第27話 建築ラッシュ
「……家、か」
舞は、小屋の裏手に広がる空き地を眺めた。
パブロのための家。
考えてみれば、これまで作ってきたものは、道具や設備ばかりだった。
ちゃんとした建物を、一から手がけるのは初めてだった。
「……ちょっと、燃えてきたかも」
物を作ることが好きな性分は、対象が建物になっても変わらないらしい。
舞は俄然、張り切り始めた。
◇
まずは木材の調達から。
周辺の森で、太くまっすぐな木を選んで伐り出す。
「……ただの木材じゃ、面白くないよね」
舞はふと、以前の発見を思い出した。
小屋周辺の木材が、魔素を浴び続けて変質していたこと。
「……あれ、狙ってやったら面白いんじゃない?」
これまでは、垂れ流した魔力による、あくまで偶然の産物だった。
それを、今度は意図的にやってみる。
伐り出した木材に手をかざし、強めの魔素を意識して注ぎ込む。
「創造術」
木の内部で、繊維の並びがみるみる密になっていく。
鑑定魔道具を向けると、以前見たものと似た反応が返ってきた。
「……お、強度上がってる」
通常の木材よりも、明らかに硬く、粘りがある。
これなら、建材として申し分ない。
「よし、この調子でどんどん作ろう」
◇
骨組みの設計にも、前世の知識を活かした。
柱をただ均等に並べるのではなく、荷重のかかり方を考えて配置する。
筋交いを斜めに入れ、揺れに強い構造にする。
「……耐震設計、ってやつだね」
地震があるかどうかは分からない。
それでも、備えておくに越したことはなかった。
窓には、これまで作ってきたガラスを使う。
二重構造にはしなかったが、それでも十分な採光が確保できた。
◇
完成までには、数日を要した。
パブロも、大工仕事を手伝ってくれた。
執事技能というスキルには、そういうことまで含まれているらしい。
「……できた」
小屋よりも一回り大きな、木造の家が姿を現した。
しっかりとした骨組み、明るい窓、丁寧に仕上げられた屋根。
「パブロ、どう?」
舞が振り返ると。
パブロは、その場に立ち尽くしたまま、動かなかった。
「……パブロ?」
「――申し訳ございません」
声が、震えていた。
「あなた様が、この身のために、御自ら家を……」
「……あ、泣いてる」
パブロの目から、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「こんな……こんな栄誉が、この身にあってよいものか……!」
「いや、そんな大袈裟な」
「大袈裟などではございません!」
パブロは、家の柱に縋りつくようにして、しばらく泣き続けた。
「……情緒、本当に忙しいね、あなた」
舞は、少し呆れながらも、悪い気はしなかった。
◇
パブロの家が完成すると、舞の中で建築熱はさらに高まっていた。
「……もっと、大きいの作りたいな」
工場棟。
実験棟。
これから工業化を進めるなら、まとまった作業スペースが必要になる。
「木造じゃ、そろそろ限界がありそう」
舞は、前世の知識にある、もっと頑丈な建材を思い浮かべた。
「――鉄筋コンクリートだ」
◇
材料は、これまでの探索で少しずつ蓄えてきたものが使えた。
鉄分を含んだ岩や、崖で採れる砂鉄。
魔物の骨から取り出したカルシウム。
そして、森の外れで見つけていた石灰岩。
「……揃ってるじゃん、材料」
舞は、頭の中で組み立てを整理する。
コンクリートの主成分はセメントだ。
セメントは、石灰岩を焼いて作る生石灰――酸化カルシウム――に、粘土などの成分を加えて作られる。
本来なら、高温の窯で長時間焼き続ける工程が必要になる。
「でも、これも飛ばせるよね」
石灰岩の構造。
目指す生石灰の構造。
どちらも分かっている。
「創造術」
舞は石灰岩の欠片に手をかざした。
構造がじわりと組み替わり、白い粉末へと変わっていく。
「……できた」
同じ要領で、花崗岩から得た成分を使い、セメントに必要な珪酸塩の成分も作り出す。
粉末を混ぜ合わせ、水を加える。
「これで、コンクリートの素は完成」
鉄筋には、これまで精錬してきた鉄を使う。
太さや形を整え、骨組みとして組み上げていく。
◇
建設には、総力戦が必要だった。
「みんな、力を貸して!」
舞の号令に、庭の面々が一斉に応える。
ビッグスライムたちが、大量の砂利や砂鉄を運び込む。
ウィザードスライムが、水を運ぶ手伝いをする。
バスタをはじめとした力自慢の面々が、型枠の設置を担う。
パブロは、細かな調整や仕上げを一手に引き受けてくれた。
舞自身も、ガレリアで骨組みを組み、コンクリートを流し込み、固まる工程を見守る。
何日もかけて、少しずつ、しかし着実に形になっていった。
「……できた」
完成したのは、想像していたよりずっと大きな、二棟の建物だった。
一つは、工場棟。
もう一つは、実験棟。
鉄筋コンクリートの無骨な外観は、これまでの木造の建物とは、まるで別物の存在感を放っていた。
「……壮観だな」
舞は、二つの建物を見上げて、思わず呟いた。
中は、まだがらんとしていて、機械の一つもない。
「……何から入れようかな」
真っ先に思い浮かんだのは、パブロの糸だった。
「……紡績機、作ろうかな」
あの糸を、機械で織り上げれば、布ができる。
動かす人手も、スライムたちに任せればいい。
「……そのうち、ちゃんと考えよう」
舞は、空っぽの工場棟を見渡しながら、小さく笑った。
できることが、また一つ増えようとしていた。




