第二十八話 別れはさっぱりとしていた方がいい
お久しぶりです。
今後もよろしくお願いします!
「実は......吸っておりましたの」
「───っ!!」
オルとエルザが同時に武器に手を掛ける。
「(───大丈夫。まだ殺せる。こいつは人語を介する魔物と考えれば)」
「(お、おいおい......!マジかよ......もっと早く聞いとくべきだったぜ......!)」
キーラが手で笑みを隠しながら、ゆっくりと口を開いた。
そして、二人の反応を楽しむように、ヴァンパイア然とした態度で彼女は言った。
「───家畜の血を」
「......家畜ぅ?」
エルザの間抜けな声がその場を満たす。
その様子を見て、コロコロと笑いながらキーラは続けた。
「ええ、家畜の血抜き代わりに血をいただいておりましたの。メイド兼血抜き役ということですわ」
だが、エルザはまだ自身の武器に手を掛けたままだった。
それもそのはず、文献で読んだ情報とは違っていたのだから。
「......私たちが漁った文献の中には、人間の血を好んで飲むとあったわ。人間の血を飲みたくなることは無いの?」
「眉唾物ですわね。可食部の少ない人間よりも、はっきり言って私は牛や豚、鳥の血の方が好みですわ」
しばらく二人は構えたままでいたが、どうあってもこの場で確認することはできない。
結局武器から手を離し、ある程度緊張の解けたその場でエルザは大きくため息を吐いた。
「いやぁ、ビビったぜ......!」
「......はぁ、あんまり心臓に悪いこと言わないで。オオカミ少年になっても知らないわよ」
「......?私は吸血鬼レディですわよ?」
「あっそう......」
そして、夜が明けた。
時刻にして朝五時半。時計などこの場所には無いが、ぴったりとその時刻になるとドーメイは目を覚ました。
伸びをするような様子も無く、まるでただ目をつぶっていただけかのような素振りで起き上がり、そばに立つキーラを見るとお辞儀をする。
「おはようございます、キーラ様」
「あら、お早いのですのね」
ドーメイが寝床を片付け始めるとキーラが二人を起こしてきた。
少しして、背伸びをしながらまだ眠たさをあらわにしているオルと、顔だけは洗って来たらしいエルザをキーラが連れてくる。
「ドーメイさん、あんた朝早いんだな......さすがメイド」
「オルさん?私の方が早かったですわよ?」
「や、別に早く起きれればメイドとしてどうこうとかねーと思うぞ?」
適当な雑談を挟みながら、四人は支度を終えて歩き出す。
それからは街道ということもあり、特に問題も無く峠を越えるとすぐに大きな城壁が見えてきた。
「おっ!あれがドラギニア王国か!」
───ドラギニア王国。
別名『勇者の国』。現代の勇者がこの国で生まれ、そして魔王討伐後も国内のどこかで隠居生活を過ごしていると言われているこの国は、元は小国ながらも勇者の力だけで他の三大国と同等の力を得ていた。
「ドラギニアは比較的入国が容易ですので、傭兵のみなさんはどなたか一人だけ身分の証明できるものをお持ちいただければ大丈夫です」
そして、ドーメイのいう通り入国は一瞬だった。
傭兵という身分のわりに日傘をさしているキーラですら、軽い目配せくらいで通してしまう門兵はザルで、これにはオルですら驚いていた。
勇者の国というからには強固なセキュリティが敷いてあるものと思っていたエルザだったが、どうやらこのあたりは小国時代のままらしい。
「このまま、お屋敷の前まででよろしいでしょうか」
「もちろんいいわよ。報酬の受け渡しもあるし」
ドラギニア王国の中はティアン帝国のような富裕層とその他の隔たりのようなものはほとんどなく、一行はドーメイの使える主の元へと歩みを進めていく。
「ここがお屋敷でございます」
ドーメイに連れられて辿り着いたのは、築年数のかなり経っていそうな古ぼけた屋敷だった。
隅々まで手入れされてはいるがそれでも隠しきれないボロさは、オルたちに依頼をしてきたときの金銭面に困っているという話を勝手に裏付ける。
「......おー、屋敷だな」
「オル、黙ってなさい」
「おい、何も言ってねーって」
「......それでは、報酬金をお持ちしますのでここでお待ちください」
こそこそと話すドーメイに聞こえないくらいの声量で小突きあう二人を気に掛ける様子も無く、屋敷の中に入っていく。
屋敷の外で三人になった途端、エルザが二人の方を向いて口を開いた。
「......ねぇ、ここって何かおかしくない?」
「ん、何がだ?」
「古びた屋敷ということ以外は、これと言って何も気になるところはありませんが......」
何も気になるところはないと言う二人だが、エルザは馬車の方を指さして言った。
「馬車を停めても誰一人としてメイドや執事が出てこないの、さすがにおかしいと思わない?いくら古びてるって言ったって、こんな立派な屋敷に住んでんのにメイド一人なわけある?」
確かに、正直に言ってかなりの荷物があるというのに誰も手伝いに来ない。
この量の食材をドーメイ一人で運ぶとなればかなりの重労働だろう。
「......そーだな。手伝ってやるか?」
と、ちょうどその時。
屋敷の中からドーメイが出てきた。その手には報酬金を持っており、受け取ったエルザは中身を見て問題が無いことを確認すると、懐に収めた。
「それでは、この度はありがとうございました。またご縁があれば───」
「なあドーメイさん。食材運ぶの、手伝おうか?」
「......ありがとうございます。ですが、契約の内容ではないのでお気持ちだけ頂いておきます」
『お気持ちだけ』。つまり断られたということだ。
屋敷の中にはいられたくないのか、運ぶものを見られたくないのかは分からないが、手伝って欲しくはないという意思を感じ取ったオルは素早く引く。
ここで善意を押し付けるように粘らないのも、彼らの顧客への配慮だった。
そして、姿が消えるまで礼の姿勢を崩さないドーメイと別れた一行は、ドラギニア王国内での宿探しを始めるため、大通りに出てきていた。
「さ、安くていい宿探すわよ!」
「......金額に見合っていない品質というのは、それはそれでよくないのではなくて?」
「ははは、それもそーだな」
「うっさいわね、いいから足を動かす!」
「───......見つけた」
その三人を、人混みの中から見つめている一つの影があった。




