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第十八話 嘘はつかない方がいい


「え!あのキーラってメイドが吸血鬼!?」


部屋の中にオルの声が響き渡る。


「ええ。おそらくね」

「嘘だろ......それっぽいところあったか!?」

「片鱗はところどころあったわよ。......まさか気付いてなかったわけ?」

「............いや?思い返せば......?」


どうやらダメそうだ。

小賢しくも思い出せそうな雰囲気を出しているところがもうダメだった。


「はあ......しょうがないわね。一つひとつ説明してあげるからしっかり聞きなさい」

「いえ、その必要はありませんわ」


突然、部屋の中に声がした。だが、肝心の本人の姿が見えない。


「なっ......!?どっからだこれ......!」

「ここですわ」


現れたというより、そこに居た。

部屋の中に現れたキーラは、置かれているベッドに足を組んだ姿勢で座っていた。

音もなく突然現れた敵か味方かもわからない存在に、オルとエルザの二人は咄嗟に武器を手に取るが、肝心のキーラは立つ様子も見せない。


「霧化......!どうやら、予想は当たってたみたいね......」

「お詳しいのね、エルザさん。我々に関する文献なんてそう残っていないのに良く調べになって」


エルザの推察力にキーラはゆっくりとした拍手で称賛を送る。


「キーラ......!お前......敵か?」

「違いますわ。『今は』ですけれど」


『今は』という言葉にエルザが眉を顰める。


「......言葉が引っかかるわね。どういう意味か説明してもらえる?」

「......もう夜も更けてきたころですし、説明するよりも見てもらった方が早いですわね。皆様、こちらへ」


キーラに連れられ宿屋の外に出るとすでに民家の明かりは消え、月明かりだけが光源の役割を果たしていた。

辺りには静けさだけが広まり、自称伝承の存在の一挙手一投足に緊張感が張り詰める。


「お二方は、私をどうしろと命令されて来たのでしょうか?......まさか、退治?」

「私たちの仕事は......調査、そして場合によっては退治よ。......でも変な話ね。吸血鬼は自身を吸血鬼と名乗っている......と聞いたのだけれど」


エルザの言う通り、村長の家に居たときのキーラはメイドと名乗っていた。

ミラから聞いた情報が間違っていたのだろうか。


「『それ』ですわ。私が今あなたがたの敵ではない理由は」

「......?結局名乗ってんのか名乗ってないのか、どっちなんだよ?」

「私は名乗っていませんわ。下々にわざわざ身分を明かす意味もないでしょう?」


ここでエルザの頭に疑問がうかぶ。


「下々なんて言う割に人間の下についてるなんて、一体何考えてるわけ?」

「おほほ。それは───」


と、キーラが何か言いかけたところでばっと後ろに振り返る。


「───来ましたわ。お二方、準備を」


オルとエルザがそれぞれ武器を構える。その瞬間、キーラの視線の先に馬車ほどの大きな影が落ちる。

三人が上を見上げると、『それ』は羽をはためかせながら降りてきた。

縦横それぞれ3メートルほどもあるゴリラのような容姿の巨大な体躯。ただ一つ違うのは、蝙蝠の羽が生えていることだった。


「んだこの化け物......」

「さあ、種族名は分かりませんわ。ただ一つ......これは吸血鬼の血が混ざっている」

「......まさか、こいつが事件の正体ってわけ?」

「ご名答。ちなみに、中々手強いですわよ」

「───吸血鬼の王。これで四度目だ」


二人が構えていると化け物が口を開いた。


「こいつ......喋んのかよ!」

「高貴な血族の血が混じっているのです。言葉の無い者を喋らせるなど造作もないことですわ」

「────四度。貴様は我の殺害に失敗した」


オルたちの会話を聞いているのか聞いていないのか分からないが、化け物の視界にはキーラしか入っていないようだった。


「ちょっと、あの化け物が言っていることは本当なの?」

「......ええ。確かに私はあの化け物の殺害に失敗しています。──理由は二つ」


キーラが真っ赤な長い爪が生えた指を二本立てる。


「一つ。この村の住人に被害を出さないようにすること」

「二つ。あの不完全体が夜の間はほぼ不死身であること」

「なるほど......吸血鬼の不死性ね......」

「そういうことですわ。そして太陽を恐れ夜明けとともにアレはどこかに帰っていく。追いかけようにも私が陽光にさらされては元も子もないので、こうして停滞しているわけなのです」


キーラは肩をすくめてやれやれといった素振りを見せる。

だが、実際に手を焼いているというのは本当だった。キーラに『アレ』は殺せず、『アレ』もキーラを殺せない。


「ちょっと待ってくれ。じゃあなんでアイツはキーラの居ねぇところを襲わねぇんだ?」

「......これは推測なのですが、恐らくアレも限界なのでしょう。遠くに拠点を移すだけの血も無く、襲うところがここしかない......そう考えると辻褄が合いますわ」


キーラの推測は当たっている。

そもそもあの巨躯を維持するために相当なエネルギーを必要にしていたのだ。二度目の襲撃をキーラにいなされた時点で、この村を襲うという選択肢しか取れなくなっていた。


「なるほどね......じゃあ、どうして私たちをここに呼んだわけ?何の見返りも無く代わりに殺せと?」

「見返りも無く?何を勘違いしているのかわかりませんが、現在ティアン帝国に蔓延る吸血鬼の噂はアレが原因ですから、アレの首を持ち帰れば事件解決ですわよ?」

「た、確かに!」

「確かにじゃないわよ。アイツ殺したら今度はキーラが脅威になるかもしれないんだから」

「た、確かに!」


馬鹿の一つ覚えの返事にキーラでさえ苦笑する。


「今は、って言ってたじゃない。ちゃんと話聞いてたの?」

「確かに......キーラ、そこんとこどうなんだ?」

「おほほ......」


はぐらかすように笑うキーラに対して、口を開いたのはオルでもエルザでも無かった。


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