第23話〜紫空、剛毅果断に燃えて〜
「…少し、話についていけないのだが…。」
私は、混乱する頭で今の状況を整理する。
私は、戦争危機を回避すべく、マギア帝国に協力を求めてやって来た。
そして皇帝との対話が始まってすぐに、私は皇帝にフィーリアと名を呼ばれた。
そうしたら、忘れていた過去の記憶が蘇った…。
そして、今目の前にいる皇帝は、自分がレオだ、と言っている…。
私はちらっと皇帝の方を見ると、皇帝はにこりとして
「もう、コーディカス王国の王太子のふりをしなくても良いんだよ、フィーリア。」
そして私の頰に手を当て
「ずっと会いたかったよフィーリア。」
と愛おしいものを見るような目つきで私を見つめる。
前評判の、合理的で冷徹な人物像が音を立てて崩れていく。きっとミハイルが見たら倒れてしまうわね。
それに、今の私の外見はアレクシスよ…絵面的にはちょっと問題あるんじゃないかしら。
私は皇帝から後退りしながら
「ええと…貴方がレオだって仰るの…?でも貴方のお名前は…。」
「そう、僕の名前はアンサス・レコス=マギア。レオというのは幼名だよ。」
なるほど…レオは皇帝の幼名だったのね。
「で、でも、レオは黒髪に黒い瞳だったわ…貴方は白金の髪に金色の瞳よ…?」
私が戸惑いながら言うと、くっくっと皇帝は笑って
「髪や瞳の色を変えるのは、魔法で簡単にできるんだ…ほら、こんな風に。」
そう言って皇帝がパチンと指を鳴らすと、サアァと皇帝の髪と瞳が漆黒に染まった。
「すごい…。」
私は目の前でいきなり魔法を使われて、そんな月並みな感想しか出てこなかった。
「白金色の髪と金色の瞳を持っていたら、大体マギアの人間ってバレてしまうからね。お忍びの時は大抵髪と瞳の色は変えるようにしているんだ。」
私がまだ茫然としていると、皇帝は目を閉じ、頭をふるふると振って
「それで、フィーリア…タラクシア公国との戦争が起きるかもしれないんだよね。」
いつの間にか髪と瞳の色が元に戻った皇帝が話を戻してきた。
「え、ええ…そうなの。コーディカス王国内に反逆者が居て、タラクシア公国と繋がっていて…。」
私は、戸惑いつつも皇帝との交渉の場に至るまでの経緯を説明した。
皇帝は黙って最後まで私の説明を聞いてくれた後、ふむ…と口元に手を当て
「確かにタラクシア公国は、生粋の軍事国家だ。コーディカス王国の科学技術と領土が手に入れば軍事力の強化ができる、というわけだね。」
私の説明だけでここまで理解するとは…さすが切れ者と言われている皇帝ね。
皇帝は、にっと笑って私に手を差し伸べ
「勿論、全面的に協力するよ。―――《紫水晶の女神》を手に入れられるならね。」
「わ、私のことだったの…?《紫水晶の女神》って…。」
てっきり、皇帝が《紫水晶の女神》を宝石の名か何かと勘違いしているのかと思ったわ。
戦争危機を回避するには、マギア帝国の力は絶対必要だけれど…婚約破棄を言い渡されたとはいえ、私はまだアレクシスの婚約者の立場ではあるし、それに私の身体はアレクシスと入れ替わっているし…
そうよ、そもそも私と王太子が入れ替わっているって皇帝は何故知っているのかしら…。
「陛下は何故、王太子の中身がフィーリアだということを知っていらっしゃるの…?」
私がそう尋ねると、今まで温和な雰囲気だった皇帝が急にすっ…と最初に部屋に入ってきた時の雰囲気に戻る。
「…フィーリア、僕なんだ。僕が…君と王太子の身体を入れ替えたんだ。」
私は今日一番の衝撃に呆然としてしまった。
「そんな…でもどうやって?」
「入れ替わりの魔法を使ったんだ。…これは昔1人のマギア帝国の皇帝が、永く生き存えて王位に就き続けるために開発された魔法でね…現代では倫理的な問題があるということと、大量の魔力消費をしてしまうということで禁術とされているんだ。」
そう言って皇帝は、俯いた。
「でも僕は耐えられなかったんだ。―――あの日、僕はフィーリアが正式に王太子の婚約者となると聞いてパーティ会場に紛れ込んでいたんだ。そこでフィーリア、君が婚約破棄を言い渡されるのを見てしまった。毎日直向きに王妃になるべく努力しているフィーリアが踏み躙られているのが許せなかった。だから王太子がフィーリアの立場になればフィーリアの辛さが分かると思ったんだ…。」
そうして皇帝は顔を上げ、ふっと笑って
「王太子がフィーリアに婚約破棄したのなら、そのまま僕がフィーリアに求婚すれば良かったのに。―――ただ、僕は王太子がフィーリアを傷付けたまま、のうのうと生き続けるのが本当に許せなかった。」
皇帝は一歩、私に歩みを進めて
「ごめんねフィーリア…。君のためにと思ってやったけど、君にまた辛い思いをさせてしまったね…。あの日、君を迎えに行くと言ったものの、僕はずっと悩んでいた。フィーリアを想って身を引くべきなんじゃないかって。―――僕がフィーリアと王太子にしたことは決して正しい選択ではない。でも、僕はもう君を諦めたくない。」
と、皇帝は言ってじっと私を見つめた。
長い静寂が訪れる。
真っ直ぐだけど、どこか不安げに揺れる金色の瞳。
私の使命…それはコーディカス王国を守ること。
そのために私は、ここまで来た。
私に選択肢は、ない。
私は覚悟を決めて金色の両眼を見つめ返す。
「…ええ。分かったわ。協力してくれた暁には、私はマギア帝国に参ります。」
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