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第5話〜旭勢、百挙百捷へと至りて〜


午前中の業務を早々に終えてしまったフィーリアは、執務室で、内政に関する最近の資料を読んでいた。


―――やっぱり、国庫の支出が多すぎる。


資料を読み進めると、ここ最近の議案の中には国庫を動かすようなものが複数紛れている。


全てではないけれど、明らかに支出が大きいものがいくつかあるわね…。国王に気付かれないよう調整しているんだわ。それに


「実際、この金額が使われたかどうかが、これだけじゃ分からないわ。」


そう、国庫の着服はあくまで私の推測だ。実際にこの金額が使われたかどうかは今の段階では分からない。


午前中の2人の様子から、少なくとも彼らは何か知っているようだったけど。


一体何のために…?


困ったわね…。いきなり国王にこんな話をしても、逆に私に対して不信感を持つわ。それに、証拠だって必要よ。


初日からこんなことになるなんて…と頭を抱えていると誰かが扉をノックした。


「失礼致します。」


入ってきたのは、背の高い騎士。癖のかかった黒髪に、燃えるような赤い瞳のこの方は―――


「あ…ドゥラーコンせんせ…団長。」


王妃教育の中で、護身術を教えてくれていたドゥラーコン先生、もといドゥラーコン団長だ。


騎士団は、男性貴族で構成されているが、騎士団の団長は、貴族の階級関係なく実力で選ばれる。ドゥラーコン団長は、公爵家、侯爵家に次ぐ伯爵家の出身であるが、その腕を買われ、団長の地位まで登り詰めた実力者だ。


「アレクシス様、午後の訓練場視察のため、お迎えにあがりました。」


鋭い眼光でじっ…と見つめられると、改めてその凄まじい迫力を肌で感じる。


「あ、あぁ…分かった。すまない。」


ドゥラーコン先生は、待たされるのがあまり好きではないお方だから早く準備しないと…!


私は、急いで出発の準備を整え、ドゥラーコン先生の横に立つと、ドゥラーコン先生は一瞬驚いた表情をしたが、すぐにいつもの仏頂面に戻り


「さあ、参りましょう」


と、私を迎えの馬車に案内した。





馬車に揺られること15分。私たちは騎士団の訓練場に到着した。


あ、そうか…私は今アレクシスだから、どなたも手を添えてくださらないのね。上手く降りられるかしら。


私は、生まれて初めて自力で馬車を降りると、訓練場の入口の目の前だった。


そういえば、訓練場に来るのも初めてだったわ。


「さあ、こちらへ。」


ドゥラーコン先生に促され、私は訓練場へ入っていった。
















訓練場の視察を終えた私は、自室へと戻り着替えをしてから、講師の先生を待っていた。


「地政学ね…。とても楽しみだわ。」


王妃教育の指導はどれも厳しかったが、元々学ぶことが大好きだったので、そんなに苦ではなかった。


先程メイドに入れてもらったお茶を飲みながら、地政学の教科書を読んでいると、ノックと共に講師が入ってきた。


「失礼致します。アレクシス様。本日もどうぞよろしくお願い致します。」


ひょろっと背の高い彼は、デルフィン先生だった。


「ああ、よろしく。」


デルフィン先生も、王妃教育の講師の1人だ。例外なく厳しい先生であるが、私はデルフィン先生との政治討論が本当に好きだった。


デルフィン先生は、私をまじまじと見つめ


「珍しいですね、アレクシス様…教科書をお読みになっているなんて。」


あぁ、どうしても意識していないとアレクシスでいることを忘れて、フィーリアとして振る舞ってしまう。―――アレクシスは、普段教科書を読まないのね。


私は慌てて教科書を置き、咳払いをすると


「真面目に学ぼうと思ってな。」


とアレクシスの口調を真似て言った。


「……まあ、良い心掛けでございますな。」


デルフィン先生は、少し肩を竦めて


「それでは、始めさせて頂きます。」


と言いながら教科書をめくり始めた。


「本日は、我が国と近隣諸国の貿易について講義を行います。」


貿易ね…。コーディカス王国がこれから強くしていかないといけない分野の1つだわ。


「我が国の強みは工業製品でございます。その精巧さは他国の追随を許しません。」


タイプライターや時計ね。確か輸出の8割以上はこの2つだったはず。


私がうんうんと頷きながら聞いていると、デルフィン先生は、


「タラクシア公国は武器、エルピダ共和国は隣接する海を利用した海産物や更に別の国との交易で手に入れた食料品、繊維など。そして、大国、マギア帝国は薬品や茶葉、宝飾品でございます。」


と一息に説明した。


「…ここまででご質問はございますか?」


デルフィン先生は、念のため聞いておこう、と言いたげな表情で尋ねてきた。


「では、コーディカスの輸出品について。コーディカスの工業製品輸出は必要だが、やはりタイプライター、時計だけでは弱いと思う。わた…俺はこの工業製品の品目を増やしていくべきだと考えている。具体的には各国の需要を把握するために実際に現地に人を派遣しても良いだろう。貴殿は…どう考える?」


私が淡々と質問すると、デルフィン先生は驚きと喜びが混ざった顔で


「あぁ、アレクシス様…!ようやく本腰を入れてくださるようになったのですね…!このデルフィン、何時間でもお供致しますぞ……!私としましては―――」


と意気揚々と語り始めた。


そうだった、デルフィン先生は語り出すと止まらないんだったわ。今日の講義は長引きそうね。


私も、身体が入れ替わったことも忘れて、気が付いたらデルフィン先生との討論に没頭していた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


ひとつでも「面白い」と感じていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると嬉しいです。


とても励みになり、執筆続行の支えになります。


これからも読者様に楽しんでいただける展開を届けられるよう頑張ります。


どうぞよろしくお願いいたします!


本作は、毎週 月・木・土の20時に更新予定です。

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