噛み合わない歯車
第1章 もう一人の幼なじみ
墨俣城 広間
俺の頭は未だに混乱していた。
信長が何か言っているがそんなのもう頭に入って来ない。
俺の視線は信長の隣に座っている男に注がれて
いる。
男は自らの事を『明智光秀』と名乗った。
だがその男は明らかに『雄二』だった。
雄二は俺のもう一人の幼なじみだ。
他人の空似とかじゃない、目鼻立ちのくっきりした凛々しい顔、何か爽やかなオーラ、ありとあらゆる特徴が雄二と合っていた。
それ以前に雄二が入って来た時俺の胸はざわついたそれは偶然等ではない、俺の脳があの男を雄二だと瞬時に判断したのだ。
だがそれなら何故雄二は自らを明智光秀と
するのか?
光秀と言ったら本能寺で信長を殺す人間だそんな不名誉な後書きを後世に残すことになる。
それにもし雄二が本能寺の変を起こしたら雄二は確実に俺の敵になる。
そして俺が雄二を…
いや、雄二はそんな奴じゃない。
きっと本能寺の変を止めようとしているんだ、だから来たんだ、きっと…
そう思うと気が少しばかり楽になった。
その時信長が
「今日は解散!」
そう言って立ち上がった。
それと同時に家臣達や光秀も立った。
信長は家臣達の中心を通り抜け広間を出た。
俺は信長が出ると直ぐに皆に囲まれている雄二に近づき家臣達を掻き分けて雄二の手を鷲掴み
「来いっ!」
と言って無理矢理引っ張りながら広間を後にした。
墨俣城下 藤吉郎宅
藤吉郎は現在、墨俣への引っ越しの際信長に与えられた書院造の貧相な家に住んでいる。
その中の6畳間の居間に囲炉裏を挟む形で俺とねねそして雄二は座っていた。
雄二は俺の目の前にいる。
久しぶりの再開だ本来なら抱き合うレベルで喜ぶのだがそれはどうも出来なかった。
何より気まずい、いくら親友と言えど明智光秀だ信長を殺す男だそんな男と仲良く談笑など出来るはずもない。
だがこう重苦しい空気を漂わせながら黙っているのもそれはそれで辛い。
仕方がないここは俺が…
俺はため息を漏らした。
そして
「しかしまぁ良くお前も無事だったな!」
俺はわざとらしく陽気に言った。
雄二は苦笑いを浮かべながら。
「あ、あぁまぁ苦労はしたよ!はははっ」
と答えた。
ふと隣から殺気に満ちたオーラを感じた。
隣を見るとねねが鋭い目付きで雄二を睨んでいた。
何か嫌な予感が…
こういう時の予感は良く当たる。
ねねは勢い良く立ち上がると雄二を指さした。
そして怒鳴った。
「何で明智光秀なのよ!何でワザワザ汚れ役引き受けたのよ!」
「おい!ねね」
俺はねねを制した。
ねねは不満そうに
「だってこのままじゃ私達の敵に…」
それに関しては俺も何も言えなかった。
俺はうつむいた。
その時雄二が
「そうだよな、ちゃんと話さないとな…」
俺は雄二を見つめた。
ねねは
「えぇ、話して…ちゃんと…」
雄二は小さく頷いき語りはじめた。
「俺は拾われたんだ、その人の命令で俺は明智光秀をやってる」
俺は
「拾われた?命令?」
「あぁ、その人の名は『北条氏直』」
「北条氏直?おいおいそいつはまだガキだぞ」
「初めから説明しよう。まずこの世界は一つだと思われているが本当は一つじゃない、沢山の次元が重なり合っているんだそしてその次元は全く同じように見えて少しずつずれている。次元は星の様に今も生まれたり消滅したりしている、そして北条氏直はその一番最初の次元、言わばこの世界の元となった次元からきた人間なんだ、そして北条氏直の皮を被り生きている」
「俺達と同じタイムスリップ者か?」
「ちょっと違う。まずあの人は次元自体を飛び越えている言ってみれば異世界に転生したような物なんだ、そしてもう一つ、あの人はわざとこの世界に来たんだ」
「わざと?何で?」
「一番最初の次元、第一時元の人々は次元間を移動できるタイムマシンを造り上げたんだ。それを期に一元の人は『時空間監視機構』という組織を発足させたんだ」
それにねねが
「時空間監視機構?なにそれ?」
「言ってみれば時空の警察だな、現在俺達みたいなタイムスリップ者が増えてるらしいんだ、そしてそのタイムスリップ者は故意でも偶然でも時空に悪い影響を与えてしまう例えばタイムパラノックスだ。
それを防ぐためそして時空の修復の為に時空間監視機構は作られたんだ」
「なるほどな、でも修復ってどうやって?」
「簡単さわざと時空をねじ曲げて正しい時間の流れに戻すんだ」
「ねじ曲げる?」
「あぁ、つまり未来に悪い影響を及ぼす人間をそれよりも過去で消すんだ、そして新しい人間をその人とすればまた元通りの時間が流れる、まぁ詳しい事は俺も知らない、恐らく氏直もその埋め合わせできた人間だと思う、実年齢も大分大人だと」
「まぁこの世界の事は分かった、でもなんでそれでお前が拾われんだよ?」
「そこだそれが今回俺がここにきた理由だ。タイムスリップ者でも未来に悪い影響を及ぼさない人間がいるらしい、時空間機構はそう言った人間を拾って特派員として時間の修復の手伝いをさせてるんだ」
「それがお前?」
「あぁ、そしてお前等二人だ」
「俺?」
「私?」
「そうだ俺はお前達二人を勧誘しに来たんだ。俺と一緒にやらないか?特派員?」
雄二は顔をぐいっと近づけてきた。
俺は雄二に
「でも特派員って何やるんだよ?」
「だからさっきいった未来に悪影響を及ぼす人間を消すことだよ」
俺はその言葉に引っ掛かった。
「それって無実の人間を殺すって事か?」
「無実では無いよ未来に悪影響を及ぼすんだから」
「でもそれはそれで時間の流れだろ?」
「それはそうだけど、時間の歪みが重なるとその時元は消滅するんだぞ」
「え…」
俺は固まった。
無実の人間を殺したくはないでも消滅するのは嫌だそんな矛盾した気持ちが俺の中を駆け巡っていた。
その時ねねが小声で
「大丈夫?」
と聞いてきた。
俺は片手を上げて
「あぁ、大丈夫だ」
と答えた。
そして雄二に向き直り。
雄二に
「悪い少し考えさせてくれ」
と言った。
雄二は
「あぁ、大丈夫だ。そう簡単に答えられても困るしな」
と笑って答えた。
そして
「じゃあ今日はこの辺で」
そう言って立ち上がった。
俺とねねも立ち上がり雄二を見送った。
雄二の背中はいつもと変わらないのに雄二が酷く遠くに行ってしまった気がして少し寂しくなった。
俺は背中を丸めて部屋に戻ったら。
墨俣城 広間
結局答えの出ないまま一夜が明けた。
とりあえず評定をサボるわけにはいかないので仕方なく評定に出席している。
信長が何か言っている。
「昨日、稲葉山城の修復が終わった。そのため我々はこれより3日間で稲葉山へ引っ越しをする」
どうやら我々は稲葉山城へ引っ越しするらしい。
だが頭は昨日の事に向いているため、話が中々入って来ない。
そして俺は終始ボーッとしたまま評定はお開きとなってしまった。
墨俣城下 藤吉郎宅
家に帰っても頭は未だに昨日の事に向いていた。
縁側でボーッとしていると、
「ねぇっ!あんたも少しは手伝ってよ!」
とねねにどやされた。
ねねは引っ越しの準備をしていた。
俺は
「あ、あぁ、わかった、ごめん」
と言ってのっしりと立ち上がった。
ねねはそんな俺を見て心配そうに
「まだ昨日の事を悩んでんの?」
「うん、まぁね」
「はぁ、考えすぎよ、蹴るなら蹴る受けるなら受けるで良いじゃない」
「そんな単純な話でもないだろう。世界が滅びるかもしれないんだから」
「でも、あんた一人じゃ何も変わらないでしょ」
「まぁ、そうだけど…」
その時だった。
「藤吉郎様!信長様がお呼びです!」
外で声が聞こえた。
俺は急いで外に出た。
外には一人の小姓が立っていた。
小姓は俺にハキハキと言った。
「森蘭丸と申します!信長様が藤吉郎様をお呼びです!直ぐに来いと!」
俺はその勢いに気圧されながら。
「わ、わかった直ぐ行く」
「はい!」
蘭丸はちょこちょこと去っていった。
俺は
「仕方ない行くか…」
そう言って城に向かった。
墨俣城 信長の部屋
俺は戸を開けた。
部屋には信長が一人座っていた。
信長は俺に
「来たか、座れ」
と言って自分の前の床を指さした。
俺はそこに信長と向かい合う形で座った。
俺は信長に
「あの、何かご用でしょうか?」
と聞いた。
信長は真っ直ぐに俺の目を見ている。
そして唐突に
「何を悩んでいる?」
「え…!?」
「お前の様子がいつもと全然違うからな、何かあるんだろう?」
俺は返答に困った。
何せこの事を説明するとなると自分が未来から来たと打ち明ける事になるからだ。
俺は少し頭を整理して、ゆっくりと口を開いた。
「もし、もしですよ、信長様の生き方が全部否定されたら、自分が生きているだけで未来が壊れてしまうと言われたらどうしますか?」
信長は俺の目を真っ直ぐに見ている。
その目にいったいどんな感情がこめられているのかはわからない、でもその目を見ていると何故か心がやすらいだ。
その時信長が言った。
「俺なら自害するな」
「え?」
「未来は皆の心の支えで全ての人間が未来を信じて生きている、そんな大事な物が俺が生きているせいで壊れてしまう事など俺には耐えられない、それに平和な世を作ろうとしているのに未来を壊してしまったら意味ないしな」
信長は子供の様に笑った。
俺は
「そうですよね、未来は大事な物ですもんね」
信長はバッと立ち上がった。
そして高らかに
「迷うな猿!立ちはだかる者は全て斬れ!その者達は全て未来に悪影響を及ぼす輩だからなぁ!」
俺はその言葉に反応するように立ち上がった。
そして
「はいっ!」
と威勢良く返事を返すと、急いで部屋を出た。
墨俣城下 藤吉郎宅
「答えは出たのか?」
俺は家につくと直ぐに雄二を呼び出した。
部屋にはこの前同様俺、雄二、ねねがいる。
俺は雄二に
「あぁ、出たよ」
「じゃあ聞こうか」
「俺はその話を受ける」
「本当か?やったー!」
雄二は喜んでいる、俺はそんな雄二に
「でもこれだけは忘れるな俺はまだお前等のやり方には賛成してない、でも未来が消えるのは嫌だからです受けるんだ」
雄二は真剣な眼差しで
「わかった覚えておく」
「ありがとう」
そこにねねが
「よしこれで仲直りだね」
それには俺が
「別に喧嘩してたわけじゃねーよ」
そして三人で笑った。
その時雄二が
「そうだ二人に渡しておくものがあるんだ」
そう言って懐から取り出したのは
二つの何か見覚えがあるものだった。
「スマホ?」
ねねが間の抜けた声を出した。
だがそれは確かにスマホだった。
角に丸みのかかった黒のスマホだった。
雄二が得意気に
「まぁ、似たような物だな。でもこれを持っておけばこの時代にいるタイムスリップ者と連絡を取れるんだ!」
そう言って雄二は携帯の画面を見せてきた。
そこには吹き出しが写っていた。
吹き出しの中に文字があり、自分の送った物は色が違う色になっていた。
雄二は更に鼻をならし
「もっと凄いことがある、それは…」
雄二は人差し指を立てた。
「別次元の人間と連絡が取れるんだ!」
「えぇっ!それ凄いじゃない!」
ねねが口を手で覆う。
「だろっ!まぁ俺達から送ることは出来ないんだけどね」
「お前それ連絡取れるとは言わねーよ」
俺は突っ掛かった。
雄二ははにかみながら。
「まぁ、でも持ってて損はしないよ」
そう言ってスマホを差し出した。
俺は
「まぁ、そうだな」
と言って受け取った。
ねねも
「そうね、ありがとう」
と言って受け取った。
すると雄二が
「じゃあ俺、行くよ」
そう言って立ち上がった。
俺は
「ちょっと待って」
「ん?何?」
俺は言葉に詰まった。
だが悩んだ末
「城にいる蜂須賀正勝って人にも会ってくれあの人もタイムスリップ者だ」
「え、あぁ、そうか、ちぇっ、仕事増えちまった」
雄二は舌をならした。
「悪い悪い」
「まぁいいよ。じゃあ今度こそ」
「あぁ、じゃあな」
「おぅじゃあな」
雄二は手を振りながら出ていった。
俺はその背中をずっと見つめていた。
ねねが心配そうに
「どうしたの?」
と聞いてきた。
俺は
「本当はどうして光秀になったのか、信長様を殺すつもりなのか聞きたかった」
ふと目が熱くなった。
俺は目を擦った。
「でも、いざとなると聞けなくて、聞いちゃったら雄二、居なくなっちゃうんじゃないかって、それが嫌で…、でも信長様にも死んでほしく無くて…、俺最低だぁ…」
床に涙が溢れた。
その時、背中に暖かい手が回った。
それはねねだった。
ねねは俺の事を抱きながら。
「大丈夫だよ、雄二は雄二例え明智光秀って名乗っても私達の友達…私達を敵に回したりに
しないよ…」
ねねは優しい声で言った。
久しぶりに温もりを感じた。
それはどんな時でも気持ちが良くて、でもいつまでも頼ってはいけない、そう感じた。
俺はねねの胸の中で泣いた。
久しぶりの涙だった。
第2章 引っ越し
稲葉山城 広間
家臣団は稲葉山城に集結した。
3日間の引っ越しは無事終了し今は稲葉山城で引っ越し祝いの真っ最中だ。
家臣達の中心を通り信長が前にドシッと座った。
家臣達が皆頭を下げた。
信長はそれに答えるように頷くと。
「引っ越しは無事に終了した。このめでたい日に皆に伝えたい事が2つある」
「それは何にございますか?」
恒興が聞いた。
「ふっ、まぁ焦るな」
信長は逸る恒興をなだめた。
「一つは俺が新しく使う印ができた!」
そう言って小さな印を見せた。
信長は
「ここには『天下布武』と刻まれている!」
それに勝家が
「天下布武…武力で天下を修める…まこと信長様にぴったりの言葉じゃ!」
「だろう、勝家!」
「してもう一つは?」
そう聞いたのは利家、
信長は
「もう一つはこの城と城下の名を『岐阜』と
改める!」
利家は
「岐阜?」
「あぁ、始皇帝が岐山と言う所で天下を修める誓いをしたという話からとった」
「おぉ、ならば殿!」
利家は身を乗り出す。
信長はバッと立ち上がった。
「あぁ!漸く準備が整った!天下だぁっ!天下を取るぞ!」
家臣の目が引き締まる。
信長は
「まずは上洛を果す!京だぁ!京に行くぞ!」
信長は腕を伸ばした。
『はっ!』
家臣達は威勢の言い声で頭を下げた。
遂に始まる信長の天下への大進撃が始まる。
俺はついて行けるのだろうか?いや、行かなければならない信長を失わない様に、いつか平成に帰るために。
絶対に生きてやる!
俺は『木下藤吉郎』だっ!




