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藤吉郎におまかせあれ  作者: ヤブ医者
上洛将軍擁立編
22/35

天下布武

第1章 天下への1歩


「いざっ!京へっ!」

信長の声が辺りに響いた。

『うぉーっ!』

1568年秋遂に信長の上洛は始まった。

まず信長は馬廻り衆250騎と数人の家臣達をつれ佐和山城へと向かう。

「いやー、絶景ですな!」

隣の秀長が馬上ではしゃいでいる。

藤吉郎も馬上で

「何言ってんだ、まだ城下だろ」

と呆れた目で言った。

秀長は

「いやいや、見慣れた景色も信長様のご上洛とあらば違って見えまする!」

と楽しそうに言った。

今の秀長は秀長では無い、だが今では実の兄弟の様に仲がいい。

「まだまだだ。これから先俺達はもっといい景色を見に行くぞ」

俺は静かに言った。

秀長は俺の気持ちが伝わったのか妙にたくましい表情になった。

そうだ、もっと先まだまだ先だ俺はこの程度の景色じゃ満足出来ない。

俺はふっ、と鼻で笑った。


翌日

佐和山城 大手門


「止まれーっ!」

信長一向は夜通し進軍を続けようやく佐和山城にたどり着いた。

暫くはここで過ごすことになる。

「信長様」

ふと聞きなれた声が耳に入った。

「おぉっ!家康、先に着いていたのか」

それは家康だった、信長は徳川に援軍の要請していたのだ。

そして援軍を依頼した勢力がもう一つ、

「浅井長政殿!ご着陣!」

そう、近江の大名浅井長政だ。

長政…、あの男には聞かなければならない事が沢山ある、なぜ信長様を裏切った?


佐和山城 広間


織田、徳川、浅井の諸将は軍議の為広間に入っていた。

「まず、上洛の為には長政と並び近江の大名である六角家を叩かなければならない」

まず信長が言った。

それに家康が

「ですが六角家は大大名、それに古くから続く名家敵に廻すないしは討ち滅ぼす等するといささか面倒かと」

と言った。

それには長政が

「ならば降伏を促すのが一番でしょう、内府様の将を向かわせれば奴等も少しは考えざるをおえないでしょう」

と言って義昭を見た。

義昭は

「わ、わしの家臣をか!?だ、ダメじゃそんな危険な場所にわしの家臣は向かわせられん!」

と首を横に振った。

信長は呆れ気味に

「なら猿、お前も行け」

と俺にいってきた。

いやー、俺も正直行きたく無いんだよなぁ…。

でも断れないし、

俺は不本意ながら

「はい…」

と首を縦に振った。

その時だった。

「わしも共に行こう」

広間の隅から声が飛んだ。

「た、忠勝っ!」

家康は驚いた顔をした。

厳つい図体に厳つい顔、

そう、それは徳川家臣、本田忠勝だった。

戦をすれば鬼のように強く、今だ一度も傷を受けたことが無いと言われる程の武力に富んだ武将だ。

忠勝は

「名の知れぬ織田の将に大切な内府様の将は任せられん、故にわしも共に行く」

と堂々と言い放った。

はっ!?

こいつ死にたいのか?

信長の家臣を堂々とバカにしたりして!?

つかバカにされてるの俺じゃん!

その場のほとんどが身構えた。

身構えなかったのは言った本人忠勝と信長だ。

その時だった。

「ふっ、はっはっはっはっ!」

信長が高らかに笑った。

信長は

「良いなお前!おもしろい、気に入った!安心しろ、猿は強いだがまぁ、お前も行ってくれ人数は多い方が良い」

と言った。

どうやら信長は忠勝を気に入ったようだ。

その場の全員が安堵した。

忠勝は

「はっ、承りました」

と頭を下げた。

信長は義昭に向き直ると

「それで、よろしいですね?この二人がいれば将軍様の家臣が死ぬことはまず無いでしょう」

と聞いた。

義昭は

「うむ、ならば良いぞ」

と快く承諾した。

こうして一触即発ね場面もあったが、軍議は無事お開きとなった。


佐和山城 中庭


長政は夜風に当たっていた。

「何ようだ?」

長政は俺に向かって言った。

だが視線は今だ空にある。

俺は

「分かってるんじゃないですか?」

と聞き返した。

長政は

「分からんなぁ?教えてくれぬか?」

と明らかにおちょくっている。

俺は強めに

「ふざけるなぁ!なぜ裏切ったのですか?貴方は信長様を裏切ったではないですか?」

と言った。

長政は今だ澄まし顔だ。

何を考えているのだろうただ、ぼんやりと星空を眺めている。

その時ふと長政が口を開いた。

「市は元気だぞ…」

俺にはその言葉の意味が分からなかった。

俺は首を傾げるしかなかった。

長政は続ける

「わしが裏切る?あり得んな、わしは市がいる限り兄上を裏切ったり等せぬ、市に危険が及ぶような真似だけは絶対にしない」

その目は武士の目ではなかった、妻思いの優しい夫の目をしていた。

きっとこの夫婦は幸せになるだろう、そんな風に思える目をしていた。

一瞬でも歴史を否定してしまった、この時代の歴史をしる俺達は歴史を知っているからこそ歴史を否定してはならないのに、俺は長政は好い人だと思ってしまった。

そしてまだそれを受け入れきれるほど俺はまともじゃない。

「そうですよね…、すいません、変な疑いかけて」

俺は長政に頭を下げた。

長政は澄まし顔で

「別に良い、これからは信長様の為に力をあわそうぞ」

と言いながら俺とすれ違った。

その時の長政表情は優しかった、でもやはりこの男は怖い。


観音寺城 道中


佐和山城を出てしばらく経った、俺達は観音寺城を目指し山の中をひたすら歩き続けている。

「遠いっ!まだつかんのか!」

どうやら類は友を呼ぶというのは本当らしい、将軍家の家臣は義昭そっくりだ。

俺はそんな二人を無視して忠勝に話しかけた。

「始めまして忠勝さん。俺、藤吉郎です」

俺はそう言って右手を差し出した。

忠勝はその右手を睨んだ。

相変わらず怖い。

忠勝は右手をあげた。

次の瞬間、

パンっ!

忠勝は俺の手を弾き飛ばした。

俺は驚いた、前の信長への物言いといい、俺へのこの態度どうやらこの人は本当に礼儀知らずらしい。

俺は

「そんなに俺が信用ならないんですか?」

と聞いた。

忠勝は鼻で笑った。

「わしは力の有る者しか信じぬ」

そう無表情で言った。

力の有るものねぇ。

「貴方は相当な武勇のある武将じゃないですか、なら貴方が認めた武将はいったい何人いるんですか?」

俺はこの人に敵意が沸いていた。

忠勝は俺を睨んだ、だがその目は一瞬綻んだ。

「一人だけおる…」

「え、誰ですか?」

「家康様じゃ。あのお方だけはわしも超えられぬほど強い、あの方こそ真の武者じゃ」

そう言う忠勝の口調はどこか優しく聞こえた。

「家康様ですか。確かにそうですねあの人は天下を治める人だから」

俺はつい口を滑らしてしまった。

「天下っ…!お主いまそう申したのか!?」

流石の忠勝も驚きで目が見開いた。

「あっ、いやこれは…!た、ただの戯れです、わすれてくださいっ!」

俺は必死に釈明した。

だが忠勝は

「ハッ、ハハハハハっ!良いなお主、気に入った

ぞ!」

と高らかに笑った。

笑った…!

あの強面の忠勝が笑った!

俺はもうその事に驚いていた。

俺が呆然と忠勝の顔を凝視していると、

「何だっ?」

忠勝は再び恐い顔に戻り言った。

俺は

「い、いや。何でもないです」

とはぐらかした。

忠勝は

「おかしなやつだ!」

と言って前を向いた。

本多忠勝、悪い人じゃ無さそうだ。

というか物凄い忠義者だ、この人があの家康に重宝される武将になるのか、何だか楽しみだ。

って、何言ってんだ俺。

俺はこんなことを感じる自分が気持ち悪くなって足を速めた。


観音寺城 広間


俺達一行は城につくや休む間もなく観音寺城の広間に連れていかれた。

「して、義昭殿が我々に何のご用かな?」

そう聞いたのはこの城の城主で六角家当主の六角義賢だ。

義賢はあくまで自分が上の立場にあることを重視するようだ。

まぁ、実際そうだろう佐々木六角家は応仁の乱以前からの名門、この中で家名で彼に勝る者は誰もいない。

だが家名だけで生きていけるほど甘い世界とも思っていないが。

「貴方の置かれている状況はお分かりでしょう、だが我らとて貴方達を攻めるのは余りに酷、ですのでそちらには和睦という形で我らに下っていただきたい」

将軍家の家臣が丁寧に和睦の説明をしている。

まぁ、俺か忠勝が出た方が話は百倍早く進むだろうがここでは名高い将軍家の者が応対したほうが良い、俺達だと家名を理由に逃げられてしまうからだ。

今は家名で戦うしかないのだ。

「何を言うか!己義昭め、我らを愚弄しおって!」

癇癪を起こしたのは義賢の息子の義治だ。

義治は今にも刀を抜きそうな勢いだ、将軍家の家臣は体を震わせ怯えている。

それを見かねた俺は急いで将軍家の家臣達の盾になるように立ち塞がり、

「そう言うわけではありません!我らはあくまで提案してるだけです!」

と言った。

義治は

「提案だとっ!良く言うは、それは提案ではなく脅迫と言うのだぞっ!」

と怒鳴り散らしている。

もう手に負えない…!

俺がそう思った時、

「義治やめぃっ…!」

義賢が義治を制した。

「ですが、父上…!」

義治は食い下がったが、

「落ち着け義治」

義賢は落ち着いている。

義賢は続ける、

「申し訳ないがそれは飲めぬ、この地は先祖代々我が六角家が守ってきた地、他のものの手になど渡せん」

断られた、六角家はあくまで織田と戦う姿勢を取るらしい。

即ちそれは六角家の滅亡を意味する。

名門たるもの最後まで誇りは捨てないか…。

「わかりました。今日の所は退散しましょう」

俺はそう言うと立ち上がった。

「門まで送らせましょう」

義賢は家臣に見送りを命じた。

俺達は揃って広間を後にした。


観音寺城 大手門


俺達は大手門まで来た。

これからまた行きと同じ道を辿り帰ることになる。

観音寺城から一歩出ようとしたその時、

「お待ちくだされ」

見知らぬ声に引き留められた。

俺が振り向くとそこには見知らぬ青年が立っていた。

年は俺と同じ位、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

誰だ?

俺はやはり面識がなかった。

他の者も面識があるものはいないらしい。

俺達が戸惑っていると

「わしの名は『池田勝正』だ」

と相手は名乗った。

池田勝正、彼はそう名乗ったが俺はその名にピンっとはこなかった。

聞いたことの無い名だ、戦国武将か?

そんな事を思っていると忠勝が、

「ふんっ、大和の小大名が我らに何ようだ?」

と勝正に聞いた。

大名?

じゃあこの男は大名なのか?

それでも聞いたことが無いなんていったいどんな田舎の大名何だろうか?

俺はふと勝正が哀れに思えてきた。

そんな勝正は

「貴殿方に言いたき事があり参った」

と堂々と答えた。

忠勝を前にして良く怯えないな、凄いわ…!

俺は感心した。

勝正は俺達から目を話そうとしない、いったい何を言いに来たのだろう?

今にも抜刀しそうな目をしている。

勝正は息を吸った。

そして、意を決したように言いはなった。

「貴様らに大和は渡さん…!大和は我らの物だっ!」

それは、凄まじい剣幕だった。

大和とは、京都とその周辺の地域の事を指す、即ち勝正は俺達に京都は渡さないと言ったのだ。

それはまさしく俺達に宣戦布告したのと同じだった。

忠勝はやはり勝正に食って掛かった。

「ほう、我らに京は渡さぬか、口で言うのは容易いが果たして我らからどれ程京を守れるかな?」

その声は本当に恐ろしくとても人とは思えなかった。

だが勝正も負けてはいない、

「守れるかではない!守るのだ!我らの京を…!」

と手を大きく振り回し怒鳴る。

二人はもう今すぐに取っ組みあいを始めそうな勢いだ。

だが流石に騒ぎすぎた、騒ぎを聞き付けた辺りの兵がざわめき出している。

ここは敵のど真ん中だそんな所で喧嘩など言語道断だ。

俺は急いで二人の間にたった。

「そんな元気があるなら戦で発散してください。こんな所で喧嘩なんてしてま良いことありませんよ」

忠勝と勝正は渋々下がった。

「ふんっ、戦でじゃ!戦で決着をつけようではないか!」

と忠勝。

それに勝正は

「別に私は貴殿方に注意換気をしに来たまで、だがこれで貴殿方が退かぬと言うならば戦で貴殿方を木っ端微塵にいたしましょう」

と先程とはうって変わって馬鹿丁寧に答えた。

忠勝はそれを聞くと満足したのか一人勝手に行ってしまった。

「あ、ちょっ!」

俺がそう呼び止めても止まる気配は無かった。

あの人はまじで破天荒だな…。

俺はふと勝正に話しかけた。

「死ぬほど守りたいですか?なぜ死に急ぐんですか?」

それは俺が戦国武将に心から聞きたい事だった。

戦国武将達は基本死に急ぐ、その非人道的思想を支えている物は何なのか、その考えを改めるには何が必要なのか、俺はずっと探していた。

勝正は俺をまじまじと見た、この時代にこんな質問する奴自体相当珍しいだろう。

だが勝正は俺の質問にしっかり答えてくれた。

「死ぬために守るのではない、守るために死ぬのだ」

その答えに俺はハッとした。

別にこの時代の人は死に急いでるのでは無い、生き急ぐのが下手なだけなんだと。

俺は勝正の目を見つめた。

勝正はほんの一瞬ニッと笑うと城の方に戻っていった。

面白い人だったな…。

『守るために死ぬのだ』か、じゃあ死ななくても守れる世の中創りますよ俺は。

俺は新たな答えを得た。

これでしばらくは前進出来そうだ。

俺も観音寺城に別れを告げた。

次は敵だ…!


佐和山城 広間


佐和山城に帰りつくと直ぐに広間に通された。

「それで、六角はどうと?」

信長はつくや否や直ぐに聞いてきた。

俺は

「六角家は織田家には降らないとの事でした」

と答えた。

信長は

「駄目だったかぁ」

と残念そうに言った。

それに恒興が、

「では決まりましたな?」

と信長に聞いた。

信長はコクりと頷いた。

「あぁ、決まった…!六角を取るぞ!」

織田の目先の標的が決まった名門六角家、これより織田の六角への猛攻が始まるのであった。

そして京がまた一歩近づいた。

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