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異世界で街づくり!気合でがんばるぞ!  作者: 吉田松陰(本物)
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16/30

第16話 一ヶ月

 気づけば、小屋での生活が一ヶ月を過ぎていた。


「……もう、そんなに経つんだ」


 最初はほとんど白紙だった地図に、今では書き込みがぎっしりと詰まっている。


 水源。


 食用植物の群生地。


 磁針が狂う一帯。


 砂鉄の採れる崖。


 そして、いくつかの魔物の目撃地点。


「……よくやってきたな、私」


 毎日、同じことの繰り返しのようでいて、振り返るとずいぶん遠くまで来ていた。


 森の探索。


 水汲み。


 薪拾い。


 解体、なめし、干し肉作り。


 合間には、魔法の練習も欠かさなかった。


 炎で小さな的を焦がす。


 水で細い水流を飛ばす。


 土で岩を生み出し、投げる。


 最初は加減も分からず、小屋の壁を焦がしかけたことも一度や二度ではない。


 それでも、繰り返すたびに、少しずつ扱いが上手くなっている実感があった。


「そういえば、最近ステータス見てなかったな」


 舞は椅子から立ち上がり、軽く伸びをした。


「ステータスオープン!」


 目の前に、見慣れた半透明の板が浮かぶ。


────────────────────────


【ステータス】


名前:紅山 舞


年齢:0歳


種族:魔族


職業:賢者


レベル:15


STR:2200


VIT:18000


AGI:1200


MP:∞


────────────────────────


【固有能力(ユニークスキル)】


魔力無限


創造術(ガレリア)


魔法障壁(まほうしょうへき)


────────────────────────


【能力(スキル)】


召喚魔法


水魔法Ⅴ


炎魔法Ⅳ


土魔法Ⅰ


闇魔法~心得~


聖魔法~心得~


────────────────────────


「……え」


 舞は数値をまじまじと見つめた。


 レベル1のときは、STRが千だった。


 それが、今は二千二百。


 AGIも、五百から千二百まで伸びている。


「……倍以上だ」


 前にレベルが5に上がったときは、せいぜい三割増しで、正直あまり実感が湧かなかった。


 今回は、桁が変わりかけている。


「ブラックバイソン一頭倒したくらいじゃ、こんなに上がらなかったよね……?」


 思い返せば、あの日以降、舞は色々な魔物と多少なりとも小競り合いをしていた。


 巨大羽虫の群れに囲まれかけたこともある。


 得体の知れない大型の爬虫類に、水魔法のレーザーを叩き込んだこともある。


 どれも命懸けというほどではなかったが、決して楽な相手でもなかった。


「……積み重ねって、怖いな」


 地味な戦いの一つ一つが、こんな形で返ってくるとは思わなかった。


 舞は次に、スキル欄へ目を移した。


「水魔法……Ⅴ? 炎魔法もⅣ?」


 舞は目を見開いた。


 最初に「心得」が取れたときは、どちらもⅠだったはずだ。


 それが、いつの間にかここまで進んでいる。


「……土は、Ⅰのままか」


 この一ヶ月、水と炎はほとんど毎日のように使い込んできた。


 特に水は、実戦でも主力として頼りきっていた、高圧レーザーの制御やほかの使い方など、応用の幅も広げてきた。


 炎も、威力を出す訓練だけでなく、プラズマ化した部分の制御まで何度も試している。


 対して土は、扱いには慣れてきたものの、まだ本格的に極めようという段階には至っていない。


「……単純に使った回数だけじゃ、なさそうだな」


 舞は少し考えて、そう結論づけた。


 水は、氷結、切断、精密射出と、いくつもの使い方を編み出してきた、また周りを巻き込みにくいため重宝していた。


 炎も、燃焼としての基本用途だけでなく、プラズマの直接操作という一段深い理解に踏み込んでいる。


 対して土は、生成して飛ばす、地面から生やす、というごく単純な操作の繰り返しに留まっていた。


「……使った量だけじゃなくて、どれだけ理解して、どれだけ精密に扱えるようになったか、まで見られてるのかも」


 同じ一ヶ月でも、ただ回数をこなすのと、仕組みを理解した上で応用の幅を広げるのとでは、伸び方が違う。


 だとすれば、土の成長が遅いのも納得できる。


 あれは、まだ「なんとなく生み出して、なんとなく飛ばしている」段階から抜け出せていない。


「……なるほどね」


 舞は少し悔しいような、納得したような気持ちで、ステータスを閉じた。


「水、五段階まで来てるのか……」


 思わず声が漏れた。


 毎日繰り返してきたとはいえ、まさかここまで数字が伸びているとは思っていなかった。


 炎も、四段階。


 どちらも、最初の「心得」の頃とは比べ物にならない実感がある。


「……土も、もっとちゃんと理屈から考えれば、伸びるのかもな」


 舞はそう呟いて、少しだけ楽しみになった。


「……せっかくだし、ちょっと試してみようかな」


 この一ヶ月、暇さえあれば魔法の練習をしていた。


 その成果が、数字だけでなく実感としてどれくらいあるのか。


 舞は小屋の外に出て、開けた場所へ向かった。


 まずは炎から。


 手のひらの上に、小さな炎を灯す。


 最初の頃は、ただの燃焼反応をイメージするだけで精一杯だった。


 高温で気体が電離し、プラズマ状態になる――その仕組みを理解していたおかげで威力は出せたものの、扱いはまだ粗かった。


「……これも、できるようになったな」


 舞は炎の中心、青白く発光する部分に、そっと指を近づけた。


 プラズマ化した部分。


 普通なら触れれば火傷では済まない。


 だが、舞は自分の魔力でその領域を包み込むように制御しながら、指先で軽く突いた。


 すると勢いよく指から指へとプラズマが飛び散った。


 ――熱くない。


 「これはなんでなんだろう、慣れないなぁ」


 おそらく経験則で魔法は発動者には影響を及ぼさないのではないか、ということはわかっている。


 ただそんなことは理論的にはあり得ない、魔素というものはまだわからないことが多い。


 次に、水。


 舞は手のひらの前に水球を生み出した。


 だが、この一ヶ月で伸びたのは、その先だった。


「まずは、こっち」


 舞は水球にゆっくりと意識を集中させる。


 原子の熱運動――つまり、分子の振動や移動そのものを止めるようなイメージ。


 温度を下げる、というより、動きを止める。


 水球の表面が、みるみる白く曇っていく。


 そして、次の瞬間には、完全な氷の塊に変わっていた。


「……お」


 手のひらの上に浮かぶ、小さな氷。


 これも、最初はできなかったことだ。


 次に、もう一つの応用。


 舞は新しく水球を生み出し、これを極限まで細く絞り込んでいく。


 流量は、断面積と流速の掛け算で決まる。


 断面積を絞れば絞るほど、流速は跳ね上がる。


 最初にこれを試したときは、木の幹に穴を開けただけで終わった。


 今は、もっと精密に、もっと安定して撃てるようになっている。


 パシィッ、という鋭い音とともに、離れた木の幹に細い穴が空いた。


 狙った位置に、狙った深さで。


「……相変わらず、えげつない威力だ」


 この高圧の水流――事実上のレーザーのような一撃は、正直なところ、他のどの魔法よりも実戦で頼りになる感触があった。


 範囲もそれほど広がらないし、周囲を巻き込みにくい。


 森の中で使うにも、都合が良かった。


「基本、こっちを主力にしよう」


 炎は威力が高いぶん、下手に使うと山火事になりかねない。


 土は、まだ扱いが粗い。


 その点、この水流は狙った一点だけを正確に貫ける。


 舞はここ最近、実際にそうしていた。


 小競り合いになったときは、大抵この水魔法で切り抜けている。


 その分だけ、他の魔法よりも上達が早かったのかもしれない。


「……水、一番育ってる気がする」


 舞は自分の手のひらを見つめながら、そう呟いた。


 最後に、土。


 こちらは相変わらず、仕組みがよく分からないままだった。


 それでも、岩を生成し、飛ばし、地面から生やす――というひと通りの操作は、以前よりずっとスムーズにできるようになっている。


「理屈は分からなくても、慣れることはできるんだな」


 舞は小さく笑って、手についた土を払った。


 ◇


 午後になって、舞は薪拾いのついでに、小屋の裏手へ回った。


 最初のころ、ガレリアの練習台にした木片のことを、ふと思い出したからだ。


「そういえば、あの辺の木……」


 小屋のすぐ近くに生えている木々。


 最初に加工を試した木材も、確かこの近くの枝から取ったはずだ。


 舞は手近な枝に触れ、意識を集中させる。


「創造術(ガレリア)」


 ――何も起きない。


「……あれ?」


 もう一度、試してみる。


 やはり、反応がない。


「……変だな」


 最初の頃、木材の加工はそれなりにすんなりできた。


 木材はセルロースだけでできているわけではない。


 リグニン。


 ヘミセルロース。


 水分。


 その他の微量成分。


 全部を完璧に把握していたわけではないが、大まかな組成と、木材全体としての性質のイメージが掴めていれば、ガレリアは十分に応答してくれた。


 その感覚が、今は――全く働かない。


 舞は別の枝でも試してみた。


 同じく、反応しない。


 少し離れた場所、小屋からかなり遠い木でも確認する。


「……こっちは、普通にできる」


 小屋の近くの木だけが、ガレリアで扱えなくなっている。


「……なんで」


 舞は枝を折り取り、鑑定用魔道具を向けてみた。


──────────────────────


《変質した木材》


通常の木材に魔素が強く浸透した状態。


組成が変化しており、通常の木材とは異なる性質を持つ。


──────────────────────


「魔素が、浸透……?」


 舞は眉を寄せた。


 これまで見てきた植物は、確かにどれも「魔素濃度の高い地域にのみ植生する」という説明がついていた。


 アストラル草も、ピクシー草も、デス草も。


 最初から、生きているうちに魔素を含んで育つ、という理屈で納得していた。


「でも、これは……死んだ木材、だよね」


 小屋の周りに置きっぱなしにしていた木材。


 薪にするために積んであった木片。


 そして、この近くに生えている木の枝。


 どれも、生きている植物とは違う。


 枯れた枝や、切り出した木材が、後から性質を変えている。


「……ってことは」


 舞は自分の手のひらを見た。


「私、この一ヶ月、ずっとここにいたよね」


 毎日、この小屋で寝起きしていた。


 薪も、この辺りの木を使っていた。


 ガレリアの練習だって、何度もこの周辺の木でやっている。


「……もしかして」


 舞は、自分の中に流れ続けている魔力のことを思い出した。


 女神から聞いた話では、自分の魔力は無限。


 だが、これまで意識をして自分の魔力に対して特に何もしてこなかった。


「……漏れてる、のかな。私から」


 仮説にすぎない。


 けれど、筋道は通っているように思えた。


 生きている植物は、空気中の魔素にさらされ続けることで、ゆっくりと性質を変えていく。


 一方、死んだ木材は、自分から魔素を取り込む力を持たない。


 だから普通なら、何百年経っても、ただの木材のままのはずだ。


 ――ただし。


 強い魔力を持つ何かのすぐそばに置かれ続け、しかも直接何度も触れられ続ければ、話は別かもしれない。


「私が、ここにいるから」


 小屋の周辺だけ。


 自分が長く滞在し、何度も触った木材だけが、変質している。


「……木だけじゃなくて」


 もしかしたら、この一帯の土や、空気中の魔素濃度そのものも、少しずつ変わっているのかもしれない。


「……確かめようがないな、これ以上は」


 比較のしようがない。


 自分がここに来る前の、この森の状態を知らないのだから。


 舞は変質した枝を、そっと地面へ置いた。


「でも、覚えておこう」


 魔素は、生きているものだけじゃなく、死んでいるものにも影響を与えることがある。


 条件は、恐らく――強い魔力に、長時間さらされ続けること。


 それさえ揃えば、原子の組成そのものが、通常とは違う何かに変わっていく。


「なら、もしかして……」


「ガレリア」


 ガレリアを木材の構成物質に魔素が添加されているイメージで発動してみる


 木材が思い浮かんだ形に変形する、仮説は正解だったようだ。


「……この考え方、後で他のことにも使えるかもしれない」


 舞は地図の隅に、小さくメモを書き足した。


木材の変質:小屋周辺の木のみ発生。原因は恐らく魔力の影響。


 変質した木材は魔素が添加されている、魔素が入っているイメージをすることで、


 ガレリアを適応させることができる(要検証)


 書き終えて、舞はペンを置いた。


「……これは大発見だぞ!」


 舞は興奮してしばらく、木材をいじり倒すのであった。

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