第二十二話 答え合わせはしておいた方がいい
───火が点いた。
化け物の身体は陽光に晒された部分から火が点き灰になり、風とともに舞っていく。
「悔いは残るが......後味は悪くなかったぞ」
「おう、またな」
まるで別れの挨拶を待っていたかのように、化け物の身体は一気に灰になった。
「最近、人の言葉話すやつばっかだな」
「そうね。元々の私たちの相手に近いんじゃない?」
「......なーんか、やりづれー......。あとは、報告どーすっかだな」
「ま、村長の証言をもらえばなんとかなるでしょ。信頼とかあるでしょうし......で、キーラは───ちょ、ちょっと!!」
エルザがキーラの方を向いた瞬間大きな声を上げ、オルもそちらに振り向く。
そこには、身体全体を火に包まれたキーラの姿があった。
「なんですの?」
「なんですのじゃないわよ!あんたそれ......熱くないわけ?」
「あつ......あつ......」
「あつ?」
「あつい熱いアツイ熱いあついアツイィィィ!!♡♡♡」
突如、火の勢いが強まり火だるまとなったキーラが地面を転がる。
先ほどまでお嬢様口調で耽美なドレスに身を包んでいた美少女とは思えないほど、激しい悲鳴を上げている。
「だ、大丈夫かよ!!?」
「ど、どーすんのよ!水!?」
「水っつったってどこに───ん......?」
慌てふためく二人は、何か違和感を覚えた。
そもそも、純粋な吸血鬼であるキーラがなぜ太陽が出てくるのがわかっているのに逃げなかったのか?
「......チラ」
炎の中から、こちらを見るキーラと目があった。
それも一瞬だけで、すぐに悶え転げまわり始める。
「アッツぅぅぅううううううう!!!!♡♡♡♡......チラ───熱いぃぃぃぃいいい!!♡♡」
二度、目が合った。
明らかに反応を求めているのだ。
「なぁ」
「なによ」
二人は察した。
キーラを見ながらオルが口を開く。
「俺ら、この村に吸血鬼調査に来たんだよな」
「そうね」
確認するように、言葉を紡いでいく。
「じゃあ、あそこで燃えてるのは?」
「......おそらく、変態ね」
「......だよなぁ。あんなのに殺されたんじゃ、アイツも浮かばれないぜ......」
───キーラは、ドMだった。
「......チラ」
しばらくして、時刻は昼前。
オル、エルザ、キーラ、村長の四人は、村長の家で向かい合って座っていた。
キーラは深紅のドレスではなくまたメイドの格好に戻っている。
「さーて、知ってること全部ゲロってもらいますよ。村長さん?」
「......はい、全てお話します」
もうエルザにこの村に来た時のような礼儀正しさはない。
自分たちに混乱を招き、大事な事実を隠蔽していた要注意人物を問い詰める姿勢を取っていた。
「まずキーラのこと。あなたは知ってたんでしょうけど、他に知っている人は?」
「居ないと思います。ただ、化け物から夜な夜な守ってくれているとだけ」
「......次。なんで黙ってたわけ?」
「......彼女の希望です。救援を要請したのも『強そうな人間を見たかったから』だそうです」
エルザがキッ、とキーラを睨む。
「あら怖い」
「......次。家畜は?誰のせい?」
「あの化け物ですわ。家畜まで守るのはあまり乗り気ではありませんでしたの」
「......次。襲われた村人が居ないというのは本当?」
「ええ、一人も出しておりませんわ」
キーラの受け答えを聞く限りおかしなところは見当たらない。
村長も怯えてはいるが焦った様子は無く、話が食い違っているということは無いのだろう。
「それは......ミラに代わって礼を言うわ。ありがとう」
「ミラとは?」
「現女帝の名前よ。ミラ・ティアン、ついこの間即位したの」
「あら、皇帝から代替わりしましたのね。以前は確か......レイモンド......」
「レイモンドって、あんたそれ何代前よ......」
キーラの吸血鬼ジョーク(?)に呆れながら、次の質問に移る。
だが、エルザの纏う雰囲気が少し変わった。ピリつくような、殺意を帯びた目。
「......ここからは慎重に答えなさい。回答によっては殺すから」
村長がごくり、と喉を鳴らす。対してキーラは涼しげな顔で紅茶を口に含んでいた。
「キーラ、あんたの......今は敵ではないという発言の真意について聞かせて」
「そのままの意味ですの」
「......何か条件があるということ?」
「ええ。私が敵対する時、それは───......」
キーラの発言に、オルとエルザが警戒心を強める。
共闘した二人は分かっていた、あの強さの吸血鬼が敵になった場合、どれだけの被害が出てしまうのか。
「───私を殺せる人間が出てきた時ですわ!」
「......は?」
エルザは口をあんぐりと開き、ぽかんとした顔つきになる。
一方オルは顎に手を当てて少し考えこむと口を開いた。
「じゃあつまり......キーラを殺せるほど強い人間が出てきたら、そいつと戦いたいから人類の敵になるってことか?」
「ええ、そうですわ!特に、昼でこそ弱点のある吸血鬼を夜に倒せる人間を待っていますの!」
「あ、あんたバカすぎでしょ......」
張り詰めた空気から一転、キーラの発言にエルザは額に手を当ててのけぞった。
その体勢のまま次の質問に移る。
「じゃ、どうして人間の下についてんの?あんた、最初来た時はメイドの振りしてたわよね?今もメイドの恰好してるし......」
「それはただの趣味ですわ。自身よりも何もかも劣っている人間の下につくことで、惨めな自分を客観視し、欲求を満たしていますの!」
「ドのつくマゾってことね......──はっ!ま、まさか」
何かに気づいたエルザは、身体を起こしてキーラを見た。
「あんたが自分を殺せる人間を探してる理由って......」
「ええ!!力も弱い!羽も無い!生命力も再生力もない!そんな人間に、高貴な吸血鬼が最強と謳われる夜に殺されてしまったなんて考えると......はぁ......!!想像するだけであまりの良さに溜息が出てしまいます......!!」
「......村長さんはここまで知ってたわけ?」
「......最後以外は」
自身の身体を抱きながら言うキーラに、三人はドン引いていた。
漂う変な空気から何とか話題を変えようと、オルが切り出す。
「そ、そういえばキーラ」
「なんですの?」
「お前、吸血鬼の王って呼ばれてたよな。アレ、そのまんまの意味か?」
「よくぞ聞いてくれましたわ!」
突如、キーラが大声を出し席を立つ。
椅子を丁寧にしまうと、胸に手を当てて声高らかに自己紹介を始めた。
「全生物の頂点である吸血鬼の中で!もっとも偉く、高貴で、そして強い!世界が恐れた吸血鬼の王、キーラシール・ヴラディリアとは私のことですわ!」




