第4話〜黎明、俊策縦横の如し〜
そして、場所は変わり王宮内の会議室。
会議室に入る前の僅かな時間で、今日の議案についての資料を読み漁り、一通り問題点については把握することができた。
アレクシスだって、最低限理解した上で議案の承認をしていた―――はず。
それよりも、身体が入れ替わっていることを悟られないようにしなくては。
私は少し緊張しつつ、席に着いてから、ゆっくりと深呼吸をした。
ほどなくして、貴族院と平民院の代表議員2人がノックをして会議室に入って来た。
2人とも、どことなく余裕のある笑みを浮かべている。貴族院の代表が、議案の束を差し出して
「アレクシス様、本日の議案は3件でございます。ご承認をどうぞよろしくお願い致します。」
と、少しわざとらしいくらいに恭しく言った。
「あぁ、ありがとう。」
私はその束を受け取って、上から順番に目を通した。
1つ目の議案。国有地、レイモーン地方の管理について。ヒュブリス公爵家が管理をする。予算は年間30000セオス―――
「30000セオス?」
私が思わず口に出すと、貴族院の代表は、ギクリと身震いをした。30000セオスは公爵家の約1年分の予算に匹敵する。
それに、レイモーン地方は北西に位置し、1日の寒暖差は大きいものの、そこまで管理に費用が掛かるとは思えない。
「それで、具体的な管理方法は?」
私が尋ねると、2人は明らかに動揺し始めて
「そっ、それはですね…ええと…あぁ、そうだ!広大な…草原地帯なので!くっ草刈りの必要があり…」
と早口で吃りながら、必死に説明を始めた。
「どうして?」
私が重ねて質問すると彼らは、あぁ…うぅ…と言うだけで何も言わなくなってしまった。
流石にアレクシスもこんな議案は承認するわけがないだろう。
「申し訳ないが、この議案は管理方法と予算について考え直して欲しい。」
私は、アレクシスの口調を思い出しながら話したのだが、2人の議員は信じられないと言う顔でこちらを見つめていた。
話し方に違和感があったのかしら…?
暫し沈黙が続いたが、これ以上なにも言わなさそうなので、私は気を取り直して次の議案に目を通し始めた。
2つ目の議案。都市部の道路整備について。アナトリー通りの劣化のため補修工事を行う。予算は45000セオスで、期間は4週間とする。
この議案にも違和感を感じ、私は、さっきまでの余裕が嘘みたいになくなってしまった2人に質問をした。
「確か、アナトリー通りは2ヶ月前に補修工事を行ったと記憶しているが、何故また工事が必要なんだ?」
んぃっ、と平民院の代表議員が変な声を出した後、消え入りそうな声で
「あっ…それはですね…やはり必要なものは必要と言いますか…」
と答えになっていない答えをしたので、私は
「もう一度、本当に必要な工事なのか、他に補修すべき通りがないのか調べてくれ」
と言って、2つ目の議案も突き返したが、貴族議員は怪訝そうな顔で、平民議員は泣きそうな顔で、いずれもあまり納得していないようだった。
そんなに間違ったこと言っているかしら?
あまり長引くとお互いのためにならないな、と感じた私は最後の議案に目を通した。
3つ目の議案。王宮内の大会議室の改築について。出入り口のドアを2つから3つに増やす。予算は10000セオス。
「これは…」
必要?と尋ねる前に
「申ぉし訳ありません!こちらの件も改めて検討させていただきますっ!!」
と貴族議員が大声で叫び、私から議案書をひったくると、平民議員を引きずるようにして勢いよく会議室を出て行った。
しん、と静まり返った会議室に残された私は、1つの結論に至った。
アレクシスは、本当に何も考えずに議案を承認していたんだわ。
そうでなければ、議員たちがあの杜撰な議案書を自信満々に持ってくることなんてできるわけがない。
アレクシスが、自分に都合の良いように上手くいった議案を自分の成果にしている、とは言うものの、何も考えずに承認していることは議員たちも承知で、そこに付け込んで議員たちにとって都合の良い議案ばかりを作って通して来たんだわ。
それなら、多少アレクシスが勝手に自分の成果にしていても議会は文句を言うはずないわね。だってどんな議案も承認してくれるんだもの。
アレクシスの権限が限定的であるとはいえ、こんな調子では、内政はどんどん悪くなるばかりだ。
私は静かに目を閉じる。
『おれは、お父さまみたいにりっぱな王になるんだ!』
とにっこり笑って言っていた、あの幼き日のアレクシスはもう居ないのだろうか。
ただ―――
あまり口出ししてしまうと、中身が入れ替わってしまっているのがバレてしまうかもしれない。
この説明できない状態のせいで、王室に混乱を与えてしまうかもしれない。
じゃあこの状態を見過ごすの?
私はこれまで公務で出会ってきた国民たちの笑顔を思い浮かべた。
―――それは、仮にも王妃教育を受けて来た身として、公務を行なってきた者として、許されない。
私は目を開けて、両拳をギュッと握り締めて立ち上がった。
私が、アレクシス王太子としてこの状況を変えてみせる。―――もちろん入れ替わっていることはバレないよう細心の注意を払って。
よし、と私は覚悟を決め、会議室を後にした。
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