第九十話 恐怖の結論
その夜、リディアは二つの欄の紙を持って、公爵邸の書斎へ行った。
昼の結果は、彼も研究室で聞いている。それでも、書いたものは渡すと決めていた。紙で渡せば、あとで同じ行を二人で指せる。
アレクシスは紙を受け取って、長いあいだ見ていた。最後に足した行で、目が止まった。
近さ、気持ち、どちらも移動の条件とは断定できない。
「断定できない、か」
「はい。二つの例は、どちらも助けるために近くにいた時です。近さだけを外した例が、まだありません」
アレクシスは紙を卓に置いた。窓の外は暗く、卓の灯りが紙の上だけを照らしていた。
「前に、近くにいた人生ほど君は早く死んだ、と言った」
「覚えています。冊子にも書きました。あなたの解釈として」
「今日は、それをもう少し詳しく言う」
彼は卓の上で指を組んだ。
「婚約して、その年のうちに結婚した人生があった。同じ食卓で食べた。君は研究の話をして、俺は聞いていた。三年目の秋に、研究棟の事故で死んだ」
リディアは黙って聞いた。
「別の人生では、君が院に残って、俺は毎日迎えに行った。二年ももたなかった。病の冬だった」
彼の声は平らだった。一つ言い終えるたびに、短い間があった。
「離れた人生は、長かった。前の人生がそうだ。十年。君は一人で、俺は家に寄りつかなかった。それでも、祭の日までは生きていた」
リディアの手が、膝の上で止まった。
食卓の空席。あの十年が、彼の中では長く生きた例として数えられている。
生きていた、と言われると、喉の奥が詰まった。あの十年を一人でどう過ごしたかは、自分しか知らない。
「長く生きた、と言われると」
リディアは言った。
「あの十年を、どう数えればいいのか、分からなくなります」
アレクシスの指が止まった。しばらくして、彼は言った。
「……そうだな。長かったのは、君の方だ」
それ以上、二人ともそのことは言わなかった。今夜は、比べるために来た。
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息を一つ整えてから、リディアは口を開いた。
「三年目の秋、というのは、どれくらい確かですか」
「秋だったことは、高い。何年目かは、中くらいだ」
「では、秋の研究棟の事故、と書きます。その人生の私は、研究棟にいました。前の人生の私は、院に入っていません。研究棟にいなければ、研究棟の事故には遭いません」
「病は」
「病の冬は一度ではなかった、とあなたは言いました。何度あったかの確かさは、冊子では低いままです。どの冬に、どれだけ近くにいたかも」
リディアは冊子を開いて、その行を指した。
「近いかどうかのほかに、私がどこにいて、何をしていたかが違います。近さだけが違う人生の組は、冊子にはまだ一つもありません」
アレクシスは行を見た。
「全部がそうだと言えるか」
「言えません」
リディアは正直に言った。
「順位の項の線の太さも、まだ読めていません。結びつきの強さが近さで変わるのかどうかは、分からないままです」
「なら、近さが条件だということも、残る」
「残ります」
「それに、今日の紙だ」
アレクシスは二つの欄の紙の、左を指した。
「死が動いた例は、二つとも俺が隣にいた。君が書いた」
「書きました。でも、あの二つは死が移った例です。一度は私へ、一度はあなたへ。どちらの時も、誰も死んでいません。私が早く死んだ例ではありません」
アレクシスは紙の左の欄を見たまま、黙った。
「死が移ることと、私が早く死んだことは、同じ問いではないんです。片方の例を、もう片方の答えには使えません」
「分けても」
彼は低く言った。
「分けても、怖いのは同じだ」
リディアは、そこで言葉を足せなかった。
アレクシスはしばらく黙っていた。
それから、組んでいた指をほどいた。
「愛するほど、君は死ぬ」
低い声だった。
「何百回も、そう見てきた。俺が君のそばにいるほど、早く失った。理屈は分からない。だが、そう見えたものを、見なかったことにはできない」
リディアは彼の顔を見た。
愛する、と彼は言った。初めて聞く言葉だった。それが、死ぬ、という言葉と一つの文になって出てきた。
リディアはしばらく、何も言えなかった。卓の灯りの芯が、小さく鳴った。
「あなたが私の死を何度も見てきたことは、疑いません」
ようやく出た声は、少し固かった。
「でも、そこから出した結論と、私が測ったものとは、分けて書きます」
「分けて書いて、それで君が生きるのか」
「気持ちを打ち消しても、安全は確かめられません。あなたが私を想わなくなったかどうかは、針では測れません。測れないものを止めて、止まったかどうかも分からないまま、これで安全だとは言えないんです」
「では、何で確かめる」
「式です。順位の項と、条件の項を読みます」
「読み終わるまで、どれだけかかる」
「分かりません」
アレクシスは目を伏せた。
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リディアはペンを取りかけて、やめた。
彼の手が、卓の端を掴んでいた。指の節が白い。顔色は、灯りのせいだけではなかった。
自分の声も、いつの間にか研究室の声になっていた。
愛する、という言葉は、胸に届いていた。届いたまま、反論の順を組み立てるために、後ろへ押しやっていた。
二人とも、言葉が相手の傷に当たるところまで来ている。正しいかどうかとは別に、今夜はもう、話を続けられなかった。
「今夜は、ここまでにします」
リディアは言った。
「記録も、ここで止めます。続きを話すかどうかは、明日、二人で決めましょう」
冊子の欄の端に、小さな印を付けた。前にも、同じ印を付けたことがある。
アレクシスは頷いた。それから、卓の上の紙を見たまま言った。
「君の言うことは、分かる。式で確かめるのが正しい」
「はい」
「だが、確かめ終わるまで、待てない」
彼の手が、卓の端から離れた。
「証明を待つあいだに君を失うのが、怖い」




