⑤大事な悪友
まずは、地上へと降りるらしい。
白い光に覆われると、俺達は再び地上へと向かった。
その間、俺は渡辺さんと沈黙でいるのが気まずくて、話しかけてみた。
「渡辺さんも、知っていたんですか? 俺が処理ミスのせいで、死んだ事を」
「いえ、私も山崎さんと同じタイミングで知りました」
相変わらず、無表情、無感情で応える渡辺さん。
だが、少しして彼女が初めて、笑みを浮かべた。
「……お身体を大切に。長生きして下さいね」
その笑顔に、俺はドキッとした。
また会いたくなった。
しかし、渡辺さんに会うという事は、また死んでしまったという事だ。
それは、もう嫌だ。
一瞬で芽生えた恋心は、一瞬で枯れ果てる。
やがて俺達の真下に、一軒の家が見えてきた。
なんだか見覚えのある家だった。
「あれ? この屋根は……俺の実家?」
「はい。山崎さんの遺体は現在、ご実家に安置されています」
「……そうなんですね」
俺達は家の屋根をすり抜け、線香の匂いが重々しく漂う和室へと、降り立った。
遺体となって眠る俺の傍で、父と母、そして小学生の弟が涙ぐんでいる。
ここでも霊体である俺の姿は、家族に見えていないようだ。
俺は、白装束に身を包んだ自分の遺体へと近づいた。
怖くはなかった。
ただ、不思議な感じがするだけだった。
「身体を重ね合わせれば、蘇るはずです」と、渡辺さんが言った。
俺は頷いた後、最後に渡辺さんに礼を告げた。
「色々と、ありがとうございました」
「いえ。こちらこそ、この度は申し訳ありませんでした。それでは」
「はい……」と言って、俺は遺体に身体を重ねた。
吸い込まれていくような感覚だった。
——木目の天井が見える。
すすり泣く声も聴こえる。
腐敗防止のドライアイスが冷たい。
しばらくの間、俺の頭はボーっとしたが、意識がハッキリするとガバッと跳ね起きた。
その瞬間「うっぎゃあぁぁぁ!」と、側にいた家族が、悲鳴を上げて逃げ出した。
バタバタと、襖に隠れる三人。
……まあ無理もないか。
少しして弟が、ひょっこり顔を出して微笑んだ。
「お兄ちゃんが、生き返ったよ!」
弟の声に導かれ、両親も恐る恐る、顔を覗かせた。
俺は立ち上がり、白装束のまま玄関へと向かった。
そして外に出る前に、家族に一言。
「俺、生きてるからね! 大丈夫だから! それより、ちょっと出掛けてくるよ!」
俺は家族の困惑をよそに、外へと飛び出した。
すぐ近くに、あの公園があるからだ。
公園に着くと、ベンチに座っている男を発見した。
もちろん北川だ。
俺は、嬉しくて嬉しくて、全速力で駆け寄った。
その勢いのまま、北川に飛びつく。
ドカッ!
激しく地面に転がる、俺と北川。
「いってえぇ……なんだよ!」
北川は、砂で汚れた頭を抱えながら、ゆっくりと半身を起こした。
次の瞬間、北川はギョッとした顔で俺を見た。
「えっ? うそっ……山崎?」
「ようっ! 悪友!」
柄にもないが、俺は北川を、強く強く抱きしめた。
「本当に、お前はどうしようもない悪友だよ、この野郎! これからも、ヨロシクなっ!」
おわり




