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第24話〜英雄、安寧秩序を求めて〜


交渉が終わってからは早かった。


マギア帝国は、即座にコーディカス王国との軍事同盟を結び、タラクシア公国相手に、マギア帝国及びコーディカス王国への不可侵条約を締結させた。


マギア帝国の軍事力が、タラクシア公国を凌駕することは、タラクシア公国自身が一番よく分かっているようで、なんの反発もなくすんなりと事が運んだそうだ。


こうして、私の激動のマギア帝国訪問とは裏腹に、コーディカス王国の戦争危機は、あっさりと過ぎ去ったのだった。


私…いや、王太子アレクシスは、今回のマギア帝国との軍事同盟への足掛かりを作りコーディカス王国を戦争の危機から回避させたとして、大いに評価された。


中には、ここぞとばかりに


「王太子殿下はご婚約を破棄される予定とか…どうです、私の娘などは?」


などと言う調子の良い貴族もちらほら現れた。


私はそれらの貴族たちの訪問に、当たり障りのないように丁重にお断りしながら、皇帝の示した、戦争回避への協力の条件について考えていた。



『僕はもう君を諦めたくない。』



皇帝の―――レオと呼ぶべきか、アンサス陛下と呼ぶべきか今だに決めかねている―――言葉が頭のなかでずっとこだましている。




時々ぼんやりと夢の中で見ていた美しい黒髪の少年は、若き日の皇帝だった。




私は確かに、レオに対しては淡い恋心があった。




でも当時既にアレクシスの婚約者だった私は、その気持ちに蓋をして、レオに対する恋心は気のせいだとずっと自分に言い聞かせていた。



『タラクシア公国の件が落ち着いたら、フィーリアの身体を元に戻そう。…ただ、フィーリアの身体の中にいる王太子が目覚めないと元には戻せないんだ。』



皇帝はそう言っていたけれど、私はそもそも元の身体に戻りたいんだろうか。



この数ヶ月、私がしてきたことは全部アレクシスがやったことになってしまうんだわ。…側から見ればそうなんだけれど。




(アレクシス)は労せず評価を高め、私は王太子に婚約破棄をされ、国外へ出される。




私は、自分でも表現できない感情に押しつぶされそうになっていた。




―――このまま、ずっとアレクシスが目覚めなければいいのに。




不謹慎な考えが脳裏をよぎり、慌てて振り払う。




駄目よ私…。全ては国益のため、そして国民のためよ。




私は二、三度深呼吸をして気持ちを落ち着ける。




コンコン…と謁見室の扉がノックされた。


また貴族が娘を売り込みに来たんだろうか。


招き入れるのも億劫だが仕方がない。


「入ってくれ。」


私は顔も上げずにそう声を掛けると


「失礼します。」


と聞き覚えのある声が聞こえた。


私が気怠げに顔を上げると、そこには心配そうな顔をしたミハイルが立っていた。


「姉様…。」


それ以上何も言わないミハイル。いや、言えないのだろう。




ミハイルには、マギア帝国であった事全てを話した。


話を聞いていたミハイルは、怒ったり泣いたりと感情の起伏が激しかったが、最後には


「姉様の決断があったから、この国は救われたんですよね…。」


と肩を落として言った。


そう、私にはどうすることもできなかった。


マギア帝国の助力無くして戦争を回避することなんて不可能に等しかった。




「姉様の身体、早く戻って欲しいと思っていましたけど…今ではこのまま兄上が目覚めなければ良いのにとも思ってしまいます。」


そう言ってぎこちなく微笑むミハイル。


ミハイルだって心中は複雑であることは間違いない。


実兄の身体が私と入れ替わってしまい、数ヶ月は眠ったままなのだから。


私は椅子から立ち上がり、ミハイルの手をそっと取る。


「アレクシスがいつ目覚めるかは分からない…それまでは私に力を貸して、ミハイル。」


ミハイルは、空色の瞳に涙を浮かべて


「はい…姉様。」


と涙声で答えた。















私とミハイルの気持ちと対照的な王宮は、タラクシア公国との戦争回避ができたということで、ここ数日はずっとお祭り状態だ。


毎晩のようにパーティが開かれ、国王を始めとする貴族たちは浮かれているようだ。


私もミハイルも、毎日のように参加を求めらるのだが、勿論そんな気持ちになれるはずもなく、何かしらの理由を付けて断っていた。


代わりに、私は数日の休暇を国王に申し出た。


「おぉ、その程度の褒美で良いのか!我が息子は謙虚であるなぁ!」


私がマギア帝国へ訪問する前のやつれた国王は一体どこへ行ったのか、上機嫌で休暇を快諾してくれた。


私が休暇を取ってやりたかった事…それは私の実母、セレーネ・エピスティニの墓参りだ。


母は亡くなった後、エピスティニ家の墓ではなく、実家のピュシス家の墓で眠っている。


ピュシス家は公爵家ながら、王宮周辺ではなく地方に居を構えており、王宮から距離を置いていた。


ピュシス家が統治するゼストス地方は、コーディカス王国の南東に位置し、一年を通して温暖な気候と美しい景観で、観光に訪れる家族や国民も少なくない。


私は、表向きは2泊3日の旅行として、母の墓参りに行くことにした。


私の不在中は、またミハイルに負担を掛けてしまうが、ミハイルは快く引き受けてくれた。


「姉様、どうぞゆっくりしてきてくださいね。」


元々政治には興味ないミハイルに押し付けていくのは申し訳ないが、せっかく王太子の代行をしてくれるのだからありがたく行かせてもらおう。


「いつもありがとうミハイル。何かあったら遠慮なく知らせてね。」


「ええ。お気を付けて。」


私は従者を1人付けて馬車に乗り込み、ゼストス地方へと出発した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


ひとつでも「面白い」と感じていただけたら、

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とても励みになり、執筆続行の支えになります。


これからも読者様に楽しんでいただける展開を届けられるよう頑張ります。


どうぞよろしくお願いいたします!


本作は、毎週 月・木・土の20時に更新予定です。

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