第21話 想定外の強さ
「今日は、みんなも一緒に行こうか」
舞はそう言って、ライムを含めた数匹のスライムを連れ、森へ出た。
これまで、フィールドワークはいつも一人だった。
だが、荷物持ちくらいはできるだろうと思い、試しに連れ出してみることにした。
ライムを先頭に、スライムたちがぷるぷると跳ねながらついてくる。
思いのほか、移動速度も悪くなかった。
「……いい感じかも」
採取した木の実や、薬草の袋を、スライムに預けて運んでもらう。
両手が空くのは、想像以上に快適だった。
しばらく順調に進んでいた、そのときだった。
――ガサリ、と大きく茂みが揺れた。
「……ん?」
舞は足を止めた。
嫌な予感がする。
次の瞬間、茂みを割って、巨大な影が飛び出してきた。
「……くま?」
人間の何倍もありそうな体躯。
黒く艶のある毛皮。
牙を剥き出しにした咆哮が、森に響き渡る。
「うわぁっ、でか……!」
舞はとっさに前へ出た。
「みんな、下がって――」
庇おうとした、その言葉は、途中で止まった。
スライムたちが、下がるどころか、そのまま熊へ向かって突っ込んでいったからだ。
「――え、ちょっと!?」
舞が止める間もなく、先頭のスライムが熊の脚に飛びつく。
――ジュッ、という音。
「……酸?」
脚に触れたスライムの体液が、毛皮を焦がすように泡立った。
熊が痛みに咆哮し、脚を振り上げる。
弾き飛ばされたスライムは、地面に叩きつけられた。
が。
「……あれ?」
潰れるかと思った身体は、ぐにゃりと形を変えただけで、すぐに元に戻った。
「弾力……そういうことか」
打撃そのものが、あまり効いていない。
次々とスライムたちが取りついていく。
あるものは酸で毛皮を焼き。
あるものはアルカリで爪を鈍らせ。
あるものは、ただ体当たりで視界を塞ぐ。
「……思ったより、やるじゃん」
舞は呆気に取られながら、状況を見守った。
最弱クラス、という鑑定結果を、頭のどこかで信じ切っていた。
だが、目の前の光景は、それを裏切っている。
熊が苛立ったように、一匹のスライムへ、まっすぐ爪を振り下ろした。
――バチィッ。
鋭い爪が、身体の一部を抉り取る。
「……っ!」
舞は思わず駆け寄ろうとした。
抉られたスライムは、体液を撒き散らしながら地面に落ちる。
しかし。
「……あれ?」
傷口が、みるみる塞がっていく。
まるで、周囲の空気を吸い込むように。
「……魔素、吸収してる……?」
傷を負った分だけ、大気中の魔素を余分に取り込んで、再生に充てているらしい。
完全回復とまではいかないが、動きが鈍る様子はほとんどなかった。
「……なにそれ、便利すぎる」
舞が唖然としている間にも、戦況は進んでいく。
あの、以前弾けて死にかけた小さなスライムも、果敢に熊の足元へ突っ込んでいた。
怯えたような素振りは、今は消えている。
「……頑張ってるじゃん」
やがて、酸とアルカリで焼かれ続けた熊の動きが、目に見えて鈍くなった。
最後は、ライムが飛びついて視界を完全に塞ぎ、体勢を崩したところへ、他のスライムたちが一斉に群がった。
しばらくの後。
熊は、動かなくなった。
「……勝った」
舞は呆然と呟いた。
自分は、一度も手を出していない。
◇
小屋へ戻ってから、舞はステータスを確認した。
「ステータスオープン!」
従魔の一覧を開く。
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【従魔】
ライム Lv.14
スライム Lv.7 ×31
スライム(復活個体) Lv.5
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「……上がってる」
これまでのパワーレベリングとは別に、実戦だけでレベルが上がっている。
これまで魔力任せに育ててきた分、少し新鮮な発見に感じた。
「……無理に注ぎ込まなくても、経験だけでちゃんと強くなれる」
弾ける心配をせずに育てられる方法が、ちゃんとあった。
「今度から、こっちも併用しよう」
舞は熊の亡骸を見下ろした。
鑑定用の魔道具を向ける。
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《ブラックベア》
気性の荒い大型の熊。
毛皮、肉、爪は素材として利用価値が高い。
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「……解体、みんなで手伝ってくれる?」
舞がそう聞くと、ライムを筆頭に、スライムたちが揃ってぷるんと震えた。
まるで、任せろと言っているようだった




