第十七話 変態には関わらない方がいい
「アッツぅぅぅううううううう!!!!♡♡♡♡」
オルとエルザの前に何かが転がっている。体の炎をかき消そうとしながら地を這うナニか。
ただ『ソレ』が発している悲鳴は、痛みというよりも喜びの感情を帯びているように感じた。
「なぁ」
「なによ」
「俺ら、この村に吸血鬼調査に来たんだよな」
「そうね」
「じゃあ、あそこで燃えてるのは?」
「......おそらく、変態ね」
「......だよなぁ」
何とも言えない顔をしたオルと、目の前の異物を直視しないようにしながらため息をつくエルザ。
───ことの発端は数日前に遡る。
「ここが直近で吸血鬼発見の報告があった村ね」
ティアン帝国より馬車で半日ほど揺らされ、二人は郊外の村に来ていた。
この村は小さく、家屋の数からしても数十人規模の村だろうということが推測できる。
「まずは村長に話聞けって言われてたな。すみません、ここの村長さんの家って───」
規模が規模なこともあり、村長の家はすぐに見つかった。
オルがドアをノックすると、少しして中から白髭を蓄え腰の曲がった年配の爺がドアを開けた。
「お、いたいた。あんたが村長さん?」
「いかにも私がこの村の村長ですが......何用でしょうか」
「俺ら、吸血鬼調査で来たんすけど......」
吸血鬼という言葉を聞いて村長の目が開く。
「そうでしたか......立ち話もなんでしょう。中へどうぞ」
招かれるままに家の中に入る。
外見から容易に予想できる内装で特筆すべき点もない。いたって普通の家だった。
「紅茶でございます」
ただ、メイドが居るという点を除いては。
互いに挨拶を済ませるとまずはエルザが切り出した。
「......随分とお若いメイドさんですね?肌もすっごく白くて綺麗......」
「ええ。彼女は旅の途中でこの村に流れ着き、腰を悪くした私のために家政婦として働いてくれているのです。キーラ、挨拶を」
村長の横に待機していたメイドが深々とお辞儀をする。
「家政婦のキーラと申します。以後お見知りおきを」
「どーも」
「......キーラさんは、いつ頃この村に?」
「昨年の今ごろです」
「そうですか。......この村の雰囲気はどうですか?」
「はい。部外者の私にも皆さんとても良くして頂いていて、とても暖かい村だと思います」
「それはよかったです。それでは本題に移りましょうか」
まるで取り調べのようなやり取りだが、よそ者でかつ吸血鬼の噂があっても村を出ていない若者。よほど思い入れがあるのか、それとも別の目的があるのか。定住の経験がほとんど無いエルザからしたら不思議で聞かずにはいられなかった。
「───なるほど、ありがとうございます。......一つ、お願いがあるのですが」
「はい、なんでしょう」
「調査のため数日どこかに泊まらせていただきたいのです。どこか宿を貸していただけませんか?」
「ああ、それでしたら村のはずれにはなりますが、今は使っていない宿屋があるのでそちらをお使いください」
「使っていない宿屋......?失礼ですが、宿屋の主人に何かあったとか......?」
「ああいえ、魔王が生きていた時代の名残ですよ。あのころは冒険者の移動も盛んだったものですからそこそこ繁盛していたのですが、いまはもうからっきしで......他の何かに再利用しようにも人が居ないので放置されてるんです」
「なるほど。そういうことでしたか」
「ええ。キーラ、案内して差し上げなさい」
「かしこまりました」
「じゃ、村長さんもまた明日。なんかいい報告ができるよう祈っといてくれよな」
そして二人は村長の家を出ると、すでに星が見えるほどに外は暗くなっていた。
「......?」
「エルザ様。どうかされましたか?」
立ち止まって空を見ているエルザに、不思議そうな顔をしたキーラが声を掛ける。
「いえ......ただ、星が良く見えるな、と思ったので」
「おー、確かにティアンに居た時よりよく見えんな」
「......ええ、そうですね。────と、お二方。到着いたしました」
案内されたのは灯りこそないものの、至って普通の宿だった。
手入れされていないからか、ボロくは見えるものの雨風はしのげるだろう。
「それでは、失礼いたします」
「ありがとよ。キーラさんも吸血鬼に気を付けてな」
「......お気遣い痛み入ります」
そうしてキーラの後ろ姿が見えなくなると宿に入る。
少し埃っぽいものの、荒らされた様子も無く掃除さえできれば普通に営業開始できるような内装だった。
「とりあえず、作戦会議しましょうか」
「おう」
適当な部屋に入りオルは床に、エルザは椅子に座る。
そのままエルザは机の上に紙を広げ、ペンを手に取った。
「まずこれまでに聞いた情報を整理するわね。まず一つ目。吸血鬼は夜に現れる」
「吸血鬼って日光が苦手なんだよな?じゃあ変なところは別にねーのか」
エルザが頷いた。
「ええ、伝承と示し合わせてもなんら変なところはないわ。これは事実の確認の意味合いが大きいわね。次は二つ目───実際に襲われた村人は居ない」
「襲われたなんだってのは、確かティアン内で噂が誇張されてただけだったってことでいいんだよな?」
「そうね。他の村では本当に出たのかもしれないけど、ここでは被害者は出ていないようね」
「だな、次は三つ目か。えーと......襲われたのは豚や鳥などの家畜。それも最近の話だったんだよな」
「おそらく、この話が噂として広がっていく途中で家畜が人にすり替わったんでしょうね。実際に家畜は血を吸われていたそうだし、吸血ができる生き物が犯人と見て間違いないでしょうね」
含みのある言い方にオルが首を傾げる。
「......?なーんかその言い方だと、家畜が襲われてたのは吸血鬼のせいじゃねぇってのか?」
「そうね」
「じゃあ噂は吸血鬼じゃないってことかぁ。会って見たかったけどちょっと残念だな」
残念そうに床に転がるオルにエルザが声を掛けた。
「あら、私は吸血鬼は居ないとは言ってないわよ」
「え!?今さっき居ねぇって......あれ?」
「だーかーら、家畜を襲ったのは吸血鬼じゃなくて、他のナニかってこと。吸血鬼は別でいるんじゃないって話よ」
「マジかよ!え、どっかで会ったってことか!?」
「落ち着きなさい。ちゃんと説明してあげるから」
興奮しているオルを宥めた後、ペンを顎に当てて推理をするかのように語り出した。
「恐らく、吸血鬼は別に居る。そして、私たちはそれに会っているはず......私の推理が正しければだけどね」
「お、おい......一体どいつだったんだよ......!!」
「そんなの一人しかいないでしょ。......え、まさか本当に分からないわけじゃないわよね?」
エルザの信じられないといった顔を見て、オルが真剣に悩みだした。
「今日会った......は!まさか馬車のおっちゃんか!?」
「はぁ......なわけ無いでしょ」
あまりにも的外れな予想にエルザが頭を抱えた。
そもそもこの村で吸血鬼騒ぎがあったというのに、村以外の人間を疑うセンスの無さに重ねて呆れる。
「他会ったのは......ま、まさか!!?」
「やっとわかった?」
「まさか......村長か!?」
オルの頭にペンが飛んできた。




