精霊の歌
生成AI(Grok)による本文作成を行い、微調整しています。
苦手な方はご注意くださいませ。
仕事を終えて帰宅する途中、夕暮れの空気が少し冷たくなっていた。
住宅街を抜け、いつもの道を歩いていると、どこからか聞いたことのある声が聞こえた。低くて、静かで、でもどこか澄んでいる。風に乗って、途切れ途切れに届いてくる。
「……誰だろう」
声のする方へ足を向けると、近くの川辺だった。木々の間から、淡い緑の長い髪が見える。濃い緑の葉模様が、夕陽を受けて弱く光っていた。
まりもだった。
普段はほとんど外に出ないまりもが、珍しく川の近くに立っている。周囲に人の気配はない。彼女は誰に聞かせるでもなく、静かに歌っていた。
普段の低い話し声からは想像できないほど、澄んでいて、優しい声だった。力を込めていないのに、空気の中にすっと馴染んで、夕暮れの川面に溶けていくようだった。聴いているだけで、いつの間にか肩の力が抜けていく。今日一日の疲れが、静かに薄れていくような感覚があった。
私は思わず足を止めた。
声をかけずに、少し離れた木の陰から、その姿を見ていた。
夕陽に照らされた横顔は、いつもの毅然としたものと同じなのに、どこか柔らかく見える。髪が風に揺れ、葉模様が静かに動くたびに、歌の節が溶けるように続いていく。
しばらく、ただ聴いていた。
歌がひと区切りついたとき、まりもはこちらに気づいたように、ゆっくりと振り返った。驚いた様子はない。最初から分かっていたような顔で、低く言った。
「おかえり」
「……ただいま」
「どれくらい聴いていた」
「少しだけ」
「隠れるな。見えていた」
そう言いながらも、まりもは特に怒っている様子はなかった。川面を一度見てから、こちらへ歩いてくる。
「今の歌、何? すごくきれいだった」
まりもは少しだけ間を置いてから、静かに話し始めた。
「精霊の歌だ。もともと儀式のときに使うものだが、口ずさむ分には問題ない」
「儀式?」
「森を整えたり、境界を確かめたりするときに歌う。力を乗せることもできるが、今はただの口ずさみだ」
「そうだったんだ。……どうして、ここで歌ってたの?」
まりもは一瞬だけ視線を川の方へ戻した。
「気が向いただけだ。理由はない」
それ以上は説明しなかった。
ただ、さっきまでの歌声には、確かに何かが含まれていた。はっきりとは分からない。ただ、聴いているあいだ、自然と呼吸が深くなっていたことだけは覚えている。まりもはそれを、一言も言わなかった。
「また、聴きたいな」
まりもは少しだけ黙ってから、短く答えた。
「気が向いたらな」
それ以上は言わず、先に歩き出す。淡い緑の髪が、夕暮れの中で静かに揺れていた。
私はその後ろを追いながら、ふと口にした。
「もしかしてまりも、迎えに——」
「まりもって呼ぶな」
低い声が、すぐに返ってきた。
いつもの抗議なのに、今日は少しだけ、夕暮れの空気に溶けて聞こえた。




