第9話 おじさん、魔王姫と戦う(?)
本日の2話目です。読み飛ばしにご注意下さい。
山道に突然現れた少女。
銀髪、赤い瞳、黒いドレス。
そして――
「私、ルシア。魔王の娘」
レオナ騎士団長の顔が凍った。
「魔王姫……!」
周辺の空気が一瞬で重くなる。
騎士たちは剣を抜いた。
だがリィゼが小さく言った。
「待って」
全員が止まる。
ルシアは俺を見ていた。
じーっと。興味津々という顔。
「ねえおじさん」
首をかしげる。
「ちょっと戦お?」
俺は聞いた。
「なんで?」
ルシアは即答した。
「暇だから」
正直すぎる。
レオナが叫ぶ。
「だめだ!」
剣を構える。
「相手は魔王姫だ!」
だがルシアはまったく見ていない。視線は俺だけ。
「一発でいい」
指を一本立てる。
「私が攻撃する」
にっこり笑う。
「それ受け止めたら、今日は帰る」
俺はリィゼを見る。
「どう思う?」
リィゼは少し考えた。
「たぶん強い」
「魔王より?」
「うん」
なるほど。
俺はルシアを見る。
「いいよ」
レオナが叫んだ。
「よくない!!」
山道の広場、全員が距離を取る。
ルシアが軽く腕を回す。
その瞬間――空気が変わった。
ドォォォォ……
地面が震える。
レオナが青ざめる。
「この魔力……!」
リィゼも少し驚いていた。
「すごい」
ルシアは笑う。
「ちょっと本気」
背後に黒い魔法陣が十個浮かぶ。
騎士たちが震える。
「終わった……」
レオナが呟く。
「これは国が消える攻撃だ……」
ルシアは俺を見た。
「じゃあいくね」
指を鳴らす。
パチン。
魔法陣が全部光った。
次の瞬間、黒い光の嵐が俺に落ちる。
ドォォォォォォォン!!!!!
山が揺れた。
爆発。土煙。森が吹き飛ぶ。
騎士たちは目を閉じた。
「終わりだ……」
煙がゆっくり晴れる。
そこに――俺が立っていた。
無傷。
服にちょっと土がついてるだけ。
俺は言った。
「砂ぼこりすごいな」
誰もが沈黙する。
レオナが膝をついた。
「……は?」
騎士たちも固まる。
ルシアは――目を丸くしていた。
「え」
もう一回言う。
「え?」
俺は服を払った。
「終わり?」
ルシアは十秒くらい固まっていた。
それから――急に笑い出した。
「アハハハハ!!」
お腹を抱えて笑う。
「すごい!」
目を輝かせる。
「初めて!」
俺を見る。
「今の魔法、魔王城の城壁も消えるのに!」
俺は言った。
「そうなんだ」
ルシアは嬉しそうだった。完全にテンションが上がっている。
「ねえおじさん!」
一歩近づく。
「もう一回戦お!」
俺は言った。
「疲れる」
ルシアは頬を膨らませた。
「ケチ」
リィゼが横から言う。
「おじさん、甘いもの食べたい」
ルシアが反応した。
「甘いもの?」
リィゼがうなずく。
「うん」
ルシアは真顔になった。
「それなら」
指を鳴らす。また魔法陣。
バチン。
次の瞬間――テーブルが出現した。
ケーキ山盛り。
騎士たちが固まる。
「……魔王魔法でケーキ?」
ルシアは椅子に座った。
「戦いよりおやつ」
リィゼが座る。
「賛成」
俺も座った。
レオナが頭を抱えた。
「魔王姫と……お茶会……?」
その頃ーー魔王城。
魔王ベルザードが映像を見ていた。
ルシアと俺がケーキ食べてる。
魔王は言った。
「……何してるんだあいつ」
部下も困っていた。
「わかりません」
魔王はしばらく黙った。
そして言った。
「まあいい」
玉座にもたれる。
「面白くなってきた」
その頃、山道でルシアがケーキを食べながら言った。
「おじさん」
「ん?」
「魔王城来るんでしょ?」
「たぶん」
ルシアはにこっと笑った。
「じゃあ」
フォークをくるくる回す。
「次は本気で戦お」
リィゼが言った。
「その前に」
ケーキを指す。
「これ全部食べる」
こうして――世界最強のおじさんは。
魔王姫とケーキを食べる仲になった。
「ルシア、食うのが好きなら、お前にも故郷日本の飯を食わしてやる」
だがこのあと魔王城で、世界がひっくり返る事実が判明することになる。




