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第十五話 攻撃は避けた方がいい


稽古場の中に緊張が走る。


「両者位置についたね。それでは、最後のルールの確認をしよう。使用可能な武器は稽古場に用意されているもののみ。魔術の使用については、稽古場を破壊しないもののみ使用して良いものとする。そしてもちろん、殺傷は無しだ。────開始!」


一方そのころ。


「お、なんかやってるじゃーん」


「あんた......えーと......」


「ん......?あー......あの時の」


「おや、カナタじゃないか」


「あ、思い出した。カナタ・アンブロシアだ」


カナタ・アンブロシアは監視の隙を見て抜け出し城内をうろついていた。

すると普段は騒がしい稽古場がやけに静かではないか。毎日毎日書類とにらめっこしている中で、面白そうなことが起きているとなれば顔を突っ込まずにはいられなかった。


「カナタ。もう仕事は片付いたのかな?」


「え、あー......」


「(この人、サボって来てんな......)」


カナタの歯切れの悪い回答に、ラシャークが苦笑する。

叱ることもしない様子から、カナタのサボり癖は日常的なものだと容易に判断できた。


「今はー......ユイナが頑張ってる」


おそらく、ゲロ吐きそうになりながら頑張っているであろう友人の姿に思いを馳せる。

このティアン騎士団の中で、おそらく損な役回りを一番しているのは彼女だろう。


「......後で何か奢ってあげるんだよ」


「はーい」


一通りのやり取りを終えたところで、稽古場の中心に三人の視線が向く。

エルザとアンジェはどうやら数度の差し合いを終えた後のようで、少し距離を取って向かい合っていた。


「っていうか今更だけど、隊長の獲物がそれってどうなの?」


「んふふ、うちは自由だからね!」


得意げに右手の手斧を掲げるアンジェ。

皇帝直属の騎士団の団長には似つかわしくなく、どちらかというと山賊のそれだ。


「いやいや、そんだけ獲物違うと教えるの大変でしょ。騎士連中みーんな剣持ってたわよ」


「そんなことないよ!......ちゃんと、振って当てたら勝てるよって教えてるもん!」


エルザの顎ががくっと落ちる。声も出せないほどに呆れていた。


「そりゃ私たちに頼むわけだわ......」


「ちょっと!よくわかんないけど、馬鹿にしてるでしょ!」


「羨んでんのよ────ま、いいわ。再開しましょ」


「うん!行くよーっ!!」


掛け声とともにアンジェが地を蹴ってエルザに肉薄する。

エルザにとって、アンジェの速さは脅威ではない。仲間のオルよりも素早さに自身のある彼女なら、避けるだけなら一日中でもできるだろう。


「(問題はカウンターね......)」


故に、最も警戒しなければならないのはこちらの攻撃後の隙。

不用意に生ぬるい攻撃をしてしまえば、より痛いカウンターを貰ってしまうことになる。


「考えごとしてたら勝てない......よっ!」


振り下ろされる手斧を紙一重で躱す。しかし、手斧が地面に触れるかといった瞬間、アンジェは手首を返し勢いを殺さないまま太刀筋を遡るように手斧を振り上げた。

東洋の剣士の間で伝わる秘剣「燕返し」。手斧のため速度こそ若干劣るが、それとまったく同じものをアンジェは自らの力で編み出していた。


「(膂力だけでなんとかしすぎでしょ......!)」


しかしそれでもエルザには当たらず、のけぞった彼女の前髪に切っ先がかするだけに終わった。

アンジェの顔に笑みがこぼれる。これを避けた人間は騎士団を除くと片手で数えるほどしかいなかったからだ。


「おおっ!よく避けたね!」


「初見殺ししてんじゃないわ......よっ!」


足に魔素を溜め、空いた脇腹を蹴り飛ばす。

まともに食らったはずのアンジェは吹き飛ぶわけでもなく、数メートル後ろに後退させられるのみとなった。


「むむむ......良い魔術師だわ!今の蹴り、魔術による身体強化だよね!?」


「......驚いた。まさか初見で見破られるとはね」


アンジェの反応に目を見開く。

なぜなら、特定の部位に強化を施す身体強化魔術がまさか初見で見破られるとは思っていなかったからだ。

基本的に後衛に配置されることの多い魔術師の使う身体強化は前衛職に比べて、全身に纏って使用するのが基本とされている。

つまり、エルザは本来の魔術師とは違う戦い方をする、という情報を相手に見破られたことでもあった。

ここまではエルザの思考の範囲であり、実際のところアンジェはそんなことには気付きもせずただただ感心していただけなのだが───。


「ラシャークさん?」


唐突に、エルザがラシャークに声を掛けた。


「なんだい?」


「確か、ここ破壊しなかったらいいんでしょう?」


「もちろん。......加減は考えてくれると助かるよ」


「ふふ、保証はしないわ」


「む!なんか使う気だね......いいよ!」


エルザの纏う雰囲気が変わったのを感じ取りアンジェも構えなおす。


「出力は手加減してあげるから、しっかり頑張りなさいよ......!」


エルザの足元にパチッという音とともに、緑色の雷が発生する。

線香花火のような静かな音から次第に激しくなり、バチバチという音にまで進化した。


「じゃ、行くわよ。『ライトニングネオン』」


エルザが消えた。


「む!消えた!」


次の瞬間、アンジェの上空から現れる。

帯電した足が上から降ってくる。所謂かかと落としだ。


「『雷襲脚』」


ただ、その速度はこれまでと比べ物にならない。

速度が比べ物にならないということは、それに掛かる威力も倍増している。

何とかアンジェは受け止めることができたが、エルザの動きが見えているわけではなく、本能から来るものだった。


「うぐ......重......い!!」


「(うっそ......これ止める......?)」


一度防いでしまえば、その攻撃自体はもう通らない。

エルザそれは分かっているため、瞬時に離れて次の行動に移った。


「『雷旋脚』」


雷と同等の速度で繰り出される回し蹴りは、またしてもアンジェの腕で防がれてしまう。


「(これは......何かカラクリがあるわね)」


明かな防御力にタネがあると確信したエルザは再び距離を取った。

重い一撃を喰らったアンジェは手首をプラプラと振って痛みを表現する。


「んふふ!じゃあ次は......うちの番!」


アンジェが走り出すと、その一挙手一投足にエルザの注目が集まる。


「(アンジェ・パイシュレーの攻撃が当たるとは思えないけど、何か当てる算段があるはず。最悪、防御することも想定に入れておく必要がありそうね。......ま、これでなあなあにして模擬戦終わりでいいでしょ)」


残り数歩で射程圏内。足元に魔素を溜める。


「避けれるかな!?『黒女神の斧(ペルセポネ・アクス)』」


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