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サーヴァント・ネスト〜神の気まぐれを打ち破り、死神の鎌を折り続ける人たち  作者: 渡辺金太郎
Case-1x04 「サーヴァント夜を往く」~ Runway walk all night long
15/26

1x04 Part 3 / 4

外傷4号。

「右頬の横から入って…上顎の歯を砕いて…」と確認中にチェンは壮絶なものを見る。

「うわ…西園寺先生、これ…」

弾丸が入ったところは大きくは見えなかったが、入射口の10倍以上の大穴があいており、後頭部のほとんどが吹き飛ばされている。

セミロングのゆるふわパーマの暗めの茶髪が、脳漿と脳の一部で著しく汚れている。


「ああ…こりゃあダメだ…ルナ、一応脳波確認」


【ツピ!脳波はほぼ停止、血圧も脈拍も急速に低下中 血圧50で下は計測不能 心拍30で徐脈…ツピ!心停止】


「一応、エピを入れましょうか西園寺先生…」チェンは西園寺を見るが、結果は自分でもわかっている。

「……いや、もうダメだ、脳幹を吹き飛ばされているならもう、無理だ…ルナ、時刻確認」

【ツピ!22時55分】


「死亡時刻は22時55分…警察に連絡、4号は開けよう、シヴァームは貴重だ」

「ナンバーナインの人たちに言うのはどうでしょうか?」

「所轄じゃないからね…担当外のものを持ってこられるとイヤだろ?特に死体ならなおさら」

「その通り…なんですけど…一応私からも連絡は入れてあります…というか、警察官は?」外傷4号に入ってきた小松が西園寺に答える。

「あー…あれ?そういえば…」と西園寺がガウンとグローブを外してゴミ箱にぶち込みながら不思議がる。

「いますよ、います、ここに…」息を切らして翡翠橋ひすいばし警察署の三沢みさわが答える。

「駐車場の端にパト止めて…ダッシュで来ました…岩国いわくには休み…で、こっちはダメなのでしょうか?西園寺先生?」

「真正面から撃ち合って、こっちは頬から入って後ろから出ている…脳幹損傷で脳を吹っ飛ばされている…即死だね」西園寺がさほどひどい顔せずに冷静に言う。

「そうですか…」息を整えた三沢が言う。


「で、4号は特別室なんで、死体は2号に移したいと思う、検視はそっちでやってもらっても構わないかな?」西園寺がグローブを交換しながら三沢に聞く。どうやら外傷3号に応援に行くようだ。

「えっ、はい、お願いします」小松と三沢が同時に言う。

「よしプラミー、移そう…銃はそのまま触らないで」西園寺が銃に触るなと警告する。

「これ…どっちの銃かしらね…こっちの死体は明らかに45口径で撃たれてるわよね…でっかい穴ねぇ…涼しそう…」小松はCSIなので、銃創から一瞬で弾丸の種類を見抜くが、セリフは不謹慎だ。

(みどり)…あんたねえ…つーかなにこのデコシール?」三沢が顔をしかめながらM1911の派手なシールを見つめる。

「最近は銃のアクセいっぱいあるからね…スマホの「iPhone用ケース」とかと同じノリで「M1911用」とか「SIG P230用」とかあるわよ」

「…世も末だわ…」

「あら(りん)、世の中がまともだったことがあったかしら?だったら私は失業してるわね」小松が口を歪めて苦笑いする。



外傷3号。

「クソがあああ!あのビッチ!ブチ殺したらあああ」患者が暴れている。

「死んだよ、即死だ ナイスショット」応援に来た西園寺が嫌味を言う。


「…え…は?」

「は?と言われてもね…あんなデカい銃でヘッドショットされたらね、そりゃね」

「…」

「こっちは大丈夫ですかね、山口先生?」

「多分大丈夫よー、4号のおねーちゃんは死亡診断書サクッと書いてとっとと追い出しましょー」口調はふんわりしているが、内容はかなりエグい山口。

「サクッと了解です、何かあったらコールよろしくです、山口先生」替えたばかりのグローブを外して捨て、西園寺が外傷3号を後にする。


「……クソがああああああ!!」すぐにまた暴れ出す患者。

「あぁーうるさいなーもー ちょっと静かにしようかぁー、ルナぁ、プロポフォール100ミリとフェンタニル100マイクロォー」

【ツピ!プロポフォール100mg、フェンタニル100μg入ります】


「…あれ、弾が抜けてません山口先生!」ンゲマが体をひっくり返して確認し終わる。ンゲマは力持ちだ。

「盲管銃創りょうかーい、エコーのプローブ準備ー」あくまで山口はのんびりしている。

ゴロン、と足の下から銃が出てくる。

「あー銃がありました …ワルサーPP…Kですね」

「りょうかーい、じゃあそのスパイごっこ用の玩具はそっちに置いといてねー」

「スライドストップしています 全弾打ち尽くしていますので危険はありません」

「こっちもプロポフォールとフェンタニルが効いて体力撃ち尽くしねぇ…じゃあ弾を探しましょう…マギーちゃん、やってみる?」山口がンゲマにプローブを差し出す。

「あっ、はい!ぜひ!」ンゲマがパッと喜ぶ。

HALO組にはグエンという世界トップレベルの読影能力を持つメンバーがいる。

ンゲマは(どう頑張ってもランには勝てないな…)と思っていたが、何とか練習してギャップは埋めたいと考えている。


「ルナ、プローブと接続、メインディスプレイにエコー映像を出してください」

【ツピ!了解しました】


そして、

【ツピ!警告 リソース90%突破します 余剰処理能力10%を切ります】

「そうは言ってもぉ、仕方がないわよねぇ いいわよマギーちゃん、いっちゃって」


「左上腕から行きます…これはすぐにありましたね ルナ、マークしてください」

【ツピ!左上腕三頭筋付近に32口径の弾頭 マークします】


「大腿部のは…あった、これ四頭筋にあります これもマーク」

【ツピ!右大腿四頭筋内に32口径の弾頭 マークします】


「道理で出血が少ないはずよねぇ…でも大腿部のはヘマトーマになっちゃってるので…こっちから掘っちゃうかぁ…マギーちゃん、サクションよろしくぅー」

「準備OKです!お願いします!」

「はぁーい、ルナぁ、執刀開始ぃー時刻記録ー」のんびりと山口が宣言するが、すでに11番メスを持っている。

【ツピ!山口先生、執刀開始 開始時刻23時03分 プライマリターゲット 弾丸除去】


「…むっ…」

ズブッ、と山口が躊躇なくメスを突き立てる。

麻酔なしで筋肉を切開された激痛に、プロポフォールで眠っているはずの患者の体がビクゥッ!と跳ねる。

だが山口は全く動じず、ペアン鉗子を傷口に突っ込む。

「…っと…ハイ一つ目ー」ステンレスバットに32口径の小さな弾をつまんで落とす山口。

カラン…と湿った音がする。


「肩のはやってみるぅ?」

「はい、ぜひ!」


こちらの弾は鎖骨ではじかれて、三角筋の浅い部分に入っているだけだったため、容易にンゲマがペアン鉗子でつまむ。


挿絵(By みてみん)


カラン…とこちらは出血量が少ないせいか少し乾いた音がする。


「はぁい、しゅうりょうー ルナぁ時刻記録ー」

【ツピ!23時06分手技終了です】


「何という速さ…こんなスピードで2発の弾丸摘出は見たことありません」小松が息を呑む。

「まあねぇー弾丸は組織の柔らかい部分を進むからぁ…それを見越して推測していくのよぉ…ってこれはHALO組のかわいこちゃんやおねーちゃんが教えてくれた知識ですけどねぇ」指でスッ…と弾丸の通り道を差すようにして山口が答える。

「HALOのおねーちゃん…?」小松がおねーちゃんという不思議な単語に引っかかる。

「ああーHALO組の南先生よー この後0時からちょこっとビデオ会議するので、見てみますー?」

銃社会の入り口に立っている日本だが、まだ銃創について詳しい医師は外科医でさえ多くない。小松はこんな手技を伝搬する「おねーちゃん」に俄然興味が湧く。

「ぜひお願いします!」


原田がルナのリソースを確認する。

この状態で91.2%だった。

「やはり生命維持に関わる患者が来ると、ルナは推論にリソースを割くみたいね…設計通りとはいえ、ちょっと冗長かなあ」原田がすごい勢いでフリックしながら自分のタブレットでメモを書く。

「ルナは原田さんが作ったんですよね」本宮が尋ねる。

「んーコンセプトは作ったんだけどね、あとはこれを設計して実装したのは、インドのITの会社なのよ…カンバルゴドゥ・インダストリー」原田が答える。

カンバルゴドゥ・インダストリーはその名前の通りインド・ベンガルール郊外のカンバルゴドゥにHQ(本社)を持つ新興IT企業だ。医療系と宇宙産業に特化したITソリューションを持っている。

「でも凄いです、こんなものを女性がリードして作るなんて…私憧れます!」

「んふーありがとうね、本宮さん」

「…あっ、あの、良かったら名前で呼んでください、梨沙りさです!」

「わかったわ梨沙ちゃん、ありがとう 私のことも芹香せりかって呼んでもいいわよ」



エジプト・アレクサンドリア、HALO本部。

アレクサンドリア図書館の隣に建設された、こじんまりとはしているが近代的なビルだ。

すぐ近くには、世界の七不思議のひとつだったとされるアレクサンドリアの大灯台…の残骸で作られたカーイト・ベイの要塞がある。

かつては地中海、ひいては世界の海運に重要な役割を担ったアレクサンドリアの大灯台。

前身の本部があったジュネーヴからこの地にHALOが移転して本部を作ったのは、そういったロマンの面もあったのだろうか。


南は日本支部から、四半期に一度のHALO会合に出ている。

南は日本支部の副局長であり、長い間空席になっている局長の代理として勤務している。

「海外出張うらやましいです!」といろんな人間に言われているが、これがとんでもなくつまらない会議だという事を南はイヤと言うほど知っている。

(…そろそろ17時か…今日はルナ止めるって言ってたが…こっちはそれどころじゃないわね…)


いつもは予算案だのアメリカ疾病予防管理セ(C D C)ンターの横やりに対する対策だの退屈な会議だったが、今回は違っていた。

「パリとロンドン、そしてニューヨークで新しいタイプのドラッグが急速に蔓延しつつあり、これにどう対応するか」という議題だった。

なんでも…あっという間に体温が高くなるタイプのアッパー系ドラッグなんだが、証拠がなかなかつかめずにドキュメントが作れない…ということだ。


(そういう患者が複数出ればいいんだけどな…まああんまり期待してはいけないか…)


会議が小休止になる。エジプト時間は冬時間でUTC+2、つまりUTC+9の日本より7時間早い。日本時間の0時がこちらエジプトでは17時になる。

南は自分のMacBook Airを開き、スタンバイする。

そして猛烈な空腹感を覚える。

腹が鳴る。ちょっと気恥しいが、程なく今度はTeamsの着信音が鳴る。


(あれ?誰が出るんだあっちは)



「さて、そろそろ夜食にするか…どうします?ラウンジで食べますか?」西園寺が皆に聞く。

「あっ、どうぞ、受付は私が残ります!」本宮が挙手する。

「ありがとうねー梨沙ちゃーん じゃあラウンジに行って南先生呼びますかぁ」

山口、西園寺、ンゲマ、仮眠から起きてきたアルサウード、チェン、ラシッド、原田、そして千歳と小松がラウンジに移動する。

それぞれが夜食用にキープしていた食事をレンジで温めたりしている。


「!これは!!」ラシッドが叫ぶ。

「うわびっくりした、どうしたのラシッド」原田がカップ麺にお湯を入れている。

「ミーナが…娘が…っ!」どうやら初めての夜勤の記念に、5歳になるラシッドの娘がランチボックスを作ってくれたようだ。ナンが数枚とキーマカレーが入っている。(おとうさん、がんばってね)と英語のメモも入っている。

「私は…私は感動しています!」ラシッドが突然泣き出す。

「あーはいはいー良かったねぇラシッドさぁん」山口が病院前のキッチンカーで買ったカオマンガイをレンジで温めている。

「いい話じゃないですか…」小松がニッコリしている。深夜だというのに、テイクアウトのカツ丼を温めようとしている。

「ええーラシッドさん、良かったですね!」千歳も本当に小松が買っていたカツ丼を一足先に食べている。

「おお、ラシッドさん良かったねえ…」チェンは山口と同じく病院前のキッチンカーで買い込んだ海南鶏飯を食べ始める。

ンゲマはラビオリのランチを作って持ってきている。「これは私のランチ、モンペリエ時代に鍛えた自作ですよ!」と自慢する。フランスのモンペリエには、欧州で最古の歴史を誇る名門医科大学がある。

「私もランチボックスです これが一番なんですよ」とアルサウードがチキンと野菜の入ったランチボックスを見せる。


「おっと、時間が来たね…Teamsで繋ごう」西園寺が冷凍焼きそばをレンジに入れて、自分のタブレットで南を呼び出す。



『おつかれーって何だその人の多さは…』南がびっくりしている。

『しかも夜食時かあ……私、夕食まだなんだよね…』心底うらやましそうに南がこちら側…日本を見ている。


「<ボスお疲れ様です!フランス語の調子はいかが?>」ンゲマがフランス語で聞く。

『<冗談じゃないよーマギー 聞くのがやっとで話せと言われたときには冷や汗だらだらだったよ…>』明らかに英語やアラビア語よりは片言なフランス語で南が喋る。

「<ランとも言ってたんですよ、ボスのフランス語はヤバいねって>」ニヤリとするンゲマ。

『<うるさいなあ…とりあえず使えてるんだからいいだろ…あんまりいじめんなよ>いじめ、よくない』最後だけ日本語で言う南。


「どうもこんばんは、警視庁刑事9課の小松警部補です、南先生初めまして」小松がカメラに向け話しかける。

(…この額の大きな傷は…なに?)

『おーお出ましだね はじめましてー小松警部補』南がにこやかに喋る。

(…でもこの人…南先生……ちょっと好みかも…もうちょっと話していたいな)と思うが、千歳に遮られる。


「私は以前ちょっとお会いしましたね、先生」千歳が喋る。

『おおー千歳警部補お疲れさまー もうバレたかなあ?』南がニヤニヤしている。

「…はい…バレました…ラシッドさんが大喜びしてます…」肩をすくめて千歳は言う。どうやら南は千歳が「るなっち」ということも、ルナのネーミングのルーツになったことも知っているようだ。


「それで先生、HALOでは何かありましたか?またお金の話ですか?」西園寺が尋ねる。

『いや、それがさ西園寺…ちょっとみんなも聞いててほしいんだけど…』と、先ほどの会議の俎上にあった新型ドラッグの話をする。


「なんかぁ…薄気味悪いわねぇ…」山口がつぶやく。

『そんなわけで、臨床データがあればいいんだけど、なんかあったら私にメールで知らせてくれると嬉しい』

「<そもそもそれ日本に入って来てるんでしょうかね?>」チェンが英語で不思議そうに聞く。

『<んーまあこの手のドラッグは割とすぐ日本には来るからね…プラミーは香港ではそういう話は聞かない?>』フランス語に比べれば段違いに滑らかな英語で南が尋ねる。

「<今のところは…聞いてないかなあという感じですね>」すごい勢いでチキンをほぐしながらチェンが答える。

『<…そっかあ…よし、>とにかく臨床データがあれば世界中のERにIHR通告が出せるから…みんなよろしくね』

IHRはHALOが発出する国際保健規則であり、パンデミック等の世界中で対策を取るべきものとして発出される。


『それと…これフランス語で「フンドン」って言ってたんだけど、マギーこれなんていう意味だっけ?』

「fondant…ですか?」

『そうそう』

「melty…日本語でもメルティでしょうか…溶けるような…という意味ですね」


とりあえず通話と休憩時間が終わる。1時過ぎ、今度は山口が仮眠に入る。


やはり今夜は暇だ。口にしない皆も同じようにそう思っていた。


そして2時を過ぎたころ、受付に救急からの連絡がディスプレイに入る。

「3 CRITICAL DRUG」と赤文字で出ている。自作のおにぎりを食べていた本宮が反応する。


「や…薬物中毒とみられる患者、さっ、三名来ます!」

「了解!山口先生を叩き起こしてくれ!外傷を3つ使うのでこの時点でERを閉鎖する!」

【ツピ!スタッフドクター西園寺先生により、ER閉鎖が宣言されました 時刻2時10分】


不穏な空気を察したのか、山口は既に仮眠から起きていた。


真っ暗な場所と明るい場所が混じる夜のER。


まるで不穏なランウェイウォークのようだ…と思った山口は、

「あぁーもう…このランウェイを歩き続けるのね私たち…夜を往くのよぉ私たち」とぼやく。

「…山口先生、なんかすいません 私がフラグを立ててしまったばかりに」かなり真面目にチェンがへこんでいる。


この搬入情報で、一気にリソースが上がる。


88.9%


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