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第27話〜銀葉、真実一路の先に〜


街に出る時間が思ったよりも遅くなってしまった。


私は早足で宿を後にし、市街地を歩く。


満開に近いミモザ並木は、市街地の大通りを通ってゼストス地方の外れまでずっと続いている。


ミモザ並木の下では、まもなく訪れるミモザ祭りに向け市民が各々忙しそうに動き回っていて、活気に溢れていた。


「もし旅のお方、良かったらミモザを付けて街歩きをしないかい?」


振り返ると、そこにはミモザの枝がたくさん入った籠を背負っている中年の小柄な男性がいた。


「ああ、では一つ貰おう。」


そう言いながら、私は財布を出そうとしたが


「いい、いいよ!お若い方。これはサービスだ。…ミモザの季節に良いことをすると、その年は幸せに暮らせるっていうのがこの辺りの常識よ!」


ガハハと笑いながら、その男性は籠からミモザの枝を一つ取って


「はいよ、あんたにも良いことあると良いな。」


と言って私にくれた。


「ありがとう…ところで、貴方はピュシス家をご存知か?」


私が尋ねると、ミモザ売りの男性はふふんと笑って


「あったり前よぉ!ここいらの土地はみーんなピュシス様の土地だ。ピュシス様は無駄な税金を取らないし、俺たちみんなの事をいつも考えてくださる良い貴族だ。暮らしやすさはコーディカスで1番なんじゃねえかな。」


うんうんと自分の言葉に頷くミモザ売り。


「なるほど…。ピュシス家の方々は良く街に来られるのだろうか?」


「おお!ピュシス様はよく街に来て、俺たち平民と色ーんなこと話すんだ。俺がピュシス様に商売税下げてくれーってお願いしたら本当に下げてくれたんだぜ。」


そう嬉しそうに話したミモザ売りは、ポケットからタバコを出して火をつけ、満足げにゆっくりと燻らせた。


「それにしても、やけにピュシス様の事が気になるみたいだな、旅のお方は。」


「ああ、当主様の知り合いの知り合いでね…。今もお元気で?」


「ほぉー。じゃああんた、身分が高いんだな。…ピュシス様はお元気だよ。具合悪いなんて聞いたことねぇや。」


ぷかぷかとタバコをふかしながら答えるミモザ売り。


これ以上聞くこともないなと思った私は、そろそろ退散しようとしたが、不意にミモザ売りが


「…そういや、昔ピュシス様ん所のお姫様が若くして死んじまったって聞いたことあったなぁ…。」


と呟いた。私は思わず


「その話…!詳しく聞かせてくれないか!」


とミモザ売りに詰め寄った。


ミモザ売りは私の剣幕に驚いたのか、タバコをぽとりと地面に落として


「い、いやぁ…知ってることなんてほとんどねぇよ…。―――ただ、あん時はピュシス様の家の人たちはみーんな怒ってたっけなぁ…。絶対に病気で死んだんじゃねぇ、ってな。お姫様の元旦那はさっさと他の女に乗り換えちまって、墓参りの一つもしに来ねぇもんだからそりゃあ怒りは治らなねぇよなぁ。」


ミモザ売りは、籠を背負い直して


「じゃあな、旅のお方。もっと知りてぇんなら、直接ピュシス様ん所行って来な!ピュシス様は平民が行っても部屋通してくれるお優しい方だから、貴族のあんたが行きゃあ何か教えてくれるだろ!」


そう言ってミモザ売りはそそくさと去っていった。


私が直接ピュシス家に…。


アレクシスの身体で行ってバレないかしら。


でも、ピュシス家当主のお祖父様は何年も王宮や王都に来ていないはず。婚約パーティも、王都に住む伯父様が来ていたはずだわ。


それに、ピュシス家の方たちに話を聞けるのならこれ以上の事はない。


私は意を決して、ピュシス家に向かった。















30分ほど歩いただろうか。


ピュシス家の屋敷は、中心街から外れた所にぽつんと建っていた。


新しくはないが、きちんと手入れをされていて暖かみのある門扉が私の前に現れた。


―――本当にピュシス家のお屋敷に来ちゃったわ…。事前の約束してなんてしていないのに。


私は、何としてでも母の死の原因を突き止めたいと言う一心で無我夢中で歩いてきた。


…やっぱり、お忍びでも貴族として休暇に来ているんだから、一度きちんとやりとりは方が良いわね。


そう思い直して、私が一度宿に戻ろうとすると


「おや?どなた様でしょう?」


声の方を振り返ると、門扉の奥で初老の庭師が大きな剪定バサミを持って立っていた。


「あ、いや…。」


私がなんと答えようか口籠もっていると


「あら!キトリさん、でしたっけ?」


庭師の奥からニネミア叔母様がひょっこりと顔を出した。そして


「ほら、お父様!昨日お話しした、キトリさんですよ!」


と庭師の肩口をバンバンと叩きながら興奮気味に話していた。


…お父様?


ニネミア叔母様のお父様…ってことは…


「はは、痛い、痛いよニネミア…。そうか、この方がキトリさんだね。どうも、デンドロン・ピュシスです。」


肩にかけたタオルで顔の汗と泥を拭き、ニッと笑うその庭師こそ、ピュシス家当主、デンドロン・ピュシス公爵―――私のお祖父様だった。





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