まりものいない日
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苦手な方はご注意くださいませ。
まりものいない一日は、思ったより静かだった。
朝、目を覚ましてすぐ、隣に気配がないことに気づく。窓辺も、ソファも、空っぽだ。枕元のペンダントだけが、淡い緑の光を静かに返している。昨日まで当たり前だった空気が、すっぽりと抜けている。部屋の広さが、急に余計なものに感じられた。
仕事に出て、帰ってきて、いつも通りに過ごす。
なのに、どこか手持ち無沙汰だった。テレビをつけても、台所に立っても、ふと後ろを振り返ってしまう。文句を言われない。低い声で呼ばれない。淡い緑の髪も、葉模様も、そこにない。鍵を開ける音に反応する気配もない。靴を揃えても、誰も見ていない。
夜になって、寂しさがはっきりと形を持った。
ソファに座ると、隣が空いているのが胸にくる。いつもなら、そこにまりもがいた。ぶっきらぼうで、すぐ「まりもって呼ぶな」と返す。気高いままなのに、優しさをちゃんと残していく人だった。ストールをかけてくれたり、熱が出たときに森まで材料を取りに行ったり、何も言わずにそばにいてくれたり。
その全部が、今夜はない。
どうして、一緒にいてくれるんだろう。
守り神としての都合だけではない気がする。便利だから、でもない。もっと別の、言葉にしにくい理由があるような気がして、考えているうちにまぶたが重くなっていく。胸の奥が、空洞のように静かだった。
胸元のペンダントを握ると、わずかに温かい。その温もりだけが、まりもの残した確かな感触だった。
「……待ってるよ、まりも」
返事はない。
それでも、その温もりを頼りに、私は目を閉じた。
まりものいない夜は、静かに、少しだけ長く感じられた。部屋の空気が、彼女の分だけ薄いままだった。




