1−2 イーザラント・ダスト
「あのぅ、先程は大変お見苦しいところを…申し訳ありませんでした。私がイーザラントです」
と、依頼人の中年男の向かいに腰掛けた青年が名乗った。
スーツ姿の、どこにでも居そうな優男、といった感じだ。
そして彼の他にも、三人の美女が傍らに立っている。
一人は、応対に出てきた青髪の少女。
残りの二人は…イーザと裸体で、彼に馬乗りになりくんずほぐれつしていた妖艶な女だった。
彼女らは、青髪と同じく給仕服姿であるが、あからさまにヤル気が無い。
特に、背丈のある方などは客を前にして、「ふぁぁ〜」とあくびをする始末だ。
だがそれ以上に気になるのは、妖艶二人の格好だった。
給仕服とはいったが、青髪のとは明らかに違う。
具体的にはより露出が多い。
例えば胸部などは、上半分いわゆる北半球が露出してしまっている。
敢えてパツパツなのを着用し、抜群に良いスタイルをより強調していたり…
更に足回りなどは屈めば即下着が見えてしまいそうな程に短いスカートを着用していたりする。
(ったく何て格好だ…乱れ堕落している。客を前にしてこんな…こん…な……)
気付けは中年男は、胸や太腿に釘付けになっていて…
その内、女と目が合った。
パチンとウィンクし、ペロリと舌舐めずりをする女。
今すぐにでも抱きたい、との強い衝動が彼を揺さぶった直後
「お客さん? 大丈夫ですか?」
と、イーザの言葉が掛けられ、正気に戻った。
(い、いかんいかん! オレは何を考えているんだ)
すぐに頭を切り替え、依頼人は切り出した。
「ゴホン…こちらは超常現象なら、何でも解決出来ると聞いているが、事実か?」
「ええ事実です。もっとも、本当に超常現象であったらの場合に限りますが」
「うん……すまんが一本いいか?」
これも、また引き返した煩悩を飛ばしたいが為である。
どうぞとイーザが促す。
中年男はタバコを取り出すと、火をつけた。
青髪の少女が無表情で灰皿を置く。
煙を吐き出し、彼は口を開いた。
「オレは健康食品工場を経営しているギャンディットだ。いわゆるオーナーだな。トルッカヘルスフーズ、ご存知か?」
「うーん、申し訳ないが存じ上げませんね」
「健康食品なら、もしかして精のつく、すっごいのあるんじゃない?」
あくびの妖艶女が、主人の肩に手を置き、身体を密着させて頭上からイーザに囁いた。
関係は隠す気は、まるで無いらしい。
「だとしても俺には必要ねえな」
「ンフフ、ま〜そうよねぇ」
「とびきりのがあるにはあるぜ。アンタらの夜には必要じゃないか? ご用命ならいつでもどうぞ。で、話を戻していいか?」
「すみませんどうぞ」
「で、だ。先生は当然、サキュバスを知ってるだろう? 人間の精を啜る化け物…そこのお手伝いさんらみたいなとびきり美人の悪魔をな」
「ええ。私への相談も、サキュバスに関するものが圧倒的ですから」
「なら話は早い。先日、ウチの工場がサキュバスに乗っ取られた。誓うがオレは正気だぞ。ヤツが使う魔法みてーなのに社員が何人もやられちまった。オレ達は逃げるしかなかったんだ」
「なるほど。それでは警察の手にも負えなかった訳ですね」
「あ…ああ、その通りだ」
(あ、イーザ、ここは思考が乱れたし多分嘘よ。警察には言ってないわね)
ギャンディットは知る由もない。
二人のメイドのイーザにくっ付いていない方に、丸裸にされていることを。
言葉、仕草、或いは思考の乱れを感知され、分析、そしてテレパシー的能力で報告されている事を。
ある程度話が進んだところで、イーザは依頼人にこう告げた。
「ではギャンディットさん、依頼は前向きに検討させて頂きたいのですが…報酬の方はどうでしょう?」
「報酬か…相場はいくらだ?」
「ああ、ウチはお客様の経済状態も考慮して、そちらの言い値で決めてます。あ、勿論タダとか明らかやっすいのは無理ですけど」
「では……これだけだな」
依頼人が机に置いたのは紙切れだった。
小切手らしい。
そこに彼が書き込んだのは、1と、ゼロが七つ。
「やります是非やらせて下さいッ!!」
交渉はあっさりと纏まった。
「アンタさぁ、ほんと簡単に受けるのね。お金に目が眩んじゃった?」
依頼人が帰った後、リリム・サーキュリスが呆れ顔で言った。
彼女はイーザに依頼人の嘘を、脳内会話にて報告していたサーキュリス姉妹の妹である。
「しゃーねーだろ、ウチには金食い虫が居るからな」
「えぇ〜誰のことぉ?」
「お前だよリリス! ったく、夢色魔のクセに色々とお買い求めやがって! しかもお前、依頼人に色目使ったろーが!」
妖艶に笑む、サーキュリス姉妹の姉の方、リリス・サーキュリスがマッサージチェアに腰掛けながらケラケラ笑う。
無論、ワインテーブルにはおやつも完備だ。
「だって当然じゃなーい? ワタシら悪魔よぉ~欲望に忠実だし誘うのは本能なのぉ…あ、ああ~きくぅ、マッサージきく! あーブラウニー美味し」
「姉さん! もうっ、あんまりダラダラしてると魔力に悪いわよ」
「だいじょ〜ぶ〜新鮮な魔力ならいくらでもあるじゃない。そ・こ・に」
リリスはイーザの股間を指差し「ね、イーザちゃ〜ん」と言った。
「お前は貪欲過ぎんだよ。俺だって忙しいんだ少しは我慢しろ!」
我慢という言葉に、妹リリムが
「我慢は違うでしょ。私達にとっては食事だし、しっかり気張って精気放出なさいよ」
と言うが、そこに「あの」と青髪のメイド、エリス・ブラッドが切り込んだ。
「マスターイーザ。依頼が入ったのですから、早く終わらせてしまいませんか?」
彼女は無表情のまま…いや、声色は微かに不機嫌な調子で言っている。
こうなった彼女は、ジリジリと負のエネルギーを溜め込み続けるから、イーザは即座に
「お、おう、そうだな! とっとと終わらせちまうか!」
と即答し、外出準備を開始した。
「じゃあ二人でよろしくお願いねぇ~夜までには帰ってくるのよ~」
リリスはヤル気ゼロ。
元より彼女らには期待していないイーザ。
それに二人には屋敷に残っていて貰った方が都合がいい。
だから最近などは特に、イーザとエリスがペアで動くことが多くなっている。
「エリスちゃんも行ってらっしゃ〜い。依頼中に沢山イチャイチャするのよ〜」
「わ、私は! マスターイーザと依頼をこなすだけですから!!」
本日、ようやくエリスが言葉と表情を乱した。




