まりものお仕事
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苦手な方はご注意くださいませ。
休日の昼過ぎ、まりもは窓の外の森を見ながら言った。
「少し、森の様子を見に行く」
「え、今から? いいな。私も一緒に行っていい?」
「……別に構わないが、お散歩のつもりで来るなよ」
「わかってるよ。たまには一緒に歩きたいなって。いいでしょ?」
まりもは少しだけ黙ってから、淡い緑の髪をかき上げた。濃い緑の葉模様が、指の間で揺れる。
「……好きにしろ。ただし、勝手に奥へ入るな。ぼくの後ろについていろ」
「はーい」
私たちはアパートを出て、住宅街の端から森へ向かった。普段は遠くから眺めているだけの緑が、だんだん近くなる。まりもの長い髪が風に揺れ、葉模様が木漏れ日の中で光っていた。
森に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
静かすぎる。鳥の声も風の音も、急に遠のいたように感じる。足元の落ち葉が、誰も踏んでいないのに小さく動いた。
木々の間を淡い光がふわりと漂う。
「……ねえ、今の光、何?」
「気にするな。害はない」
まりもの声が、いつものアパートにいるときより少し低くなる。背筋が伸び、視線が鋭くなった。普段の少し気怠げな雰囲気が消えて、守り神としての気配がにじみ出ている。
奥へ進むほど不思議なことが増えた。影が勝手に揺れたり、聞こえないはずのささやき声が耳の奥でしたりする。私は無意識にまりもの袖をつかんだ。
「大丈夫だ。ぼくがいる」
まりもは毅然とした声で言った。そして、そっと手を上げる。すると漂っていた光が、まるで従うようにまりもの周囲に集まり、穏やかな輪を作った。木々のざわめきも、すうっと収まる。
「ここはぼくの領域だ。キミに害が及ぶことは許さん」
その言葉には、アパートでコーヒーを飲んだり、ワンピースを着て照れたりしているまりもとは違う、はっきりした威厳があった。
しばらく森の奥を見回したあと、まりもは踵を返す。
「問題はないな。戻るぞ」
帰り道、私は少しだけ安心したように息を吐いた。まりもの横顔は、もういつもの落ち着いた表情に戻っていた。淡い緑の髪が、普通の風に揺れている。
アパートの玄関が見えてきた頃、つい口が動いた。
「なんかかっこよかったね、まりも」
「まりもって呼ぶな」
低い声が返ってくる。
でもその声は、森の中で聞かせた守り神の声より、少しだけ柔らかかった。




