彼岸花と
生成AI(Grok)による本文作成を行い、微調整しています。
苦手な方はご注意くださいませ。
まりもが森から戻って、一日置いた夜だった。
「少し付き合え」
低い声でそう言われて、私は靴を履いた。いつものように、特別な説明はない。けど拒否する空気でもなくて。淡い緑の長い髪が夜気に揺れ、濃い緑の葉模様が暗い中でほとんど色を失っている。シャツの下に付けたペンダントが、肌に触れる位置でわずかに温かい。
夜の森は少し怖かった。まりもと一緒だし、ペンダントもある。でも昼間ならまだしも、暗がりの中へ入っていくのはなんだか心もとない。足が少し遅くなると、まりもがこちらを見た。
「心配するな。ぼくがついている」
「うん」
短い言葉なのに、不思議と力が入る。私はまりもの後ろについて、森の端へ向かった。
道の脇に赤い花が点々と見えた。彼岸花だった。まだ見頃には遠い。今年は少し早いのか、群生というほどではなく、ところどころに咲き始めの赤が顔を出している。完全に開ききった花もあれば、つぼみからやっと花弁を伸ばし始めたものもある。夜の湿った空気の中で、細い茎がまっすぐに立ち、赤い色だけが静かに増えていく途中だった。
まりもは足を止めなかった。もう少し奥へ進む。
「花に触るなよ」
短く言われる。
「境界の花だ。安易に触れるものではない」
「わかってる」
さらに数歩進むと、咲き始めの赤い花の間に、一つだけ白い花があった。白花曼珠沙華。この地域ではほとんど見ない。透き通るような白が、まだまばらな赤い花弁の間でひときわ静かに目立っている。増えていく途中の赤が境界の季節の始まりを示すなら、この一輪は、その中でも力の澄んだ一点のように見えた。
まりもは、その前で立ち止まった。
「……これだ」
「白い……彼岸花?」
「珍しいものだ。力の澄んだ場所にしか、ほとんど咲かない」
まりもは、ほんの少しだけ指先に力を通した。
次の瞬間、白い花が内側から淡く光り始める。派手な輝きではない。それでも、夜の暗がりの中で、花弁の輪郭が静かに浮かび上がった。その光は周囲の咲き始めの赤い彼岸花にも薄く伝わり、赤い色がわずかに緑がかった光を帯びる。境界の花たちが、短いあいだだけ、息をするように光っていた。
私は思わず息を飲んだ。
胸の奥が、熱くなって、同時に静かになる。言葉にならないものが、喉の奥まで上がってくる。きれい、というだけでは足りない。森の奥の、本当に静かな部分を見せてもらったような気がした。
「見るだけにしろ。当然持ち帰るなよ」
「うん……きれい」
少し間を置いて、私は聞いてしまった。
「もしかして、私に見せてくれるために?」
まりもはすぐに答えなかった。耳が、わずかに動く。
「……たまたまだ」
そう言いながらも、視線は白い花から外さない。たまたまにしては、連れてきた道筋が丁寧すぎる。否定の声に、いつもほどの強さはなかった。
光は、すぐに穏やかに収まっていく。まりもはそれ以上説明しない。説明しなくても、十分に特別なのだと分かった。
帰り道、森を出たあたりで、まりもがこちらを見た。視線は胸元ではなく、もう少し内側——シャツの下に隠している位置を、正確に捉えているようだった。表には見えていないはずなのに、彼女には分かるらしい。
「そのペンダントは」
「あ……」
「ぼくがもう戻ったから、必要ないだろう」
そう言って、手を差し出す。返してほしい、というより、役割を終えたものを回収するような仕草だった。
「……ほしい」
「何……?」
「まだ、持っていたい」
まりもは少しだけ黙った。耳がわずかに動く。面倒そうな顔をしているのに、すぐに奪い取る様子はない。
「……好きにしろ」
短くそう言って、まりもは先に歩き出す。淡い緑の髪が、夜の暗がりの中で静かに揺れていた。シャツの下のペンダントは、相変わらず肌に温かい。
「……ありがとう。見せてくれて、まりも」
「まりもって呼ぶな」
低い声が返ってくる。
でもその声は、白い花の光の名残を残したまま、夜の空気に溶けていった。




