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異世界で街づくり!気合でがんばるぞ!  作者: 吉田松陰(本物)
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第13話 塩焼きと一振りの刃

 軒下に干し肉を吊るし終えた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


 舞は小屋の中に戻り、竈の前にしゃがみ込む。


「……とりあえず、今日食べる分は焼こう」


 全部を保存食にする気はなかった。


 せっかく初めて自分の手で仕留めた獲物だ。


 まずは、今日のうちに食べてみたい。


 塩漬けにする前の肉を一切れ切り分け、串に刺す。


 あとは焼くだけだ。


 日記の合間にあった簡単な火の起こし方を頼りに、小さな炎を灯す。


 じゅう、と脂の弾ける音がした。


 肉が焼ける匂いが小屋いっぱいに広がっていく。


「……お腹すいてきた」


 焼き上がりを待つ時間が、やたらと長く感じる。


 やがて、表面にこんがりと焼き色がついた。


 舞は串を手に取り、勢いのまま齧りついた。


「――っ、あつ! でも……」


 口の中に、肉汁と塩気が広がる。


 噛むたびに、脂の甘みが追いかけてくる。


 変な臭みはない。


 むしろ、前世で食べたどの肉よりも力強い味がする気がした。


「……美味しい」


 思わずそう呟いた。


 塩をまぶしただけの、ただの塩焼き。


 なのに、これほど美味いとは思わなかった。


 あの巨体を相手に必死で逃げ回ったことも、崖に追い詰めて仕留めたことも。


 全部が、この一口につながっている。


 そう思うと、なんだか感慨深かった。


「……ごちそうさま」


 肉を食べ終え、舞は満足げに息を吐いた。


 お腹が満たされると、頭も少し冷静になってくる。


 舞は今日の戦闘を振り返った。


「……今日、運が良かっただけだよね」


 崖の下にたまたま砂鉄が露出していたから、咄嗟に刃を作れた。


 もしあの地面が普通の腐葉土だったら。


 もし近くに使える鉱物がなかったら。


 自分は――手元のナイフ一本を刃こぼれさせただけで、あの巨体に押し切られていたかもしれない。


「……武器、ちゃんと作らないと」


 舞は立ち上がり、机の隅に置いていた布包みを開いた。


 中から出てきたのは、刃こぼれしたナイフだった。


 刃先が、ぼろぼろに欠けている。


「……ごめんね、酷使して」


 これはこれで、直せば十分また使えるはずだ。


 だが、どうせ手を入れるなら。


「……ちゃんとしたものを作ろう」


 鑑定用魔道具を向けてみる。


 表示されたのは、ごくありふれた鋼《はがね》という結果だった。


「なるほどね」


 舞はナイフに触れながら、意識を集中させる。


「創造術《ガレリア》」


 刃の内側に意識を潜らせる。


 金属の結晶構造。


 粒界。


 わずかな不純物や欠陥。


 それらが、驚くほど鮮明に感じ取れた。


「……これ、原子の並びまで触れる」


 木材や石とは、また違う手応えだった。


 金属の中に潜む乱れを一つずつ均していく。


 組成のムラをなくし、結晶の向きを揃えていく。


 やってみると、想像以上に細かい。


 適当にやるなら一瞬で終わる。


 けれど、丁寧に、きちんと理想の状態を目指そうとすると。


「……時間、かかりそう」


 それでも、やる価値はありそうだった。


 舞は椅子に座り直し、欠けたナイフを両手で包み込む。


 戦うにはもっと刃渡りが欲しい、刃渡りと切れ味のある剣といえばやはり日本刀だ。


 もっと大きな金属の塊が欲しい。


 物置にあった鉄の廃材を持ってきて、ガレリアで少しずつ形を変えていく。


 削るのではない。


 原子を、一つひとつ望む位置へ動かしていくような感覚だった。


 刃渡り。


 反り。


 厚み。


 重心。


 前世の記憶にある、日本刀の構造を思い出しながら組み立てていく。


 刃先はさらに細かく。


 今日の戦いで、生半可な刃では通用しないことを思い知った。


 だからこそ、切れ味に関わる部分だけは、絶対に妥協したくなかった。


 気づけば、窓の外はすっかり明るくなっていた。


「……徹夜した」


 舞は苦笑しながら、出来上がったものを見つめる。


 一振りの刀。


 鈍く光る刀身は、美しいとまでは言えないかもしれない。


 それでも、丈夫さと切れ味だけは、自信を持って言える出来だった。


 持ち上げてみる。


「……軽い」


 前世の自分なら、両手でもまともに振れなかっただろう重さのはずだ。


 今の身体なら、片手で軽々と振り回せる。


 この身体の強さを、また一つ実感した。


 問題は鞘だった。


「……とりあえず、布でいいか」


 ありあわせの布を刀身に巻きつける。


 応急処置だ。


「あとで、バイソンの革でちゃんとした鞘を作ろう」


 タンニンによるなめし方法なら、前世の知識にもある。


 植物と塩があれば、時間はかかっても何とかなるはずだ。


 舞は刀を壁に立てかけ、椅子に座り直した。


 これで、丸腰ではなくなった。


 少しだけ、安心できる。


 けれど。


「……やっぱり、一人じゃ限界あるな」


 解体も、鍛冶も、水汲みも、全部一人でやっている。


 これから森を調べる範囲も広げていくつもりだ。


 やることは増える一方なのに、身体は一つしかない。


「人手、欲しいなぁ」


 舞は今の自分が知っている範囲で、人を増やす方法を数えてみる。


 一つ。


 外から人を連れてくる。


 これはまだ早い。


 外の世界のことも、自分の立場も、何一つ固まっていない。


「これは却下」


 二つ目。


 自分から外へ出て、人と関わる。


 これも似たようなものだ。


 準備が足りない。


 三つ目。


 魔物をテイムして従魔にする。


 この世界にはテイマーという職業があると本には書いてあった。


 これは悪くなさそうだった。


 ただ、そもそもテイムできそうな相手にまだ出会っていない。


 昨日の巨大羽虫も、今日のブラックバイソンも、テイムできる空気ではなかった。


 そして、四つ目。


 召喚魔法を使う。


「……これ、心得すら付いてないんだよね」


 スキル欄の召喚魔法を思い出す。


 種族的に得意な魔法らしいとは分かっている。


 魔力なら無限にある。


 消費量なんて気にする必要もない。


 それでも。


「……なんか、怖いんだよなぁ」


 日記で読んだ、魔族召喚という言葉が頭をよぎる。


 禁忌。


 その響きだけで、少し腰が引ける。


 自分が使うのは、あれとは違う召喚魔法のはずだ。


 それでも、正体の分からないものを呼び出すという行為そのものに、まだ踏み込む勇気が出ない。


「……まあ、今すぐ決めることでもないか」


 舞は刀を見つめながら、ひとまずそう結論づけた。


 人手の問題は、また今度。


 今はまだ、自分一人でどこまでやれるか試している段階だ。


 窓の外はすっかり朝になっていた。


 徹夜明けの身体は、不思議と重くない。


 これも、この身体の恩恵なのだろう。


「……とりあえず、少し寝よう」


 舞は新しい刀を大事に抱えたまま、簡易的な寝床へ倒れ込んだ。


 次にやることは、まだたくさんある。


 けれど、今日のところはここまでにしておこう。


 そう思いながら、舞はゆっくりと目を閉じた。

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