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異世界で街づくり!気合でがんばるぞ!  作者: 吉田松陰(本物)
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第20話 花崗岩とガラス

 小屋の隅に、小さな瓶が置いてある。


 あの日、弾けたスライムの残骸から、研究者の性でつい掬っておいた体液の残りだった。


「……そういえば、これ」


 舞は瓶を手に取った。


 透明だった中身は、いつの間にか薄っすらと固まり、小さな粒のようなものが底に沈んでいる。


「……何これ」


 核《コア》のようなものだろうか。


 試しに瓶の蓋を開け、指先で軽く触れてみる。


「――っ」


 粒が、じんわりと発光した。


 瓶の中で、少しずつ膨らんでいく。


「……うそでしょ」


 しばらく見守っていると、粒はぷるんとした小さな身体を持つ、見覚えのある姿に変わっていった。


 小さい。


 以前より一回り、いや二回りは小さい。


 それでも、間違いなくあの態度の大きかったスライムだった。


「……生きてたんだ」


 瓶から出してやると、そのスライムは舞の足元にぴったりとくっついて、離れようとしなかった。


 以前のように押しのけたり、割り込んだりする様子はない。


 それどころか、舞が少し手を動かすだけで、びくりと震えて距離を取る。


「……あ、怖がってる」


 一度、身体ごと弾けて死にかけたのだ。


 あれだけの目に遭えば、無理もない。


 態度の大きさは変わっていないのか、他の従魔たちに混じると一番前に出たがる素振りを見せる。


 それでも、舞の顔色をちらちらと窺いながらの、及び腰な前進だった。


「……そりゃ、怖いよね。ごめん」


 舞は少し申し訳ない気持ちになった。


 二度と同じ目に遭わせるつもりはない。


 それでも、恐怖だけは、すぐには消えてくれそうになかった。


「……ちゃんと育ったら、名前つけてあげるから」


 舞がそう言うと、スライムは嬉しそうに震えた。


 ◇


 その日の午後、舞はいつも通り森へ出た。


 これまで足を延ばしていなかった方角。


 しばらく歩くと、露出した岩肌が目に入った。


「……お、いい感じの岩」


 白と黒と、薄いピンクが入り混じった、まだら模様の岩肌。


「これ、花崗岩《かこうがん》っぽいな」


 前世の記憶にある、代表的な岩石の一つ。


 舞は鑑定用の魔道具を向けてみた。


──────────────────────

《花崗岩》


石英《せきえい》、長石《ちょうせき》、雲母《うんも》を主成分とする岩石。

──────────────────────


「やっぱり」


 組成は、だいたい記憶の通りだった。


「石英は……SiO₂、二酸化ケイ素」


 舞は岩を割り、断面を覗き込んだ。


 透明感のある、ガラス質の粒。


 これが石英だろう。


「長石は……」


 こちらは少し厄介だった。


 カリウム、ナトリウム、カルシウムなどを含む、アルミノケイ酸塩。


 種類によって組成が微妙に違う。


「……大枠は分かるけど、これは今回は保留かな」


 最後に、薄く層状に剥がれる、きらきらした鉱物。


「雲母……こっちは分かりやすい」


 舞は爪で端をつまみ、そっと引いてみた。


 薄い一枚が、パリッと綺麗に剥がれる。


「……お、すごい」


 透かしてみると、向こうの景色がぼんやり透けて見えた。


 薄いのに、簡単には破れない。


「これ、そのまま使えそう」


 舞は花崗岩をいくつか採取し、小屋へ持ち帰った。


 ◇


「まずは、石英から」


 舞は取り出した石英の粒を、机の上に並べた。


 前世の記憶を辿る。


 ガラスは、石英を主原料に、融点を下げるための添加物を混ぜて高温で溶かして作る。


「……でも、それ、工程だよね」


 通常なら、炉と燃料と、長い時間が必要になる。


 だが。


「創造術《ガレリア》なら、飛ばせる」


 石英の構造は分かっている。


 完成形――透明で、滑らかな、非晶質《アモルファス》の構造も、頭の中に描ける。


「ガレリア」


 石英の粒が、ぐにゃりと形を変えた。


 結晶構造が崩れ、規則性のない、透き通った塊へ変わっていく。


「……できた」


 手のひらに収まる、小さなガラスの塊。


 まだ厚みも形も粗い。


 それでも、舞は次の工程へ進んだ。


 薄く伸ばす。


 筒状にする。


 底を作る。


 何度も形をやり直しながら、少しずつ整えていく。


 やがて、小さな試験管のようなものと、平たい皿のようなものが出来上がった。


「……見て、これ!」


 誰もいない小屋で、舞は思わず声を上げた。


 試験管を光にかざしてみる。


 完璧な透明度とはいかないが、中身が透けて見える程度には十分だった。


「これで、ようやく……」


 あの日、諦めた検証を思い出す。


 スライムの体液が、酸性なのか、アルカリ性なのか。


 鑑定魔道具の判定だけでは、それ以上のことは分からなかった。


「試験管があれば、保存は一応できる!」


 もちろん、試薬や指示薬がなければ限界はある。


 それでも、道具が一つ増えたことは、確かな前進だった。


「……次は、雲母」


 舞は薄く剥がした雲母のシートを取り出した。


 雲母は熱にかなり強いという知識があった。


「……これ、火を扱うときに使えそう」


 竈や炉の様子を覗き見るための小窓。


 高温にさらされる場所で、ガラスだと割れてしまう恐れがある。


 雲母なら、その心配が少ない。


 試しに、竈の焚き口に小さく切った雲母を嵌め込んでみる。


 火を入れてみても、割れる様子も、焦げる様子もなかった。


「……お、いい感じ」


 炎の色や強さを、外から確認できるようになった。


 地味だが、これから炉を扱う機会が増えれば、きっと役に立つ。


「長石は……まあ、そのうちだね」


 複雑な組成のものは、また今度でいい。


 今日だけでも、十分な収穫だった。


 舞は出来上がった試験管と皿を、机の上にそっと並べた。


「……道具、増えてきたな」


 最初は何もなかった小屋に、少しずつ、実験のための設備が揃い始めている。


 足元では、復活したばかりの小さなスライムが、舞の足に寄りかかるようにして揺れていた。


「……あんたも、早く強くなりなよ」


 舞はそう言って、小さく笑った。

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