1x04 Part 4 / 4
1台目のストレッチャーには、先ほどまでいた塚本がオシャレな格好をしたまままたがり、心臓マッサージしている。
「は?塚本?なんで??」西園寺が眉をひそめる。
「話はあとだ小隊長、体温が高すぎる どんなドラッグなのか想像もつかない」
「男性30歳、グラスゴースケールは7、痛みに反応なし、血圧220の140、心拍180、体温42.2℃」救急隊員の南雲が悲鳴を上げる。
「こんなヤク中見たことねえぞ!瞳孔ピンポイント!」ペンライトで瞳孔をチェックした塚本が驚く。
「ヤク中なのに…なんだこの高熱?…よし外傷1号に入れよう 体温落とそう!」西園寺が判断する。
「俺も入るよ小隊長!」
「ダメだ塚本、お前呑んでるだろ」と西園寺が言いかけるが、
「何言ってんだ小隊長!俺が呑めねえこと知ってるだろ?」
「そうだったな…よし任意に入ってくれ塚本」
「合点承知、任務了解!」
2台目と3台目のストレッチャーの患者もほぼ同じ症状だったが、3台目の患者だけはもうほとんど息をしていない。現場で挿管されてバッグされている。
一気にルナのリソースが
96.52%
になる。
原田が「これはまずい…100%越えるのは確実…!」
そこにラシッドが提案する。
「コールドスタンバイさせてる5台のデルのブレードありますよね、あれ起動して繋げます!」
言い終わらないうちにラシッドがサーバルームに走る。
「よし…私はここで3つの外傷を見つつ、流動的に負荷を変えてみる」原田が受付に走る。
「梨沙ちゃん、ちょっと隣の端末借りるわよ」
「えっ、はっ、はい!芹香さん!」
97.25%
外傷1号。
西園寺が指示を出す。
「ヴァイタル測定は後だ、とにかく体温を下げる。ルナ、アイスバスモード」
【ツピ!アイスバスモード 処置台内に冷水を注入 水温 tonr90@%@#%】
【5yq4hye8ht4wkkgng09s*6y97g"+88GB*^92*(&(&Y^&HHo23aa9 ツピ!】
水温をルナが読み上げできない。
「まずい、これですね!」ンゲマが驚く。
西園寺がメインディスプレイを睨み付ける。
「各外傷に教えてやってくれ、ルナで数値をオートにするなと!」西園寺が叫ぶ。
「生食全開、アトロピンを2アンプル、手動で入れよう、マギー」
98.78%
受付にいる原田がルナの管理者モードに入る。とんでもないスピードでキーボードを叩いていく。
「GUIなんて…やってられない…コマンドを直接打ち込む!外傷1号!少しだけそちらにパワー回します!」
「芹香さん、マイク使いましょう!」手元のコンソールで本宮がマイクをオンにし、すべての外傷室に繋ぐ。
「ラシッド、サーバルームに着いた?着いたら知らせて!」こっちはヘッドセットでラシッドに指示を出す。
外傷2号は塚本とアルサウードがいる。しかし。
【ツピ!心停止 体温は43.3℃ 血圧測定不能 心拍測定不能】
「ショック状態だ、サラちゃん、心マ開始」
「はっ、はい!」とアルサウードが患者の斜め前から心臓マッサージを開始しようと手を組み、患者の胸に当てる。
「っ…!こんなに人体が熱くなるのですか!やけどしそうな勢いです!」
心臓マッサージを開始するが、この体温なら脳幹や内臓は不可逆的なダメージを負っている。
「カクテルキメてやがったな…こいつだけ明らかに他と違う」
「ど、どうしますか塚本先生?」
「しばらく続けよう」
「エピを打たないと、もう戻ってきませんよ!?」アルサウードが慌てて抗議する。
「何をキメてるのかわかんないのにエピなんか打てるか!」塚本が少しイラっとして答える。
99.22%
外傷3号は山口とチェンがいる。ここの患者だけが他よりも少し状況が良い。少しだけ。
「<真っ暗だ!熱い!熱い!熱い!>」患者が喋りはじめる。
「(!)これ普通話です山口先生!」
「プラミィ聞いてみて?」
「<ここは病院だ、私はこの病院の医師の「チャン」だ 落ち着いてくれ、何を飲んだんだ?>」
陳、つまりChengは、Chenとも綴られる場合もあり、中国大陸の多くの場所では「チャン」と発音される。しかし広東語圏では「チェン」と呼ばれることが多い。だからチェンは、患者に余計な不安を与えないために、普通話を話している人間に対して意図的に「チャン」を使っている。
「<わかんねえ、クラブでクスリ売ってたやつが紫の錠剤を売ってた…それを1錠飲んだ、もう1錠はまだ飲んでねえ>」
「<よしそれ出せ どこにある>」
「<ズボンの右ポケット>」
「<よし私が取る…ちょっと失礼…>」
チェンは患者の右ポケットを漁る。パーティードラッグ特有の、人目を引くどぎつい紫色の錠剤が出てきた。カプセルタイプではないので少し削れば分析は容易だろう。
「これ、ほんの少しだけ削ってルナのマススペクトロメータにかけます。残りは警察に」
チェンがアーミーナイフを取り出す。医療用のメスでは医療器材が汚染される可能性がある。
「ナイフで…削って…っと…」チェンが鉛筆削りの要領でほんの少しだけ錠剤の表面を削り始める。
「<排排坐~排排坐~食果果~你一個~我一個~>っと…はい小松さん」
「ありがとうございますチェン先生…ってその歌は?」
「みんなで分けよう…的な童謡だね…あんまり危ない意味はないよ…たぶん…」
「たぶん」復唱する小松だが、すかさず証拠品用のジップバッグを取り出して錠剤を回収する。
「よぉし、胃洗浄で冷やしましょう、経鼻管入れてプラミィ」
「了解、すぐやれます、生食は冷やしたものを準備……ちっ、ルナが計算できないか…!」
「ルナには解析を急がせましょう、原田さぁん、最優先事項でぇす」
『了解です山口先生、外傷3号に少しパワーを回します!』
「よぉし、ルナ、この粉末からドラッグの組成を解析してねぇー がんばえー」
ルナはもう復唱できない。了解を示す緑のランプだけがカメラでチカチカと点滅する。
音声合成するリソースが残されていない。
「よし…経鼻管入れました、氷冷食塩水は…4℃くらい…」
こんな適当な温度設定でいいのか…とチェンは思いつつ、まあ薬剤じゃないからいいのか…とも思う。
「よーし!ガンガン胃洗浄しちゃってぇ!」
99.96%
から
96.35%
になる。
『こちらラシッド、ブレード5台起動完了、メインバスに繋げました!』
千歳は受付の原田と一緒に端末のディスプレイ上を見ている。
「千歳さん、私打ってるけど修正すべきとこあったら教えてね!」
「了解ですよ原田さん、ずっと見てます……そこ、154行目から20行削除したら、もうちょい速くなりませんか?」
「…おっ!なるほどそうね!さすが財布をクラッキングする女!」
「……もう勘弁して…お願いします…」赤面する千歳。
「まずルナに解析させましょう、敵が何かがわからないことには」原田が判断し、一時的に3号外傷だけ残り少ないリソースを与える。
さらに
96.15%に下がる。同時にラシッドが
『こちらラシッド、あと6台、富士通の古いブレード見つけました、これコールドスタンバイじゃないのでコンフィグ(初期設定)やってます!まず1台起動済み、残り5台も5分で起動可能!オールインです!』
「コンフィグからって…大丈夫なのラシッド?」
『原田さん、私を誰だと思っているんですか?「ゴッドハンドのシド」とは私ですよ?』
「ひゅうー!オッケー!やっちゃってラシッド!」
ラシッドはサーバルームで戦っている。
原田は受付で戦っている。
戦っているのは医療関係者だけではない。
すべてのサーヴァントが、勝利を掴むために全力を傾ける。
しかしそれでも、2号外傷は間に合わなかった。
1号が2錠で重体、3号は1錠でやや軽い……おそらく2錠以上飲んでいたんだろう。
「…もういいよサラちゃん…俺が死亡宣告する…」
「でっ…でも!」
「もう体温は44℃だ!心停止して10分経ってるのに、体温が上がり続けてる…気持ちはわかるが…ノーチャンスだ!」
「…くっ………<アッラーよ…申し訳ありません…>」
「死亡時刻は…2時40分」塚本が自分のカシオ・オシアナスを見て死亡宣告する。
「…2号は一時的にリソースをカットします…」原田が悔しそうに宣言する。
95.55%
外傷3号のルナが分析結果を読み上げる。今度はディレイは無い。
【ツピ!2,4-ジニトロフェノール、メタンフェタミン、ホスフィンオキシド】
「なんだ最後の?」チェンが思惑を巡らせる。
「…!それ有機リン酸エステルかもしれないです!」小松が即答する。
「有機リン酸ねえ…じゃあ…パムは効きそうねえ?どうするー西園寺先生?」マイクで山口が西園寺に聞く。
外傷1号。
(アッパー系のヤクなのに瞳孔が閉まって暗く感じる…体温が異常に高い、これだ)
「そうですね!やりましょう!よし…ルナ、パムはどれだけあるかな?」
【ツピ!20本確認 10g】
「十分だ…外傷1号と3号! それぞれでパムを5本(2.5g)、生食で溶いてシリンジポンプにセット、ルナ、君の方で投与速度をコントロールできるかい?」
【ツピ! サブプロセッサ回復済み 体重とバイタルからの最適速度計算、すべてオートで可能です 念のため発令には予備コマンドスイッチ使用を推奨します】
「よし、全開だ!ロックン・ロール!」予備のコマンド用フットスイッチを右足で蹴飛ばす。
95.15%
既にすべてのカードはラシッドが切っている。原田も1号と3号に優先してパワーを回している。
まず3号の患者に劇的に効き始める。
「<明るくなってきた!戻ってきた!見える!>」患者が喋り出す。
「ヴァイタルも正常値に戻りつつあるわねぇ…これ効くわねえ…」山口が他人事のように感心する。
「パムは有機リン系の中毒には相当効きますね…何十年か前のテロ事件でも多くの命を救った…と警察学校でも教えられました」小松が続ける。
「あぁーあれねぇ…南先生だったら詳しいかもねぇ」
「南先生が…ですか?」怪訝そうに小松が聞く。
「そぅ、彼女ねえ、航空自衛隊にいたの そこでヘリの墜落事故に巻き込まれてね そこから医学の道を目指したそうなのよぉ」
小松が考える。
(じゃあ…あの額の傷は…その時のものなの?)
1号の患者も徐々に戻りつつある。意識が回復し、徐々に当時の状況を話し始める。
「クスリ売りがやってきて、熱くなってアゲアゲになるクスリ買わないか…といってたんだ みんなそいつを「富山」って呼んでた 富山からは何人もそのクラブの客はクスリ買ってたからね 特におかしいとは思わなかった」
「うん、とりあえずさ、クスリ売りだから富山ってあだ名付けるのは、怒られるからやめとけ」西園寺がツッコむ。
「そうですね、結構ムカつきます」事情聴取していた小松は、富山出身だ。
4時過ぎ、1号と3号は完全に危機を脱した。
ルナも危機を脱した。
90.04%
…
「で、1時過ぎにその子と別れてさ、ちょっとクラブ飯のうまいハンバーガーでも喰おうと思ってクラブ行ったんだよね」塚本がラウンジで皆に話す。
「…ちょっと待て、お前4時間もラブホにいたの?」西園寺が驚く。
「えっ、いやそこ?」塚本が不本意そうな顔をする。
「4時間もできるかあ?お前まさかなんか飲んでたんじゃないだろうな?」
「冗談じゃねえよ小隊長!俺はキメセクなんか大嫌いだよ!」塚本が不平を漏らす。
「…あ、あの…きめせく?とは…?」この会話の中に入れるのがかわいそうなくらいにアルサウードは純粋だ。
「…薬物をキメてセックスすることです…」誰も言い出さないので自分が…と小松がアルサウードに説明する。
「っ…!!!(<ああアッラーよ…なんという…なんという…!私は恥ずかしいです…!>)」
「んで、ハンバーガー注文して喰い始めようとしたんだけど…なんかクラブ内が異様な雰囲気になってさ…3人ほど倒れた…ってわけさ」
「なるほどぉ…事件性はあるけど、塚本先生は関係ない…というところかしらぁ?」山口が若干意地悪そうな表情で塚本を見る。
「関係ないもなにも!俺なんもしてないどころか、初期救急までやったんすよ?山口先生勘弁してくださいよ……まあカワイイ男の子とは4回したけど」
「…あーはいはいリア充リア充……」チェンが呆れる。
「あーじゃあいいですかね皆さん、データは私たちナンバーナインと共有する、という協定通り、でいいんですよね?」千歳が確認する。
「あーはいはーい、どんどん共有しちゃってぇ」山口が自作のショートブレッドをつまみながら話す。
山口は夜勤時には、皆がつまめるようにと必ず自作の菓子を持ってくる。
かなり美味しいらしく、砂糖に群がるアリのように皆が集まる。
ハラールに従っているという山口を信頼しているので、アルサウードもショートブレッドをつまむ。
「フォンダン…ではない、メルティ、ですね、これボスが欲しがってましたよね、臨床データ」ンゲマが思い出したかのように言う。
「ふふふ こんなこともあろうかと」千歳が得意げに笑いだす。
「…あーはいはい、なんですか真田技師長」もういい加減にしてくれとばかりに小松が話す。
「今のデータに関して、爆速で英文でまとめた人がいます。さて誰でしょう?」千歳がドヤ顔して周りを見回す。
「…」
「…」
「…真田さん?」
「違うわよ!私よ!」
「いや、普通にすごいなそれ」西園寺が驚く。
「じゃあそれは、うちのボス…南に渡せるのでしょうか?」身内を呼び捨てにする日本文化は、ンゲマにとってはよくわかっている。
「その通り…どうぞー データ転送しますよー?」千歳が得意げに答える。
「これはボスが喜びますね!ありがとうございます!メルシーボクゥ!」
…
…
…
22時に近くなっているが、まだ会議は終わらない。
どうもEUの高官に「メルティ」による犠牲者が出たらしく、『メンツにかけてHALOがやるぞ!』と言い始めたバカが一人いたため、会議が紛糾しまくっている。
もういい加減に帰りたい…と思っていた南のMacBook Airに着信メール。
ざっと読んだ瞬間、南の目に精気が宿る。
これで、帰れる。つーか、いい加減に帰ってごはん食べたい。
「<みんな、ちょっと聞いてくれるかな?>」南は構わず英語で喋り出す。
「<日本の…うちが臨床プロジェクトやってる聖路都国際病院で、さっきメルティによる患者が3人出たそうよ>」
会議室内がざわつく。
「<そこで、だ このデータを…(ねえちょっと、これディスプレイに飛ばしてくれるかな…はぁ?できないの?crap…)…このデータを見て欲しい>」
いちいち有線で繋げるのかよ…とうんざりしつつも壇上に上がり、壇上のラップトップからHDMIケーブルを抜いて自分のMacBook Airに繋げる。
「<時間が無いのでかいつまんで説明しますが、これは特殊な"スパイス"として有機リン系化合物が使われている模様です>」
スパイスのところでフィンガークオーツする南。
会議室内が騒然となる。
「<ドクター南、あなたは自分が言っている意味が解っているのか?なぜそんなものがドラッグの中に…>」
この会議を迷路に叩き込んだ張本人…が言い終わる前に南が日本語で遮る。
「ワタシフランスゴワッカリマセーン」
…
…
…
8時。ようやく長い夜が終わる。
この夜もサーヴァントたちは越えることができた。
皆それぞれ疲れて帰っていく。
原田もラシッドも、ルナに問題はあったものの「次回からは予備のブレードを全部起動させる」という解決策らしきものを得ることができた。
ラシッドも満足げに帰っていく。
原田は満足感と同時に、ある感情が湧き上がってくるのを覚えた。
(今日は勝ったわ…自分へのご褒美に…カワイイ女の子を抱きたい!)
しばらく行っていなかった女性用風俗サイト。
いわゆる女性が女性と「遊ぶ」ことができるサイトだ。
これをサクサクとスマホで覗いてみる。
(……この「樹里ちゃん」って子……人気あるんだよなあ…一回遊びたいけど、予約が埋まってるのがなあ…)
自分の目の前を本宮が通り過ぎようとするが、本宮が挨拶する前に原田が声をかける。
「梨沙ちゃん、お疲れ様!今日は頑張ったね!」
「あっ芹香さん、お疲れ様でした!すごかったです今日は!尊敬します!」本宮がキラキラした目で見ている。
(…この子かわいいなー…徹夜してるのにこの肌のハリ…私の半分しか歳もいってないし…おっと…職場では女の子を探さない…これは鉄則…)
残念ながらあきらめるしかないか…と思い本宮を見る。
手元のスマホの「樹里」の写真を見る。
手のひらで顔は覆われている。そのほかは少し刺激的な下着姿などがある。スタイルはかなりいい。
何かが気になる。
(…んー…んんん?…いや気のせいよね…)
「でわでわっ、お疲れ様でした!おやすみなさい、芹香さん!」
「はい、おやすみ、梨沙ちゃん」
本宮が地下鉄の駅に降りていく。
原田は本宮の後ろ姿…特に腰やおしりを見ながら考える。
(うーん………やっぱりそうなのかな?私が疲れているだけかな…?)
30.37%
TUNE INTO THE NEXT
SAME SERVANT NEST
SAME ST. ROAT EMERGENCY ROOM




