第17話 スライムの群れ
小屋周辺の木材が変質している。
その仮説を立ててから、舞は暇さえあれば近くの木にガレリアを試していた。
「……この感じ、やっぱり魔素が入ってるイメージだと反応する」
枯れ枝を握り、意識を集中させる。
思った通りの形に、木が変わった。
検証は順調だった。
――が。
「……ん?」
ふと、妙な気配に気づいた。
一つや二つではない。
もっと多い。
しかも、じわじわと近づいてきている。
「……なんか、いっぱいいる」
舞は木片を置いて、小屋の外へ出た。
結界の縁――薄い膜のような感触がある場所。
その向こう側に、ぎっしりと何かが群れていた。
「……え」
ぷるぷると震える、丸い塊たち。
色は薄い水色から、濃い青まで様々。
数えるのが馬鹿らしくなるほどの数が、結界の外側に張り付くように集まっている。
「スライム……?」
地理の本で名前だけは見た覚えがある。
群れで行動する魔物。
舞は鑑定用の魔道具を向けてみた。
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《スライム》
魔素濃度の高い地域に集まる魔物。
腐敗物や大気中の魔素を吸収して生きる。
攻撃性は低い。
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「無害なんだ」
舞はほっと息をついた。
巨大羽虫やブラックバイソンのような、命懸けの相手ではなさそうだ。
それにしても、数が多すぎる。
「なんでこんなに集まってきたんだろ」
考えて、すぐに思い当たった。
「魔素、かな」
小屋周辺の木が変質していた原因。
自分の魔力が、知らず知らずのうちに漏れ続けている。
その仮説が正しいなら、この一帯の魔素濃度は、他よりずっと高くなっているはずだ。
スライムたちは、それに誘われてやってきたらしい。
害はない。
けれど、これだけの数が居座られると、さすがに落ち着かない。
「……どうしようかな」
舞が腕を組んで考えていると。
群れの中から、一匹だけ、するりと前に出てくるものがいた。
他より一回り大きく、色も濃い。
結界の縁ぎりぎりまで近づき、ぺたりと身体を伸ばして、まるで舞を値踏みするようにこちらを見上げている。
「……あんた、態度でかいね」
思わずそう呟いた。
スライムに表情などないはずなのに、なんとなく生意気な気配がする。
舞はしゃがみ込み、その一匹を見つめ返した。
――ふと、以前考えたことを思い出す。
人手が欲しい。
テイムして従魔にする、という選択肢。
あのときは、そもそもテイムできそうな相手に出会っていなかった。
「……今なら、できるかも」
舞は結界の膜へ、そっと手を伸ばした。
濃い色のスライムが、逃げずにじっとしている。
膜越しに、指先が触れる。
瞬間。
触れた場所に、淡く光る紋様が浮かび上がった。
小さな幾何学模様が、指先とスライムの表面、両方にじんわりと滲むように現れる。
「……何、これ」
驚いて手を離しかけたが、紋様は消えない。
どこかで見たような、契約めいた雰囲気だけは伝わってくる。
舞は少し考えて、そのまま指先を押し当て続けた。
「……うん、よろしくね」
紋様が、ふっと光を強めて――肌に馴染むように消えていった。
指先から何かが繋がるような、そんな感触が残る。
スライムが、ぷるんと一回り大きく震える。
心なしか、さっきより機嫌が良さそうに見えた。
「……あんた、名前どうしようかな」
舞は少し考えて。
「……ライム、でいっか」
安直すぎる気もしたが、他に思いつかなかった。
ライムは、それに応えるように、ぺたぺたと足元――正確には全身――をすり寄せてきた。
残りの群れは、遠巻きにこちらを窺ったまま、まだ動かない。
「……この子たちも、全部テイムできるのかな」
舞は結界の外にひしめく群れを見渡した。
数が多すぎて、正直どうしたものか見当もつかない。
それでも。
「……人手、増えるかもしれないし」
少しだけ、楽しみでもあった。
「――さて」
舞はライムを片手に乗せたまま、群れへ向き直った。
「まずは、みんなと仲良くなるところからかな」




