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異世界で街づくり!気合でがんばるぞ!  作者: 吉田松陰(本物)
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第29話 外の世界を知る

「そろそろ、外の情勢もちゃんと勉強しておこうか」


 舞は、机に地図を広げた。


 賢者の書斎から引っ張り出してきた、古い地図だ。


 自分で歩いて調べた森の部分だけは、ずいぶん書き込みが増えている。


 だが、その外側は、まだほとんど白紙のままだった。


「畏まりました」


 パブロが、恭しく隣に控える。


「まず、魔力圏について、教えてくれる? 森のことは、それなりに分かってきたつもりなんだけど」


「はい」


 パブロは、地図の上を指でなぞった。


「魔力圏は、この森だけではございません。海と、火山も含まれます」


「……海と火山も!?」


 舞の目が輝いた。


「森でしか採れないものがあるように、海や火山でしか採れないものもあるはずだよね……!」


「恐らくは」


「塩とか、海藻とか、真珠とか……」


 舞は、頭の中で算段を始めた。


「海藻なら、ヨウ素が濃縮されてる可能性もあるし」


 以前、熊の身体から取り出せなかった、あの元素のことを思い出す。


 鑑定では確かに存在が確認できたのに、正確な形までは分からず、灰色の残骸として諦めた記憶があった。


「……あれ、海藻からなら、いけるかも」


「海の資源については、また改めてお楽しみいただければと」


 パブロが、やんわりと本題に戻す。


「今は、まず国のことを」


「……あ、うん、そうだね」


 舞は、逸れかけた意識を引き戻した。


「この魔力圏には、三つの国が面しております」


 地図に、三つの国名が示された。


「ウォンブ王国、アーラウ王国、そしてヘルレム帝国」


「うん、それで?」


「まず、ウォンブ王国とアーラウ王国は、この森と国境を接しております」


「二つも、森に面してるんだ」


「はい。この二国は、同盟関係にございます」


「仲良しなんだ」


「戦や争いを好まぬ、穏健な国風で知られております。特にウォンブ王国は、その中でも一番平和と言われております」


「へえ」


 舞は、地図上のウォンブ王国のあたりを、指でなぞった。


「アーラウ王国は?」


「ウォンブ王国よりは、やや慎重な国風かと。もっとも、これは同盟国であるヘルレム帝国との緊張関係が理由かと存じます」


「……緊張関係?」


「はい」


 パブロは、地図のもう一つの国を指し示した。


「もう一つの国が、ヘルレム帝国です。こちらは、火山と、魔力圏の海側に面しております」


「……なんか、字面から強そう」


「かつては、実際にそうでした」


 パブロが、淡々と続けた。


「数十年前までは、周辺国と激しく争っていたと聞き及んでおります。今でこそ、大きな戦は起きておりませんが」


「今は、平和になったってこと?」


「表向きは。ですが、この魔力圏への野心は、いまだ捨てていないという話も」


「……物騒だね」


「今のところは、収まっているようです。ですが、隙あらば、という気配は感じ取れます」


「……で、アーラウ王国は、そのヘルレム帝国と戦争してるの?」


「いいえ。争ってはおりません。ただ、国交も特にないかと」


「無視し合ってる、みたいな感じ?」


「近い認識かと存じます」


「……ふぅん」


 舞は、三国の位置関係を、頭の中で整理した。


 ウォンブとアーラウが同盟。


 ヘルレムだけが、やや不穏な気配を漂わせている。


「それなら、やっぱりウォンブ王国が無難かな」


「私も、そう存じます」


 方針は、あっさりと決まった。


 ◇


「……そういえば」


 舞は、ふと気になったことを尋ねた。


「魔王って、パブロは知ってる?」


「――ああ」


 パブロの声が、途端に温度を失った。


「存じておりますとも」


「……あ、知ってるんだ」


「はい。あれほどの醜態を晒した個体は、そう多くございません」


「……醜態?」


「王級の分際で、たかが人間の勇者一行如きに討たれるなど、魔族の恥そのものです」


「……手厳しいね」


「あんな輩と同じ魔族と括られるだけでも、不愉快極まりないことです」


 パブロは、心底軽蔑した様子で、鼻を鳴らした。


「あれのせいで、表世界の人間どもは、魔族全体を弱いものと侮っております。まったく、迷惑な話です」


「……そう考えると、パブロって結構、誇り高いんだね」


「当然です。私は伝説級ですので」


 自信満々にそう言い切るパブロに、舞は少し可笑しくなった。


「……ちなみに、王級ってどれくらいの強さなの」


「並の国であれば、単独で滅ぼせる程度かと」


「……それでも、討伐されるんだ」


「運がよかったのでしょう」


 パブロは、渋々といった様子で、話した。


 ◇


「あと、身分を証明するもの、いるよね」


「それでしたら」


 パブロが、一度部屋を出て、すぐに戻ってきた。


 手にしていたのは、小さな短剣だった。


 柄には、見覚えのある紋章が刻まれている。


「……これ」


「物置に眠っておりました。賢者様の紋章入りの品かと」


「……よく見つけたね、こんなの」


「執事たるもの、家中のものは把握しております」


 舞は、短剣を手に取った。


 ずしりとした重み。


 柄には、精緻な意匠の紋章が刻まれている。


「この世界では、こうした紋章入りの品が、身分証明として扱われることが多いのです」


「……なるほど。名乗るだけじゃ、信用してもらえないもんね」


「はい。特に、こうした由緒ある品を持っていることは、それだけで一定の信頼に繋がります」


「じゃあ、これを持っていけば、賢者の後継者ってことで通せそう?」


「恐らくは。詳しい素性まで詮索されることは、そうないかと」


「……よし、これで身分証明はオーケーだね」


 舞は短剣を懐にしまい、地図を丁寧に畳んだ。


「あとは、旅の準備を進めるだけだね」


「はい」


 パブロが、静かに頷いた。


「ウォンブ王国までの道のりも、追って詳しくご説明いたします」


「よろしく」


 舞は、少しだけ気を引き締めた。


 この森を出て、初めて他の誰かと関わる。


 その日が、もうすぐそこまで近づいていた。

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