第22話〜蒼玉、往事渺茫を照らして〜
濡羽色の髪に、蒼玉の瞳。透き通るような白い肌。その少年はやや困惑気味に私を見ていた。
「テア…この子は誰?」
どうやらテアと知り合いらしい。
「…フィーリア・エピスティニと申します。」
咄嗟に私は淑女の礼をした。なんとなく、その方が良い気がしたからだ。
「…レオ。」
その少年は一言、レオと名乗った。
「お二人なら、良い友人になれますよ。きっとね。」
と私にウインクするテア。
「別に僕は友人なんて…大体、なんでここに連れてきたの。」
とブツブツ文句を言うレオ。
私は居た堪れなくなって
「あの…!すみませんでした…。2人の秘密の場所だったんですよね…?」
と謝罪すると
「君は悪くないよ…どうせ、テアに無理矢理連れてこられたんでしょ?」
と言って、更にテアに対して
「連れてくるなら、前もって言ってよ。」
と言い残し立ち去ろうとした。
「待って…!」
気が付いたら私はレオを呼び止めていた。
レオは立ち止まり、怪訝そうな顔をしてこちらを振り返った。
「また…ここに来ても良いかしら?」
レオは少し悩んでいたが
「良いよ、別に…。」
と言って森の中へ入って行ってしまった。
「私…来ちゃ行けなかったかしら。」
テアにそっと尋ねると、テアはふふふと笑って
「まさか!ダメだったらまた来ても良いなんて言わないわよ。」
と私の頭をポンポンと撫でた。
あの日以来、私は辛いことがあって心が耐えきれなくなるとあの泉に行った。
「このペンダントが光る方向に歩いて行くと着きますよ。」
とテアに渡されたペンダントを頼りにして。
このペンダントは白金の細い鎖でできていて、そのトップは偶然にも紫水晶の宝石でできている。
涙型で指の先ほどのその小さな宝石は、泉に近付くにつれて強く光る不思議なもので
「これは昔マギア帝国で買った不思議なものでね、探し物を見つけてくれる石なんですって。―――昔は今よりもマギア帝国には行きやすかったのよ。」
とテアが言っていた。
私がいつものようにして泉に着くと、そこにはレオの姿があった。
「…やあ。」
この頃にはレオも私に大分慣れてきたようで、こうして泉で出会った時は挨拶をしてくれるようになった。
「ご機嫌よう、レオ。」
私はレオの隣に腰掛け、2人でただひたすら美しい泉を眺める。
特にお互い話をすることはない。でも私はこの時間が大好きだった。
私はいつものようにぼんやりと泉を見つめる。
透き通った水が、底の方では濃い群青色になっていてまるで宝石のよう。
綺麗ね…と私が思わず呟くと
「そう…だね。」
と不意にレオが相槌を打ってくれた。
私は驚いて、目を見開いてレオを見つめる。
レオは、深い蒼玉色の瞳で私を見つめ返す。
「…君は、何故ここに来るようになったの?」
「私は…。」
言葉に詰まる私。
家族のこと、望まない婚約のこと、言っても良いのだろうか。
「言いたくないなら、無理に言わなくても良いよ。」
レオは微かに微笑んで、また泉に視線を戻した。
再び訪れる沈黙。
「…僕はね、家のことが嫌になってね。よく逃げ出してはここに来るんだ。」
泉に視線を向けたままレオはそう言った。
「本当は分かってるんだ、ちゃんとやらなきゃ行けないって。」
そう言ってレオは膝を抱えて俯いてしまった。
「…私も、家にも…どこにも居場所がなくて。」
そんなレオの姿を見て、私は口から勝手に言葉が溢れた。
「私たちってきっと似ているのね。だからテアはお友達になれるって言っていたのかも。」
「…そうかもしれないね。」
私は、顔を上げたレオと笑い合った。
それからは色々な話をした。
家族のこと、強引な婚約者のこと、厳しい王妃教育のこと…。
レオは静かに聞いてくれた。
「お互い、大変だね。」
くすっと笑うレオ。私は、そんな彼の笑顔を見てドキッとしていた。
駄目よフィーリア、私にはアレクシスがいる。
この気持ちは、一生しまっておかなきゃ…駄目。
私は自分にそう言い聞かせた。
それから私たちは泉で会う度にたくさん話をした。
その一つ一つは本当に他愛のない話だったけれど、私にとってはとても幸せな思い出だった―――
しかし、別れは突然やってきた。
いつものとおり、泉で出会う私たち。
しかし、レオに元気はなかった。
「どうしたの…レオ、元気ないみたい。」
私がそう尋ねると、レオは覚悟を決めたかのように顔を上げて
「フィーリア、僕はもうここには来られない。だから君ももうここに来てはいけない。」
突然のレオの言葉に、私は動揺する。
「えっ…でもどうして?」
私の言葉にレオは答えず、私の両手を取ってこう言った。
「ごめん。…フィーリア、必ず僕が迎えに行くからね!」
レオは、目に涙をいっぱい溜め、ギュッと私の手を握った。
「どうして!?レオ―――!」
「どう?思い出した?」
と私の目の前で微笑む皇帝。
私は、ハッとして思わず勢いよく立ちあたがってしまった。
そうだった。ここはマギア帝国で、私は今皇帝と交渉中で…。
それなのに何故私は昔のことを思い出していたの?
状況が全く掴めない私に、皇帝は少し溜息をついて言った。
「僕がレオだよ。フィーリア。」
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1/10 20:15 タイトル修正しました。
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