第二十六話 依頼人とは話してみたほうがいい
翌朝、オルたち一行は酒場に着くとすぐ、酒場の店主から二階に案内された。
「依頼人はもう来てる。ここだ」
「おう、あんがとなおっちゃん」
酒場の店主が下りていくのを見送った後、扉をコンコンコンと三回ノックすると女の声で返事が返って来る。
オルとエルザが顔を見合わせドアを開けると、小さな客間の上座にはローブを着た一人の女が座っていて、三人を見るとすっと立ち上がって深いお辞儀をした。
「お待ちしておりました。私、ドーメイと申します。この度はご依頼を引き受けていただき、誠にありがとうございます」
その姿を見て、エルザは気取られないようにてっぺんからつま先まで観察する。
年齢は三十歳ほどだろうか。黒髪を後ろで団子に纏めていて背筋がピンと立っており、彼女の眼は目の前の依頼人がどこかの上流貴族の近辺の人物だと見抜いていた。
「......ご丁寧にありがとうございます。早速、本題に入りましょう」
三人が座るのを待ってからドーメイが口を開いた。
「はい、依頼書にもあります通り、この度はドラギニア王国までの護送を依頼したいのです」
「(......ここまでは依頼書の通り、何の不思議もない。ただ、一つ気になるのは......)」
とそこで、これまで黙っていたキーラが手を挙げた。
寝溜めしておいたおかげか、幾分かはキリッとした顔つきになっている。
「失礼ですが、ドーメイ様のご職業は。とても一人で行動するような身分の方にも見えませんし......何か隠されているようでしたら話していただかないと」
「(こんのバカ吸血鬼......!直接聞きゃいいってもんじゃないのよ......!!)」
慌ててドーメイの方を見るが、ドーメイは目を伏せたまま。
「私の職業はメイドでございます」
その言葉に、ピクリとキーラの眉が動いた。
傍から見れば彼女もメイドの格好をしているが、ドーメイも自分のように何か隠しているのではと勘ぐっていたのだ。
「主様の申しつけで、ティアン豚をはじめとしたこの国の特産を仕入れに来ていまして、今回はその復路というわけでございます」
「なるほどな......つっても、メイドさん一人に頼むなんてちょっと危険じゃねぇか?魔物の数も減ったって言っても、危険なことに変わりはねぇだろ」
オルが腕を組んで首を傾げた。
それもそのはず、そもそも調達ということであれば小規模であれ交易路もあるし、わざわざ隣国まで出向く必要も無いだろう。だがドーメイはこうして一人で、わざわざ依頼を出してまでこの国に来た。
「......その通りでございます。これは私の我儘、主様に新鮮なティアン帝国の食材を召し上がっていただきたいという、その一心での行動なのです」
「随分とその主様をお慕いされているんですね。ですが、それなら一層きちんとした所で金銭を払って護衛を雇った方がいいんじゃ......」
「......無いんです。お金」
静寂が訪れた。
もはや酒場の喧騒もこの場の四人の耳には入ってこず、オルが気まずさから首の後ろをぽりぽりと掻く音だけが響く。
「......あの、馬車とかは」
「あ、すでに手配してありますので......」
「あっ......じゃ、じゃあもう行きましょうか......」
──────
「っと、これで最後の荷か?」
荷馬車に最後の荷物を積む。
一部荷物に氷の魔術が使用されていて、おそらくあの中が肉なのだろう。
「はい、ありがとうございます。それでは馬を出しますね」
ゆっくりと荷馬車が動き出すと、それを囲うように右手にオル、左手にエルザ、そして後方からはキーラが位置し、荷馬車の速度に合わせて歩き出した。
───しばらくして、正面から隊列を組んだ騎馬隊が正面からこちらに向かっているのをキーラ以外の三人が気づいた。
「(ん、あれは───)」
そして、騎馬隊の先頭に居る人物の人相が分かった。
どうやら相手もほぼ同時に認識したようで、隊列を離れてこちらに向かってくる。
「オル!エルザ!」
「あんた......コロニス隊の隊長さんじゃねぇか!」
どうやら正面から来ていた隊列はラシャーク・コロニス率いるコロニス隊だったようで、昨日別れの挨拶をしたばかりだったからか、二人を見つけると凄まじい笑顔で荷馬車に駆け寄ってきていた。
流れるような動作で馬から降りオルの手を取ってブンブンと振りながらも、すぐに荷馬車の存在に気付く。
「......おや、仕事中に失礼したね。ではお気を付けて」
「おう、またな!」
軽い挨拶だけして、再び馬を走らせて自分の隊へと帰っていく。
その様子を見て、ドーメイがぽつりと呟いた。
「あの方と......お知り合いなのですね」
「......?って、ドーメイさん、どうしてフードを......?」
ドーメイの話した内容までは聞こえなかったものの、何か声が聞こえたエルザが顔を上げるとなぜかフードを目元まで深く被ったドーメイがいた。
だがドーメイは返事をせず、ラシャーク隊が横を通り過ぎてからフードを脱いだ。
「......え、あ、ああ、エルザ様。すみません、少し太陽の日差しが眩しくて......」
とんでもなく慌てた様子は隠せていないし、今の天気は曇りだ。
日差しどころか太陽は一切顔を見せていない。
「......そうですか」
だが、今この場でエルザは指摘しなかった。




