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第三十三話 一つの時代の終わり

まさに救世主。

僕の耳に届いた声は、今こそ求めていた貴重な戦力だ。


「ソリス、来てくれたのかッ!」

「流石にここまでやるとは思わなかったが……城が崩れる前に逃げるぞ!」

「ダメだ!あの先に皇帝がいる!今逃がせば次に機会が訪れるのはいつになるか分からない。ここで確実に息の根を止めなければならないんだ!」

僕が指差す方向には壁に掛けられた絵画が不自然に落ち、開かれた地下への階段が覗いている。

だが、その前には近衛騎士が数人並び立ち、それに対抗しようと白の騎士達が剣を交えていた。


「てことは俺の役目は目の前の男を止めればいいんだな?」

「ああ。頼めるか!?」

「任せろ。これでも一応……ってエル・トランセッド!?む、無理だ!俺なんか秒殺されるぞ!」

今の今まで僕と対峙している人物がエルだとは気づいていなかったらしく、彼は目が飛び出るほど驚いていた。


「大丈夫だ。今奴は能力を使えない。まあ使えないのは僕もだが」

「あ、ああそういうことか……焦ったじゃないか。分かった、ここは俺に任せて先に行け」

「おいおい、流石に死亡フラグは立てるなよ」

ソリスの言葉に若干呆れてしまった。

まあ男なら言ってみたい台詞の一つかもしれないが、真面目な顔して言われたら流石に引く。


ソリスがエルと睨み合っている間に僕は皇帝の下へと急いだ。

既に隠し通路の中へと入ってしまった皇帝だが、まだ余裕で追いつける。


近衛兵と白い騎士が激しく攻防を繰り広げている隙を突いて僕はその背後にある隠し通路へと滑り込む。


何人かが僕に気づいて追って来ようとしていたが、白い騎士に背後から斬りつけられていた。


隠し通路は暗く、点々とランタンが壁にかけられてあり急ぐと躓きそうになる。


人が二人並べるかどうかの狭い通路が延々と続いていて、相当な距離であることが分かった。


「どこまで続いているんだよこれ……」


この長さなら城の外に出るだろう。

敵が攻めてきた時に使う避難通路になっているようだ。


しばらく走っているとようやく一番端であろう扉の前に辿り着いた。


扉の外がどこに繋がっているかは分からない。

もしかすると外に帝国軍が張っている可能性もある。


このまま二の足を踏んでいても仕方がないと、意を決して扉を開け放った。



「どこだ……ここ?」

視界に飛び込んできたのはボロボロに朽ちた洋館だった。


僕が出てきたのは草が無造作に生えていて手入れされていない庭のような場所だ。


洋館に恐る恐る近づくと何者かの足跡が玄関先についている。

皇帝は中に逃げ込んだらしい。


武器も何もない状態で入っていくのは躊躇したが、皇帝を逃がすわけにもいかないし、恐る恐る扉を開く。


中もある程度予想できていたが、それなりに朽ちていた。


壁は亀裂が走り一部崩れている場所もある。

床のタイルはボロボロで剥がれていたり欠けていたりと元々綺麗だったであろう姿の面影もなくなっていた。



埃が積もっていたせいで足跡が上階へと続いているのが肉眼でも確認できる。


足跡自体は一人分だったが、最初から伏兵が潜んでいてもおかしくはないだろう。


警戒しながらもゆっくり足音を立てないよう階段を登る。

板の軋む音だけが空間に広がっていく。


やがて上階に着くと足跡はある部屋へと続いていた。


「この先に皇帝が……」

日も落ちてきているせいで、窓から差し込む夕日がほんのりと廊下を照らしてくれる。

そのお陰で足跡も見やすく、皇帝の後を追うのは苦労しなかった。


部屋と廊下を隔てる扉もボロボロで強く蹴ったら穴が空くのではないかと思える見た目だ。


ドアノブに手をかけ深呼吸をしたあとソッと開いた。



「来たか……」

部屋の中には伏兵などおらず、皇帝が一人椅子に腰掛けこちらを向いていた。


「……なんのつもりだ?」

「いや、死ぬのならここが良かっただけだ」

「死に場所を探していただけだと?」

皇帝は疲れたような表情で苦笑いを浮かべる。


「娘の前では絶対悪を演じなければならなかった」

「絶対悪?何を言っている」

「帝国の膿を消し去るには圧倒的なカリスマと戦力が必要になる。カリスマならば娘、そして戦力は君が持っているだろう?」

「だから何を言っているんだ」

この期に及んでまだ何か隠しているのか?

皇帝が何を言いたいのかイマイチ要領を得ない。


「ふむ、まだ理解できんか。もっと分かりやすく言ってやろう。帝国は一枚岩ではないということだ」

「それくらい理解しているさ。それが絶対悪となんの関係がある?」

「余が腐敗していくこの国をなんとかしたいと思わないとでも?民がいてこその国だ。封建制度は他の国も取り入れているが、それと比較しても帝国は度が過ぎる。他国も貴族と平民には大きな隔たりこそあれど、お互いに必要としているのだ。しかしそれがどうだ我が国は。平民などただ搾取する為だけだと思っておる愚か者の多いこと……嘆かわしい」

「アンタがその代表じゃないか。何を他人事みたいに言ってやがる!」

皇帝の物言いに腹が立ってきた僕は声を荒げた。

まるで自分は違うとでも言っているようだ。



「平民を虐げ続ければ国は衰退する。それくらい誰でも分かっているであろう?だが余ではどうにもできなかったのだ。これは権力だけでどうこうできる問題ではない」

「できるだろ!アンタは腐っても皇帝だ!この国の王なんだぞ!?アンタが一声掛ければ変わったはずだ!」

「貴族が全て余に忠誠を誓っていると思っているのか?あやつらも自分さえよければ良いと思っておる。自分の立場が危うくなれば即座に国を裏切るだろう」

「それでもアンタには武力で言論を封じる事だってできた。でもしなかったのはただの怠慢か、それとも根が腐っているがどっちかだろ」

「まあできるかできないかで言えばできる。しかしそれで何が変わる?一部の貴族が徒党を組んで反旗を翻すかもしれん。そうなれば余は妻を、娘を守れぬ。だから余は待ったのだ。いつか余を打倒してくれるであろう人物を」

「そんなもの結果論だ!」

皇帝は他責思考があるのか、自分は悪くないとでも言いたげだった。

いや、言っているのだろう。


国が衰退する原因は多岐に渡れど、責任を負うべきなのは国のトップだ。

自己犠牲の精神なのかもしれないが、行動が遅すぎる。


僕やアリスのような存在が現れなければいつまでも今の状況を甘んじて受け入れていたことだろう。



突如、苛立ちながら話を聞いていたそんな僕の足元に一本のナイフが投げられた。


「なんの真似だ」

「そのナイフで余を殺せ。これ以上国が衰退していく様は見たくない。余がもう少し賢ければ、いや、守るべき者がいなければとっくに国は変わっていたかもしれん。しかしそれもたらればの話……せめてもの償いだ。余を殺しこの国を立て直してくれ」

「ぽっと出の僕に国を任せるなんて正気の沙汰じゃない」

「アリスがいる。あの娘は賢い子だ……妻は既に病気で伏せておる。余の私室には裏切りの兆候がある貴族のリストがある。粛清するなりなんなりするといい」

僕は黙ってナイフを拾うと皇帝の首へ当てた。


愚王……そう呼ばれる未来が見える。

悪い意味で歴史に残るだろう。


他国からも帝国の在り方に疑問が投げかけられていた。

このまま放置していてもいいのか、なんて声もあがっていたと聞いている。

遅かれ早かれこの国は終わっていたんじゃないだろうか。



「言い残すことは?」

「そうだな……アリスを頼む」

頼まれなくても守ってやるさ。

皇族という恵まれた生まれでありながらも僕ら平民を気にかけるような優しい娘だ。

少なくとも僕ら帝国解放軍に属する者はアリスを手助けするだろう。


僕は無言で頷いて腕を振り切った。

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