Appendix 02 〜エスィーリオ Just shy of a special
「いやー夜勤明けに申し訳ございませんねえー北条部長に安蒜先生」大して申し訳もなさそうに南が言う。
「…キミさ、ホンマに悪いと思うとる?夜勤明けではよ帰りたいのに、キミらHALOのドクターたちの評定作業になんでワシが入んねん…」かなり眠そうに安蒜が愚痴る。
「いやーごめんねえー安蒜、これさあ、公平さを守るための手順だからねえー、まそこはひとつよろしく」ニヤニヤしながら南が答える。
「まったくそうよ!制度は理解できるし協定で決まってるけど…よりによって私たちが夜勤明けの時を狙うとか…性格悪いわねぇ…」ショートのウルフカットの髪がボサボサになっている北条。
「じゃーはい、いつも通りプロシージャから説明しまーす」北条の愚痴はあえて無視してウキウキしながら南が話を進める。
「ルナ、HALOからの当院に対する派遣ドクターの評定会議を行う 外傷3号はクローズ、プライヴェートモード ここから先の録画とモニタは厳禁する」いつもは空自時代の癖で命令口調でルナに話すが、どこかウキウキで喋っている南。
【ツピ!了解しました HALOディレクター南真琴先生の命令により、外傷3号を閉鎖 プライヴェートモード オン ここから先は録画とモニタを行いません】
ルナのマイクとカメラのパイロットランプがすべて消える。
南が愉快そうにコーヒーを入れたマイカップと自分のMacBook Airを持って座る。
安蒜はだるそうに椅子を引き寄せ、タブレットと紅茶を入れた自分のマイカップを持って座る。
北条は病院を出る直前にとっ捕まったのだろう、いつもの通勤用トートバッグをデスクに投げ出し、とりあえず椅子の一つに座る。使ったティーバッグだけで他に何も入っていないマグカップを持っている。
「えー、はいそれでは始めます HALOの都市部ER臨床プロジェクトは、我々HALOが民間の「病院様」と協力してHALOからERドクターを派遣するものです」
わざと「病院様」を強調する南。
「HALOの先代の組織の時代では、先進国の都市部生活者に関する保健衛生に関しては、意外と後回しにされていたのも事実でして、HALOに改組されてからは都市生活者の安全、ひいてはERにおける研究も進められるべきではないか…と考えられたのですが…残念ながらHALOには臨床施設がございませんので、民間の「病院様」と共同でER臨床の研究を進める…と提唱されたのが、この都市部ER臨床プロジェクトでございます」
「あーはいはい…」
「はよせえや…」
実に協力的である。
「聖路都国際病院のER部長と診療副部長のHALOドクター評価作業は、HALOからの派遣されているすべてのドクターの評価についてまとめるものです ま、いらないと言われてもすぐに実行されるものではありませんが…ペルソナノングラータの発動権限は聖路都国際病院の勅使河原院長先生にのみありますのでそのつもりで ではいつも通りアルファベット順で」
何がそんなに楽しいのかわからないが、南がすらすらと読み上げる。
「はい、まずはマーガレット・ンゲマ P-2から最近P-3にプロモーション」
「確実で冒険をしないタイプね…慎重派と言えるけど、あのようなタイプはチームには絶対必要よ」
「ここは変人ばっかりやからな」
「あなたがおっしゃいますか安蒜先生…」
「マーガレットがここで学ぶべきは…といってもHALOとして学ぶべきなんだけど…」
「なんや南」
「理想と現実との折り合いをつけることね」
「どういうこと?」
「マーガレットは明確に「アフリカを救いたい」という強烈な意志を持っている でも先進国でそれが実現できるわけでは無いわ」
「つまり…そのうちHALOをやめるっちゅーことか」
「ええ…HALOは自己矛盾は一般の病院よりも乖離が大きい 私は割と覚悟してる」
「HALOは巨大組織やもんな」
「…ちょっと安蒜、何回言わすのよ…HALOはやってる内容に予算規模がついてきてないのでシャレになってないんだよ?」
「そういう状況を見てると、マギーちゃんもHALOやなしに…もっとNGO寄りのところを選ぶのかもしれへんな」
「そうだね…HALOは官僚的な部分もあるしね」
「他人事みたいに言うなや南」
「予算を腐るほど持ってるCDCを指くわえて見てるのもねえ…割とムカつくのよ」
「……これは医者みんなの共通の悩みだと思うけど…」
「なんだ結衣、急に話がデカくなったぞ?」
「理想というのは誰もがそれぞれ持ってて医者になっているわけよね でもいろんな理由があってそれは横に置いておかざるを得なくなる」
「…うーん…ワシ理想あるかなあ…」
「…私も…どうかな…」
「あなたたち…本当に…まあいいわ、マギーの話よねここは 彼女は31でしたっけ」
「そうね、31」
「そろそろ理想という燃料だけでは前に進めない…ということに気がつくはずね そこをどう乗り越えるか」
「せやな 理想が高い医者ほど、なにかあったら身を持ち崩す…っちゅーしな」
「じゃあ私も気をつけないとな」
「やかましわ」
「じゃあンゲマはオッケー…と」
「はい次、グエン・ティー・ラン P-3」
「…写真の読影っちゅうコンテストがあったら、ぶっちぎりで世界一やな」
「そうね…なんでしょうねあの能力は…理解できないレベルね」
「なんか不思議なこと言ってたな…「ルナや写真は補助にすぎません…私の頭の中で全て見えるのです」って」
「うわなんか怖っ」
「ニュータイプちゃうか?」
「私も不思議だったんで聞いてみたんだが、イメージがはっきり見えるわけでは無いらしい…」
「あれかしら、明かりがないところでも、勘で何かがわかるとか、そういう感じかしら」
「刻が見えるんちゃうか」
「安蒜、それ結衣にはわかんないからとりあえずしまっとこう」
「まあ…それは持って生まれた才能だと思うのよね、うちとしては大歓迎だわ」
「ランの場合は放射線科とか核医療が専門だからね」
「なんでそういう方向に進んだんかな」
「ランのおじいさんが北ベトナム軍…「北」だぞ?だからベトナム戦争中…それの通信隊にいたそうよ」
「なんや南、お前と同じやんけ」
「まああっちは実戦バリバリだったからね…対空ミサイルの周波数いじってアメリカ軍の戦闘爆撃機…F-4とかF-105とかをバンバン落としてたらしいわ」
「うわこわっ…チートやんそれ…」
「そういうのを見たり聞いたりして、機械というか、そっち方面に興味が湧いたらしいのよね」
「こないだ外傷4号のサブで入れた新型のポータブルX線あるじゃない?」
「あー、あれすごいよな ルナよりも優秀かもしれない」
「ランちゃんあれ見て極上スイーツを見つけたような顔してたわよ」
「…あいつああいうのホント好きだよなあ…予算が厳しいHALO職員としては憧れなのよああいう機材は ましてや専門が放射線分野だからね」
「あれよね、IAEAとHALOとの縄張り争いよね 放射線の公衆衛生に関してはIAEAに優先権が…ってやつ」
「先代の組織は圧倒的にIAEAが強くてね…まったく先代の組織は勝てなかったの でもHALOは全然違う組織になったと主張しててね…いつもそこは揉めてるし、実際うちは裏でいろいろやってる」
「おい南、ハッキリ言ってええんか?」
「安蒜か結衣のどっちかがIAEAのスパイだったらまずいけどね」
「失礼ね…そんなわけないじゃない」
「せや、なんのメリットがあるっちゅうねん」
「私が例の震災の時にイスラエル救助隊と合同で日本に来たのも…まあそういう理由だからね」
「あれは大変だったわね…」
「まあそういう政治的なおままごとはアレクサンドリアとウィーンの間でやってもらうとしてだ…じゃあグエンはオッケーでいいかな?」
「意義ありません」
「ええんちゃう?」
「そういえばこの前聞いたんだけど、マギーとランはシェアハウスにしたそうね?」
「そうそう 一時期借りてた部屋の更新どうしよう!ってどっちも揉めてたから、いいタイミングだったんじゃないかな」
「なんやらメチャクチャ遠くから来てたそうやもんな」
「マーガレットが座間、ランが取手だったからね…そりゃ遠いよね」
「夜勤明けとか…大変そうだったものね…」
「今は新大久保でシェアハウスしてて、まあ楽々出勤なので良さそうよ 家ではフランス語で話せるし」
「万事解決やな」
「車も二人でシェアして買ったそうよ」
「カングーよね」
「そうそう かわいい車よね」
「なんや充実しとるやんけ…」
「でも…なんかこないだ変な押し売り的な訪問者が何度も来ててムカついたから、2人でフランス語で鬼詰めしたそうよ…」
「…そらもう来んやろな…」
「ブラックリスト入りね…」
「はい次、酒井理乃 P-1」
「…実は一番よくわからないわよね…」
「せやな…帝大医学部出てこのキャリアはないわ」
「うちのメンバーを変り者扱いするのはやめていただけるザマスか?」
「なんやそのザマスおばはんは」
「彼女の目的はハッキリしている…亡くなったご両親の診療所の再興よね」
「そう…まあ土地は差押にはなってるんだけど…いろいろあって取り上げられていない」
「なんやそれ?ようわからんな」
「抵当権の説明するとめちゃくちゃ長くなる…酒井のプライヴァシーもあるからね…まあ簡単に言うと今のところは競売に掛けられないという状態…かな」
「そのあたりがしたたかよね彼女は…いい子だしニコニコしているし、モチベーションも能力も高い だからこそギャップがあるわね」
「せやな…「HALOを選んだのはサラリーがいいからです!」ってハッキリ言うてたもんな」
「…まあそんな感じだよね マーガレットと同じく、酒井もHALOは最終的に辞めるだろうな」
「そしてね、気になるんだけどね南先生」
「なんだ結衣」
「理乃ちゃんがあなたを見る目…ちょっと怪しくないかな?」
「…は?私ってば命狙われてるの酒井から?」
「違うわよ…!その…恋する目よあれは」
「…は?何言ってんの結衣?」
「あなたにだけはおうちの事情を話してるみたいだし……怪しいわね」
「…フッ…冗談はよしこさん…だな」
「昭和ですか…真琴さん、理乃ちゃんには…その…言ったの?」
「…あー、酒井にはカミングアウトしてない だからこそそういうことはないでしょ、って言ってんのよ」
「お姉様というのは、常に人気ある存在なのではないかしら?」
「いいか、酒井は27、私はもうすぐ44、そんなわけないでしょ」
「今は枯れ専という言葉もあるから…」
「人を昭和枯れすすきみたいに言うな」
「やっぱ昭和やん…んーしかしな南…ワシもたまーにそう見えることがあるで」
「安蒜まで何を言い出すんだよ…くだらない…医者だった母親の影を重ねられているのはなんとなくわかるけど、それ以上でもそれ以下でもない」
「クワトロかい」
「…誰ですかそれ?」
「ほらみろー安蒜ー、結衣に説明するのは面倒なんだよ…」
「まあいいわ、理乃ちゃんはうちにとっては必要よ いられるだけいて欲しいわね」
「ワシも賛成や…」
「ほい、じゃあ酒井もオッケー…と…」
「なあ、キミらのポジションってP-1からP-5ってあるらしいんやけど、これどんくらいサラリーもろとるのや?」
「直球ド真ん中ね安蒜…」
「もともとはHALOは国連付属機関だったのよね」
「まあ慣例的に今でもそういう扱いだけどね…P-1は7万5000、P-2は9万、P-3は12万5000、P-4は15万…くらいかしら」
「…結構もろとるやんけ…」
「USドルだからね…超円高だったときは悲惨だったわよ…私がそうだったわ…」
(私のP-5は聞かれなかった…うまくごまかせた…ラッキー)
「んじゃ最後、ウィリアム・オニール P-4」
「ビルって先週帰ってきたんだっけ?」
「そう…これはHALOの災害緊急展開だったんで…迷惑かけたね結衣」
「いいのよそれは まあそういう協定だからね…どこ行ったんだっけ?」
「カリブ海の某国に行ってた」
「あーあの超巨大地震やな 大丈夫なんかいあれ?」
「もうダメだろうねあの国 プエルトリコを通してアメリカが準州にするって話もあるらしい」
「国家壊滅レベルだもんね…治安も大丈夫だったのかしら」
「ビルが言ってたんだけどさ、もう治安悪すぎて非公式で即席の国連軍組織して1000人くらい撃ち殺したらしい」
「なんやそれ、安保理憲章違反ちゃうんか?」
「UNのゴタゴタをわたくしめに言われましても…ぜひニューヨークに鬼電をおかけくださいませ 英語で」
「しらんがな」
「まあそっちはともかく…ビルは極めて優秀よ」
「ほぼスタッフドクターとかわらんもんな」
「ビルは例のパンデミックの頃に英国にいて、そのあとCDCに行ったんだけど…まあいろいろあってHALOに転職したからね」
「いろいろって何よ まあ…なんとなく想像はつくけど」
「まあ、その想像通りさ」
「英国のNHSはようできとるように思ったけどな」
「日本の保険制度がよくできてたのよ…日本自身がそう考えてないだけで」
「まあ例のパンデミックはいいわ…あと名前なんだけど、ビル=ウィリアム、これで本当にいいの?」
「いいもなにもウィリアムの愛称がビルなんだから、そのままよそのまま」
「ビリーってのも使うてええのか?」
「あー…ビリーはかなり砕けた言い方になるし、アメリカ人っぽくなるから「アメリカ人と一緒にすんな」ってあいつ多分怒るね…」
「そのへんはイギリス人はようわからんな…」
「イギリス人と言われるのも嫌らしい…めんどくさいねあいつ」
「でも優しい部分はあるわよ、こどもや女性の患者にはとても優しいし」
「ぱっと見はイケメンやしモデルみたいやからな…それに騙されとる」
「ちょっと、うちの大切なメンバーを愚弄するのはやめていただけるザマスか?」
「だからザマスおばはんどっから来てんねん」
「聖路都側としてはビルに文句は全く無いわ、続けていて欲しいわね」
「よし…じゃあオニールはオッケー…と…ではHALOから派遣されている医師の中で拒否したい人間はいないという事で…ありがとうございます北条部長!安蒜先生!」
「ええ…なんか気持ち悪っ…」
「わざとらしいっちゅーねん」
「おまえら…」
外傷3号から3人が出てくる。ちょうど今日はHALO組が4人シフトに入る日だ。
「あれーボスー、っかれさまでーす!」酒井が明るく答える。
「やあボス、エスィーリオは済んだかい?」オニールがニヤニヤして答える。
「ボス、お疲れ様です」ニコリと笑うグエン。
「そういえばボス、私たちが4人入るのは珍しいですよね」ンゲマが話す。
「ああ…そうだな…これは言わなかったけど…」南が思わせぶりに話し始める。
「おっ…HALOが世界征服でも始めるつもりなのかいボス?」オニールが軽口を叩く。
「これだけの戦力があれば、世界は無理だが聖路都ERを乗っ取れるなと思ってな」ニヤリとする南。
「…はい、じゃあこのおばさんを追い出しましょうー」うんざりしながら北条が答える。
「お?お?なんや南喧嘩か?かかってこいや!」ファイティングポーズを取る安蒜。
「ま…死神の鎌を折り続けるのは…どの組織にいようと関係ない…ね」
TUNE INTO THE NEXT
SAME SERVANT NEST
SAME ST. ROAT EMERGENCY ROOM




