいたのだろう?

いったい何人の人が悲しむのだろう?

死んでいったもの達の無念ですら俺には背負うのが難しいのに、その死んでいった者の大切な人の悲しみなど俺に背負えるのか?

無理だ…!

なら減らせば良いっ!

死んでいった者の無念はここで晴らすっ!

俺は刀を握る手に力を込めた。

そしてまた敵を一人また一人と斬り殺していく。

いつか師匠が言っていた。

人を斬るときはその者をこの乱世から解放してやると思って斬れと、ならついでに連れていってくれ!

今から殺す者達よ!

死んでいった俺の仲間も一緒に解放してやってくれ!

せめて次は誰かの手に掛からずに死ねるような、ちゃんと天寿を全うして死ねるような世界にっ…!

ガキンッ!

突如右から刀が飛んできた。

それを俺は寸での所で防いだ。

重い…っ!

俺はそのまま吹き飛ばされた。

俺は直ぐ様体制を立て直し相手を見据えた。

「お前は…!」

それは見覚えのある者だった。

池田勝正、観音寺城で俺と忠勝に宣戦布告をしてきた男だ。

「ふっ、またおうたな。言ったはずだ次あったら殺すと、約束通り殺してやる!」

勝正は再び襲いかかってきた。

くっそ!休む暇無しかよ。

ガキンッ!

二人の刀がぶつかり合った。

それなら先に攻撃を始めたのは勝正。

勝正は素早く間断なく攻撃を仕掛けてくる。

俺はそれを防ぐのに精一杯で攻撃出来ない。

くそっ!反撃しないと…!

何か手立ては?

俺は必死に弱点を探った。

ん、足元ほとんど無防備じゃないか!

そうかこいつもすさまじい勢いで攻撃を繰り返してるが相当無理してるのか。

冷静に見ればわかる、足元だけじゃない。

至るところに弱点がある。

そうだ、これは武術じゃない!

単に剣を振り回してるだけだ!

ガキンッ!

俺は勝正の刀を弾くとそのまま足元に刀を振った。

勝正はそれにぎりぎりで気がつき、バッと後ろにとんでそれを避けた。

そのまま二人は距離を取る。

「ふっ、見事だ」

勝正は苦し紛れに言った。

あいつ結構キテるな良し皮肉ってやろう。

「まぁな、お前こそ俺に勝ちたいあまり武芸の基本を忘れるんじゃまだまだだな」

俺がそう言うと勝正の目付きが変わった。

それは怒りというより喜びに近い表情だった。

「ならば見せてやろう、我が武を!」

そう言うと勝正は両手をダランと下げた。

何だ?

あれが武芸?

笑わせるな、構えもしないでどうやって勝つんだ!

だが、そっちから隙を見せてくれるなら願ったり叶ったりだ!

俺は勝正に突進した。

勝正は微動だにしない。

マジでか!?

まだ動かないのか?

まだか?まだなのか!?

そして遂に俺は勝正の目の前にたどり着いた。

まだ動かない!?

こいつ死にたいのか!

俺はそこで進路を斜めに歪めた。

勝正の右側を通り、走り抜ける様に斬ろうとしたのだ。

死にたいなら殺してやる!

「死ねぇーっ!!」

俺は勝正を斬ろうとした。

その時だった。

すさまじい速度で勝正が反応した。

その剣の速さは光の如くで俺はその衝撃で刀を落としてしまった。

ヤバイっ!

そして突如胸ぐらを捕まれ押し倒された。

後頭部と背中に鈍い痛みが走る。

この武術は…、まさか!

「神影流…」

勝正が俺の喉元に刀を突きつけながら言った。

やっぱり、まだ未熟だけどまさしく神影流だ!

雄二と同じ。

くそっ!

いったいどこでそんな繋がりが?

いやそんな事はどうでも良い、今は自分の心配をしよう。

俺は今こいつに負けた、即ち『死ぬ』。

「愚か者め、どんなに腕の立つ者でもこの武術の前には歯が立たん。運が悪かったな」

勝正は刀を振り上げた。

そして、

「死ねえぇっー!!」

と叫びながら刀を降り下ろした。

死にたくないっ!

ガキンッ

ふと俺は目の前を見張った。

そこには鈍く輝く十文字槍が俺と勝正の前に立ちふさがっていた。

この槍は…!

「貴様ぁ!わしの弟子に何してるんじゃ?死ねっ!」

その男は槍をブンッと振り勝正を遠ざけた。

「藤吉郎!助太刀参ったぞ!」

「師匠っ!」

目の前に立ちふさがったのは利家だった。

利家は勝正を睨みつけると再び襲い掛かった。

すごいっ!

俺は全然歯が立たなかったのに…。

あの勝正が押されている!?

「くっ!己ぇ、俺はここでは死ねん!大和を守る為に今は退くわ!藤吉郎と言ったな次は殺す」

勝正はそう言い残すと去っていった。

「はははっ!あやつ尻尾巻いて逃げていったわ!」

利家は愉快そうだ。

やはり師匠は無類の戦好きだな。

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

藤吉郎は起き上がり礼を言った。

「良いってことよ。それより大変じゃ既に味方が相当押されとるこのままじゃこの戦我らの敗けじゃ」

利家は急に真面目な顔になっていった。

藤吉郎は

「分かってます。一旦退きましょう!どうやらこの戦普通に戦ってても勝ち目は無いようです」

「お主その顔は何か手があるようじゃな」

利家は全て分かっているといった様子だ。

そうだその通りだ!

今浮かんだこの戦に勝つ方法が。

それはただひとつ…!

そう『夜襲』だ。


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