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異世界で街づくり!気合でがんばるぞ!  作者: 吉田松陰(本物)
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第15話 鞘と、火花と、水と土

 朝、舞はまず、壁に立てかけていた刀を手に取った。


 布を巻いただけの、応急処置の状態がずっと続いている。


「……そろそろ、ちゃんとした鞘を作ろう」


 崖に追い詰められた夜から、もう何日か経っている。


 あの時は徹夜で刀身を仕上げるだけで精一杯だった。


 鞘まで手が回らず、ずっと布を巻いた状態で持ち歩いていた。


 いつか、うっかり布がずれて怪我をする前に。


 舞は昨日仕上げたばかりの、なめし革を手に取った。


 しなやかに曲がる感触は、まだ新しい。


「よし、これで作ろう」


 まずは寸法から。


 刀を革の上に置き、輪郭をなぞって印をつけていく。


 刃渡り、幅、厚み。


 余裕を持たせすぎると刀身がぐらつくし、ぴったりにしすぎると出し入れができない。


 このあたりの感覚は、前世の工作でも似たようなものがあった気がする。


 印に沿って革を切り出す。


 二枚。


 刃を挟み込むように、表と裏で合わせる形だ。


「濡らして……成形《せいけい》、だったよね」


 革は乾いた状態だと硬くて曲げにくい。


 だから水に浸けて柔らかくしてから、刃の形に沿わせて押し当てる。


 濡れた革を刀身の上に重ね、指の腹でゆっくりと形をなじませていく。


 峰の稜線、切っ先の反り。


 一つひとつ、革を押しつけて形を写し取っていく。


「……いい感じ」


 しばらく形を保たせたまま乾かせば、革はそのまま刀身の形を覚えて硬くなるはずだ。


 その間に、縫い合わせの準備をする。


 余った革を細く裁って、紐状にする。


 これを縫い糸代わりに使う。


 バイソンの骨の欠片を尖らせた即席の錐《きり》で、革の端に等間隔で穴を開けていく。


 一つ、二つ、三つ。


 単調な作業だったが、集中していると時間があっという間に過ぎた。


 穴を開け終えたら、革紐を通して縫い合わせていく。


 前世で見た革細工の動画を思い出しながら、同じ穴を二度通す縫い方を真似てみる。


「……不格好だけど」


 完璧な仕上がりとは言い難い。


 それでも、形にはなっている。


 最後まで縫い終えて、乾かすために風通しの良い場所へ立てかけた。


 半日ほど待って、鞘は完全に乾いた。


 刀身を差し込んでみる。


「……お、ぴったり」


 抵抗なく、しかし緩すぎもせず、刀身が鞘に収まった。


 舞は満足げに頷いたが、すぐに一つの不安が頭をよぎった。


「……これ、抜き差しで切れたりしない?」


 考えてみれば当然の心配だった。


 あの夜、丁寧に整えた刀身はかなり鋭いはずだ。


 革は、所詮は革だ。


 何度も出し入れしているうちに、内側からじわじわ切れていくのではないか。


 恐る恐る、何度か抜き差しを繰り返してみる。


 ――切れない。


 もう一度、少し強めに。


 ――やはり、切れない。


「……あれ?」


 舞は首をかしげた。


 普通の革なら、これだけ鋭い刃を何度も擦れば繊維が断たれてもおかしくない。


「なめし方が良かったのかな……」


 タンニンがよく染み込んで、繊維が想像以上に密になったのかもしれない。


 舞はそう結論づけて、深くは考えなかった。


「……まあ、いっか」


 舞は鞘を腰に差し、軽く笑った。


 道具が一つ、また増えた。


 鞘を作り終えたところで、舞は次の課題に目を向けた。


「そろそろ、魔法もちゃんと練習しないと」


 これまで、魔法についてはほとんど知識だけだった。


 炎、水、土。


 いずれも「心得」があるとはいえ、実際に使ったことはほとんどない。


「イメージが大事、だったよね」


 本にはそう書いてあった。


 術式や詠唱よりも、自分の中でどれだけ明確に現象を思い描けるかが、成否を左右するらしい。


 まずは炎から試してみることにした。


 舞は片手を前に出し、目を閉じる。


 思い浮かべるのは、炎そのものというより、その中身。


 高温で気体が電離《でんり》し、原子核から電子が引き剥がされる。


 荷電した粒子が、光と熱を放ちながら乱れ飛ぶ。


 前世で何となく齧った物理の知識だが、イメージとしては十分だった。


「――燃えろ」


 手のひらの上に、小さな光が生まれた。


 橙色。


 いや、それだけではない。


 中心が、青白く発光している。


「……炎っていうよりプラズマ?」


 舞は目を見開いた。


 仕組みがある程度わかっているぶん、他の魔法よりずっとイメージしやすい。


 試しに魔力を多めに流し込んでみる。


 途端に、プラズマの勢いが跳ね上がった。


「うわっ」


 慌てて魔力を絞る。


 ――今のは、危なかった。


 舞は自分の手のひらを見つめながら、少し青ざめた。


 魔力は消費した分だけ、そのままエネルギーへ変換される。


 自分の魔力はほぼ無限だ。


 つまり理屈の上では、注ぎ込む量に応じてどこまでも威力を上げられるということになる。


「……これ、下手すると小屋ごと吹き飛ぶやつだ」


 それに、と舞は考える。


 この炎は、ただ熱と光を放っているだけではないのかもしれない。


 目の前に何もない場所から、青白い光の塊が生まれている。


 質量保存の法則なら、とっくに無視している。


「……ってことは、そのうち」


 熱や光だけじゃなく、質量を持った何かをそのまま生み出せるようになるのかもしれない。


 そこまで考えて、舞は首を振った。


「……今はまだ、無理か」


 できることが増えていくたび、できそうなことも増えていく。


 それはまた、追い追い試せばいい。


 次に、水魔法を試す。


 水そのものの構造は、もう頭に入っている。


 H₂O。


 水素と酸素が、決まった角度で結びついた分子。


 その分子の集合体を、何もない空中に思い描く。


 ガレリアのように、既にある水分子を集めてくる必要はない。


 魔法は、無から有を生み出せる。


 その理屈は前世の科学からすれば異常でしかないが、この世界ではそういうものらしい。


「――出ろ」


 手のひらの前に、水の球が浮かんだ。


 何もないところから、確かに水が生まれている。


「……何回見ても変な感じ」


 舞は苦笑しながら、水球を眺めた。


 次に、これを操作してみる。


 球を細く絞り込むことを考えた。


 連続《れんぞく》の式という理論がある。


 流量は、断面積と流速の掛け算で決まる。


 同じ量の水を通すなら、断面積を小さくすればするほど、流速は跳ね上がる。


 水球を極限まで細く、針のように絞り込んでいく。


 瞬間、目に見えないほどの水の筋が前方へ迸《ほとばし》った。


 パシィッ、という鋭い音とともに、離れた木の幹に細い穴が空く。


「……うそ」


 舞は自分の手のひらと、穴の空いた木を交互に見た。


 ただの水鉄砲のつもりだった。


 それが、まるでレーザーのような威力になっている。


「水で、木に穴が空くとか……」


 物理的にはおかしくないはずだ。


 高圧で噴射される水は、金属すら切断できる。


 前世でもウォータージェットという技術があった。


 それを、道具も装置もなく、無から水を作り出したうえで再現できてしまう。


「……これ、扱い次第でとんでもないことになるな」


 最後に、土魔法を試してみる。


 こちらは、正直あまりイメージがつかめなかった。


 炎は燃焼の仕組みが分かる。


 水は分子構造も流体力学も知っている。


 だが、土――岩を、何もないところに生み出すというのは、感覚として掴みにくい。


「……とりあえず、やってみるか」


 深く考えるのをやめて、ただ「岩の塊」を思い浮かべる。


 ごつごつとした、灰色の岩。


 その重さ、硬さ、質感。


 ――ゴンッ。


 目の前の地面が盛り上がり、拳大の岩の塊が突然浮かび上がった。


「……できた」


 驚きながらも、舞は岩を軽く投げてみる。


 狙った木に当たって、ゴツンと重い音を立てた。


 今度は、地面から生やすイメージで試してみる。


 足元の地面が震え、鋭く尖った土の塊が何本か突き出てきた。


「……何もないところから、岩ができてる」


 これは、明らかにおかしい。


 質量保存の法則を、真正面から無視している。


 炎も、水も、土も。


 どの魔法も、前世の科学では絶対にあり得ない現象だった。


「……まあ、魔素ってやつが絡んでるんだろうな」


 舞はそれ以上、深く考えるのをやめた。


 この世界には、原子だけでは説明できないものがある。


 それが魔素であり、魔力なのだろう。


 理屈で全部説明できないことくらい、この世界に来てからいくつも経験している。


「……納得はできないけど、理解はしよう」


 そう自分に言い聞かせて、舞は手についた土を払った。


 その日の終わり、舞は日記代わりに使っている紙へ、今日の成果を書き足した。


・鞘、完成。刃と擦れても切れない(原因不明)。


・炎魔法:プラズマの原理に近い。魔力を注いだ分だけ威力が上がる。要注意。


・水魔法:無から水を生成できる。断面積を絞れば高圧の水流になる。切断力あり。


・土魔法:仕組みは不明。だが岩を生成・射出・地面から生成可能。質量保存則、完全無視。


 書き終えて、舞はペンを置いた。


「……できることが、また増えたな」


 水源、食料、鉄資源、なめし革、そして魔法。


 少しずつ、この森での暮らしが形になっていく。


 窓の外はすでに暗くなりかけている。


「明日は、何しようかな」


 舞は小さく伸びをして、椅子から立ち上がった。

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