墨俣一夜城計画
第1章説得戦線
土豪砦 牢
「何でいきなり牢屋何だよ…」
俺は薄暗い地下牢に閉じ込められていた。
これはつい先程の話で。
この砦に張り切って突入したは良いものの頭領が居ないらしく帰ってくるまで牢に入れられたのだ。
ここの頭領は蜂須賀正勝という男だ。
何やら聞き覚えのある名だ。
そんな事を思っていると。
「おいっ!てめぇっ!」
看守が俺に怒鳴った。
俺は看守を睨む。
看守ら
「頭が帰った。来いっ!」
牢の鍵が開いた。
俺はゆっくりと腰を上げるとのそのそと牢を出た。
牢を出ると看守に腕を掴まれ引っ張られながら地下牢を出た。
土豪砦 正勝の部屋
砦は俺の想像とは違い普通の空城だった。
空城とは使われなくなり人々に忘れられてしまった城だ。
この城は山城で山の中に建っている。
その中心部、本丸にあたる位置に正勝の部屋はあった。
俺はボロボロになった床を歩き、足裏を埃まみれにしてようやく正勝の部屋の前にたどり着いた。
案内役が大声で正勝を呼ぶ。
「頭ぁ!織田家から使者が参っております!」
すると中から
「んだようっせーなぁ」
という返事と共に一人の男が姿を現した。
この男が蜂須賀正勝。
蜂須賀は堀の深い顔、日焼けした肌、そして超ごりごりな筋肉がついた体格の良い体、典型的なワイルド系男子だ。
だが年は俺とそう変わらなそうだ。
蜂須賀はその鋭い目で俺を睨んだ
そして低い声で
「てめぇか?織田の手先ってのは?」
手先って…
蜂須賀は
「まぁいいさっさとはいれ」
俺は部屋に入った。
部屋には俺と蜂須賀の二人だけになった。
話を切り出したのは蜂須賀だった。
「何のようだ?」
蜂須賀はその低い声で俺を威圧する。
俺は少し怯んだが直ぐ様口を開いた。
「お願いがあるんです」
「お願い?」
「はい、貴殿方に手伝って欲しい事があるんです」
蜂須賀は鼻で笑った。
「生憎だか俺は大名を好かないんでね悪いが帰ってくれ」
蜂須賀は手を振った。
予想外だまさか蜂須賀が大名嫌いだったとは、とりあえず信長様が貴方の力を必要としていると言っておけばどうにかなると思ってた。
こりゃ長くなりそうだ。
俺は蜂須賀の目を見た。
そして言った
「貴方はどうして大名を嫌うんですか?」
「あ?そりゃあんな自己中で傲慢な奴等を好きになれって方が不可能だ。俺はな昔斉藤家使えてたんだだがあの龍興のやろう俺の事が気に入らねーからって俺と仲間を解雇したここにいるのはそんなやつらだ。あいつは自分の好きな奴等だけを可愛がってそれ以外はまるでごみ同然の扱いをするそんな酷い事されたのにまた大名に仕えろと?」
何だかこの言い分何一つ間違っていないけど何かムカつく。
俺は怒りに任せて怒鳴った。
「あんたのその短い生涯で何がわかる!信長様があんたの仕えてた龍興と同じだと?ふざけるなっ!」
蜂須賀は度肝を抜かれている。
俺は立ち上がり蜂須賀を見下ろしながら。
「信長様は違う!あの人は俺が一生命を預けて良いと思った男だ!」
蜂須賀も必死に反論する。
「どうせお前もその預けた命をこき使われて結局は殺されるんだ!」
「違うっ!俺は生かして貰えると思ったから預けたんだ!信長様と居れば生きられる、安心して明日を見れるそう思うから命を預けたんだ!信長様にならどんなにこき使われても良い!それが自分の明日に繋がるんだ!」
「何故そう思うっ!?何故断言できるっ!」
「歴史が証明してんだよ!信長様はこれから天下をとる!近いうちに美濃をとり将軍を擁立して上洛する!そこからは天下街道まっしぐらだ!」
蜂須賀は目を丸くしている。
それも無理も無い田舎大名が天下を取ると言っているのだそりゃ驚く。
俺は続けた。
「そしてその後浅井、朝倉倒して将軍滅ぼして、武田倒して本願寺もぶっ飛ばしてそれでそこから…そこから…」
俺はその先を言えなかった。
口が裂けても言えない、俺は信長様が好きだから、心から尊敬しているから。
ふと涙を啜る声が聞こえた。
それは蜂須賀だった。
俺は驚いた。
「え、あ、あの?大丈夫ですか?」
蜂須賀は嗚咽混じりの声で
「お前…お前もか…お前もだったのか…まさか、まさか会えるなんて…俺も…俺もお前と…
一緒だよ…」
「一緒?」
俺は意味が分からなかった。
だがしばらく考えて気がついた。
「え、あ、貴方も!貴方もタイムスリップしたんですか!?」
「あぁ!そうだよっ!」
「まじかよもう会えないと思わなかった」
「もう会えないってお前方が他にもいるのか!?」
「はい、俺の妻がタイムスリップした人です」
「なるほど俺以外にもタイムトラベラーがいたのかこりゃまだまだいそうだな。それよりお前いつから来たんだよ?」
「2016年です」
「何だよ結構先じゃねーか俺は2001年だ。土木関係の仕事してた。2016年で何か変わったこと
あるか?」
「あぁ2011年にすごい地震がありましたよ東北で」
「えぇ!そりゃ大変じゃねーか!」
「はい、すごい大変でしたよ」
蜂須賀は自分がいた時代とあまりに変わった事が多くとても驚いていた。
そして一通り話終わると蜂須賀が
「よしっ、手伝ってやるよ城作り」
「えっ!本当ですか!?」
「あぁ、同じタイムトラベラーが困ってんだ手伝ってやんねーとだろ、それに手伝ったら織田家に置いて貰えるんだろ」
俺は驚いた。
蜂須賀は先程あれほどまで大名を拒絶していたのに突然織田家に仕えると言い出したのだ。
俺は
「でも蜂須賀さん大名嫌いなんじゃ…」
「あぁ、確かに嫌いだ、だがお前の心を奪った現代人の心を奪ったその織田信長という男に興味が湧いた」
そう言って蜂須賀はにっと笑った。
俺も
「はい、すごい良い人です」
と言って笑い返した。
第2章一夜城
数日後
美濃、尾張国境 墨俣
「本当に出来んのか?」
蜂須賀は口を尖らせた。
俺と蜂須賀率いる土豪軍団は数日間の準備を済ませ遂に築城を始めるべく墨俣にやって来た。
「やれますよ、計画は入念に練ったんですから」
俺は蜂須賀を諭した。
そう大丈夫だ計画は入念に練った。
絶対に成功する。
俺は心の中で自分を落ち着けた。
計画はこうだ。
まず予め城の部品を作っておき。
それを今夜一気に組み立てる。
堀などの土台は勝家達が造ったものをそのまま使う。
また周囲に兵士を放って敵の斥候を始末する。
俺たちは建設予定地に入った。
そして日没
始まりは蜂須賀の声からだった。
「てめぇらーっ!失敗は許されねぇっ!失敗したら全員腹切れよっ!んじゃ作業初めっ!」
『オッス!』
土豪達は一斉に作業を開始した。
スゲーこの時代のヤンキーってめちゃめちゃ戦力になるじゃん。
俺達も負けてられないな。
俺は兵士達に叫んだ。
「お前達っ!土豪達に遅れを取るなっ!お前達も死ぬ覚悟で行けっ!作業開始っ!」
『はっ!』
威勢の良い掛け声と共に兵士達が一斉に動き始めた。
良し出だしは好調だな。
これも作戦の内だ人間は競わされると不思議とやる気が出る生き物だ、だからわざと土豪ど兵士を競わせる様な言い方をしたのだ。
「さてと秀長はどうかな?」
俺は独り言を呟いた。
墨俣周囲 森
「今日は兄上自らの命だ!兄上を失望させる訳にはゆかん!」
秀長は一人テンションが上がっていた。
秀長は今回周囲にいる敵の斥候を始末する役目を頼んである。
秀長は久々の兄直々の命令なのでテンションが上がりまくっているのだ。
そこに
「秀長、調子はどう?」
藤吉郎はやって来た。
「兄上!そりゃもう順調でございますよ!」
秀長は鼻息を荒げた。
「ん、よかった」
その時
『いたぞーっ!』
辺りに声が響いた。
俺と秀長は顔を見合わせ声のした方に走った。
声のした所に着くと辺りには兵士達が倒れていた。
「これは…」
秀長は思わず声をあげた。
俺は辺りを見回した。
辺りには誰もいない。
その時
カキンっガッキン
向こうで刀と刀がぶつかり合う音が聞こえた。
俺は急いでそちらに向かった。
茂みを抜けると兵士達が戦っていた。
相手は一人血だらけの刀を持った無精髭をはやした若い男だ。
あいつ一人であんなに沢山を相手にするなんて…
くそっこれじゃ全滅だ
俺は刀に手を掛けた。
それに気づいたのだろう秀長も刀に手を掛けた。
次の瞬間
「イヤーっ!」
俺は相手に突っ込んだ。
相手も俺に気づき刀を向けて走り寄ってきた。
俺は足を踏み込み天高く舞った。
空で刀を振り上げた。
相手は足をとめ空を見上げた。
俺は重力に任せ相手の頭上に落ちながら刀を降り下ろした。
ガッ
鈍い音が鳴り響く。
相手は寸での所でそれを防いだ。
俺はそのまま体を後ろにひねり相手の後ろに降りた。
そして半回転して相手を斬った。
またもや相手はそれを回りながら防ぎその勢いで俺と距離を取った。
そこに秀長が相手の横から腰を屈め突っ込んだ。
相手はそれを刀で受けて秀長の腹を蹴った。
秀長は吹き飛んだ。
その時俺が秀長の陰に隠れて飛び出した。
俺は腰を屈め相手の懐に飛び込んだ。
そしてそのまま刀を突いた。
ズドッ
辺りに血が飛び散った。
だがそれは少量だった。
相手はギリギリで守っていた。
刀は相手の肩に浅く刺さっていた。
俺は相手を見上げた。
次の瞬間俺は蹴り飛ばされていた。
蹴り飛ばされた時刀を手放してしまい刀は大分遠くにあった。
殺される確信した。
だが
「ふっ、わしに傷をつけるとは…」
そう言ったのは相手だった。
俺は唖然とした。
相手は続けた。
「お主気に入った。まだ殺さんでおこうそうすればまた会えるだろう。ではさらば」
相手は去ろうとした。
俺はそんな彼を引き留めた。
「名前は?名前は何て言うんですか?」
相手は振り返った。
そして
「稲葉一鉄だ」
そう言って茂みに消えた。
「稲葉一鉄か…」
俺は染々と呟いた。
だが休んではられなかった。
俺は立ち上がり
「さぁっ仕事っ!」
と自分に活を入れた。
そして持ち場に戻った。
一人残された秀長は
「兄上…心配位してくれても…」
と項垂れた。
墨俣 建設場
作業開始から約5時間作業は大分進み完成まで後少しという所まで来た。
だが俺はずっと気を張っていた。
何故なら敵の襲撃が確実だからだ。
先程俺は敵の斥候稲葉一鉄と刃を交え取り逃がしてしまった。
一鉄は確実に龍興に報告した、それが義務だからだ、そして築城を知った龍興は築城を止めにくる。
「そろそろだよな…」
俺は呟いた。
その時
カンカンカンカンっ!
辺りに鐘が鳴り響いた。
それは
『敵襲ーっ!敵襲ーっ!』
龍興軍の襲来を告げる鐘だった。
来たかっ!
生憎だかこちらは命掛けてんだそう易々と近づかせる訳には行かねーんだよ!
俺は早口で叫んだ。
「建設は土豪達に任せる!兵士の半分は俺に着いてこい!残りはここで作業を続けろだがお前達は最後の砦だ!気は抜くなよ!城が出来たら参戦しろ!出陣だっ!」
『おぉーっ!』
兵士達は雄叫びをあげながら造りかけの城を飛び出して行く。
俺も馬に駆け乗った。
そして駆け出した。
後に秀長が続く。
秀長は楽しそうに
「兄上!どう戦うのですか?」
「大量に持ってきた鉄砲があるだろ、あれを使って斉射して敵と一定の距離を保ちながら戦う」
「もし詰められたら?」
「槍で突きながら交代する」
「さすが兄上すばらしい戦略です!」
「ふっ、お世話は良いよ、さぁっいこう」
そう言って俺は馬を急がせた。
墨俣 建設場周辺
戦闘は硬直していた。
戦力は敵が1000味方が800、数は敵が少し上だ。
その為俺達は防戦一方となった。
「鉄砲隊放てーっ!」
秀長が叫んだ。
ズドンズダンっ
鉄砲隊が鉄砲を放つ
「次段装填っ!」
秀長の合図と共に鉄砲隊が玉をこめはじめる。
だが火縄銃は装填に時間がかかる。
俺は叫んだ。
「弓隊放てっ!敵を近づけるなっ!投石も開始しろっ!」
シュッシュッ
弓が一斉に放たれる突撃してくる敵はバタバタと倒れていく。
だが矢を掻い潜って来る兵士達もいた。
距離が縮む。
俺は叫んだ。
「槍隊前へ!後退だっ!」
槍隊が前に出る。
今回持ってきた槍は通常よりも長い槍だ敵の槍が届く前に攻撃出来る。
距離がまた開いた。
秀長が叫ぶ。
「鉄砲隊前へ!射撃用意!放てっ!」
ズダンっダンっ!
凄まじい音が鳴り響く鼓膜が破れそうだ。
鉄砲をうち終わると直ぐに弓と投石に変わる。
そして後退。
この繰り返しだ。
だが少しずつではあるが確実に数は減っていく。
「くそっ、まだ出来ないのかっ」
俺は嘆いた。
辺りを見回した。
戦う兵士の中に息絶えて倒れている兵士が見える。
これ以上は…
俺は唇を噛んだ。
その時だった。
「全軍加勢しろっ!戦局をひっくり返すぞっ!」
それは蜂須賀の声だった。
蜂須賀は叫ぶ。
「藤吉郎っ!城は出来たぞ!」
え、城が…出来た…
俺は思わず叫んでしまった。
「城が出来たぞーっ!」
『うぉーっ!』
「全軍突撃ーっ!」
『おぉーっ!!』
そして突撃を命じた。
兵士達は敵に突っ込んでいく。
士気の上がった兵士は強い。
どんどん敵を倒していく。
敵は怯える。
恐れを成した兵士は逃げていく。
そして突撃を命じて30分程たった時遂に。
「全軍退却っ!全軍退却っ!」
敵が退却した。
俺達は見事城を守り抜いたのだ。
俺は空を見上げた。
空はまだ暗い。
「本当に出来たな…」
俺は染々と呟いた。
墨俣城
夜が開けた頃ようやく信長やって来た。
「こ、これは!」
信長は驚いている。
俺はそんな信長に
「本当に出来ましたよ一晩で」
と言ってニヤッと笑う。
付き添いの武将達も開いた口が塞がっていない。
特にすごいのが勝家だ。
勝家はもう今にも倒れそうだ。
俺は勝家に
「勝家さん達が造ってくれた土台があったから造れたんです。ありがとうございます」
と頭を下げた。
勝家は
「お、あ、あぁ」
と空返事だ?
俺は信長に向き直った。
そして信長に
「信長様お願いが有ります」
「なんだ?」
「この者達を雇ってください」
そう言って蜂須賀達土豪衆を指差した。
信長は
「誰だそいつらは?」
「城の建設を一から手伝って貰った土豪達です。この建設の一番の功労者です」
信長は笑った。
「良いぞ、土豪だろうが何だろうが使える者は雇う。だがそいつら猿お前の下につける」
「え、いや、でも」
「何だ不満か?」
そこに蜂須賀がはいった。
「俺は別に良いぜまたお前と戦えんならな」
と言って笑った。
信長は
「決まりだな」
俺は
「はい、わかりました」
と言った。
信長はふっと笑った。
そして叫んだ。
「さぁ、猿のお陰で新たな居城ができた。遂に我々は前に進む!
全員!美濃攻めだ!」
『はっ!』
俺達は城に入った。




