精霊様の看病
生成AI(Grok)による本文作成を行い、微調整しています。
苦手な方はご注意くださいませ。
季節の変わり目だった。
夕方、人間がいつもより早い時間に帰ってきた。顔の色が悪く、足音も重い。熱があるのは一目で分かった。玄関で靴を脱ぐ仕草もいつもより鈍く、すぐに布団へ入り、ほとんど動かなくなる。
ぼくは窓辺からその様子を見ていた。
淡い緑の長い髪が肩に流れ、濃い緑の葉模様が部屋の明かりを受けて静かに揺れている。いつもなら「脆い」で済ませるところだ。なのに今日は、胸の奥がわずかにざわついた。放っておけない、という感覚が先に立つ。面倒だと思いながらも、体が動いてしまう。
「……キミ、熱があるな」
「まりも……? うん。少しだけ」
「少し、ではないな。人間は脆い。動くな」
人間が目を閉じたのを確認してから、ぼくは静かに部屋を出た。家には使える材料がないため、森へ出かける。足音を殺して外へ出て、近道を辿る。夜の森は静かで、空気が冷たい。なるべく手早く、悪しき物を打ち消し、熱を落ち着かせるのに向いている若葉と、水分を含んだ実を集めた。火を通す必要のないものだ。人間の弱った体にも負担が少ない。
戻ると、人間はまだ眠っていた。額にタオルを当て直し、集めてきたものを小さくちぎって器に盛る。枕元へ持っていくと、人間が薄く目を開けた。
「起きたか? これを食べろ」
「……何これ」
「森のものだ。火は通していないが、毒はない。口にしろ」
人間は少し躊躇したあと、口に入れた。苦みはほとんどない。穏やかな緑の香りがする。少しずつ食べ進めるのを確認してから、水を近くに置き、布団の端を直す。
「動くなよ。悪化すると面倒だ」
「……ありがとう」
「礼はいい。ただの対処だ」
そう言って、そばを離れずにいた。時々様子を確認する。人間はとても弱い。ぼくら精霊とは違う。少し気を抜けば、すぐに具合を悪くする。その事実が、今夜はいつもより重く感じられた。
夜になって、人間の熱が上がった。森のものが効き始めているのだろう。
人間の息が浅くなり、汗がじわりと生地を湿らせているのが分かった。だが、このままでは冷えてしまう。
「汗、かいてるな」
「……うん」
「このままじゃ冷える。着替えた方がいい」
人間は体を起こそうとして、すぐにふらついた。無理だと判断する。
「……手伝う。じっとしていろ」
クローゼットから新しいパジャマを出し、人間を支えながらボタンに手をかける。普段なら何とも思わない動作だ。人間の体など、特別なものではないはずだった。
なのに。
汗で少し透けた生地が、肌に沿って張りついている。鎖骨のラインや、肩の丸みが、いつもよりはっきりと見える。手が一瞬止まった。耳がぴくりと動き、視線が逸れる。淡い緑の髪が顔にかかったのを、指で払いのける。動作が少し早かった。
「……じっとしていろ」
声が、自分でも低いのが分かる。
着替えを手伝いながら、焦っているのが分かってしまった。視線を合わせず、手つきだけを正確に進める。触れるたびに、耳の先が熱を持つのを感じる。
「まりも……?」
「何だ」
「顔、赤いよ、大丈夫……? 私の風邪が移った?」
「うるさい。ぼくは精霊だから大丈夫だ。……照明のせいだ。いいから黙っていろ」
最後のボタンを留め、人間を再び布団に寝かせる。額のタオルを差し替え、水を近くに置く。ぶっきらぼうに振る舞っているつもりでも、手が強くならないのが自分でも分かった。
「このまま眠れ。朝まで動くな」
「うん。……ありがとう」
「礼はいい」
自分のベッドに戻りかけたあと、少しだけ振り返る。人間の寝息を確認して、すぐに視線を外した。何か言いたかったが、結局何も言えない。
別に、人間の女に何かを思うことなどなかった。
森にいた頃も、人の姿になってからも、関心など持たなかったはずだ。
なのに最近は、違う。
隣で眠る気配が気になる。体調を崩すと放っておけない。触れた肌の熱が、指に残る。汗で少し艶やかだった姿が、頭から離れない。森へ材料を取りに行った足取りも、ただの対処のはずなのに、急いでいた。
暗がりの中で、静かに目を閉じる。
自分でも説明できない感情を、今夜は少しだけ認めてしまった気がした。
朝。
人間はほぼ回復した状態で目を覚ました。熱は下り、顔色も戻っている。森のものが、しっかりと効いたらしい。
「……おはよう。熱、下がってる」
「当然だ」
ぼくは窓の外を見たまま。人間を見られなかった。淡い緑の長い髪が背中に流れ、葉模様が朝の光を弱く反射している。いつも通りにしているつもりだが、昨夜のことがまだ残ってて落ち着かない。
「昨日はありがとうね」
「礼はいい」
少し間が空く。
「まりも?」
「……まりもって呼ぶな」
いつも通りの低い声しか出なかった。
でもその声には、夜の名残が、まだ薄く乗っている気がした。




