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第21話〜過日、苦心惨憺を重ねて〜


家族関係は、控えめに言って良くなかった。


いや、()()()()良好だったのだろう。


私が3歳の時に実の母、セレーネ・エピスティニは病で亡くなった。母の存在は朧げだが―――たくさん愛情を注いでもらったような気がする。


父、クリフォン・エピスティニは法務局の局長を勤めていて多忙を極めている。


そして、母が亡くなってすぐに後妻になったヴィクトリア・エピスティニ。彼女はエピスティニ家の分家出身で、美しい美貌の持ち主だ。彼女もまた、紫色の髪と瞳を持っている。


最後に再婚して1年も経たずに産まれた妹、エリザベート・エピスティニ。彼女は母親の操り人形になっていることに気が付いていない。本当に可哀想な子。


彼女らは…特に継母は私の何が気に入らないのか、何かにつけて私を卑下し、実の娘を持ち上げた。


「あらぁ…地味な子ね…。淑女なら、もっと外見に気を付けなきゃ駄目よ。それとも、もう王太子の婚約者という地位を築いているから関係ないってことかしらね…。そんな風に振る舞っていると、いつか足元を救われるわよ。ねぇ?エリザベート。」


「そうですわよフィーリアお姉様、私いつでもアレクシス様の所に行く準備はできておりますの!…アレクシス様だって、《紫水晶の女神》である私の方が良いに決まってますもの。」


また《紫水晶の女神》ね…もう聞き飽きたわ。


《紫水晶の女神》―――イ・デスピナ・ティス・アメジストゥ―――は、エピスティニ家に生まれた、美しい紫色の髪と紫色の瞳を持つ未婚の女性をそう呼ぶ習慣がある。


習慣、というだけあって、エピスティニ家の中には今でも積極的に《紫水晶の女神》を1人選んで美称で呼ぶべきだとする人間と、美称自体にそこまで意味はないから紫色の髪と瞳を持つ未婚のエピスティニ家の令嬢を皆《紫水晶の女神》と呼ぶ人間、そして…少数のそもそも《紫水晶の女神》と言う美称自体どうでも良いと思っている人間の3種類がいる。


言うまでもなく、彼女たちは積極的に《紫水晶の女神》を1人選んでそう呼ぶべきだと考えている。


「全く…何を言っても響かないのね…。こんな愚鈍な子が王太子の婚約者で良いのかしら。」


扇子で口元を覆い隠しながら、私を汚いものを見るような目で見る継母。


「大丈夫ですわ、お母様…。アレクシス様もすぐに間違いに気が付きますわ。」


そう言ってくすくすと笑い合う2人…というのは日常茶飯事だった。






私は物心ついてまもなく、王妃教育を受けさせられていた。


本当は住み込みで行うところ、特別に通いで授業を受けていた。


本当は住み込みでも良かったのに…当時はまだ幼かったということもあり、私の意見などあまり聞いてもらえなかった。


1人部屋に戻り、溜息を吐く。


…私のお母様が生きていたら、こんな思いしなくて良かったのに。


お母様、どうして私を置いていってしまったの…?


思わず込み上げる涙をそっと指で拭っていると


コンコン


と部屋の扉をノックし入ってきた1人の女性。


「おかえりなさい。お嬢様。今日も疲れたでしょう。」


それは、唯一の私の心の拠り所。私の身の回りの世話をしてくれる乳母のような存在だ。


「テア…。」


テアというその女性は、私の祖母と同じくらいの年齢だろうか。元は貴族の出身だそうだが、夫に先立たれて身寄りのないことから、エピスティニ家で住み込みで働き始めたそうだ。


私は走ってテアに抱きつく。テアはあらあら…と言いながら優しく私を抱きしめ返してくれた。そして、私の頭をそっと撫で


「お嬢様にはテアがおりますよ…。」


と言ってにっこりと微笑んだ。そして


「夕飯まで少しあるわ。それまでゆっくりお茶を飲みましょう。」


テアは廊下にあったティートロリーを部屋に入れ、手際よくお茶を淹れてくれた。


「良い匂いでしょう?…さあどうぞ。」


テアが淹れてくれる温かいお茶はいつも美味しくて、私の不安な心を消してくれる。


「ありがとうテア…。」


私がお茶を飲む姿をにこにこしながら見守るテア。


「…なんだか、この家にも王宮にも私の居場所なんてない気がするわ。」


ぽつりと本音をこぼす私。少し悲しげな表情でその言葉を受け止めたテアは、あぁそうだわ、と何か思いついたようで


「お嬢様にだけ、テアの秘密の場所を教えましょう。」


と言ってまたにっこりと微笑んだ。


「秘密の場所…?」


「ええ、そうです。明日は丁度王妃教育はおやすみでしょう…?私と一緒に行きましょう。」
















次の日。


テアが馬車を手配してくれて、私とテア2人で出掛けた。


暫く馬車に揺られていると、国境沿いの森へやってきた。


「ここは確か…。」


迷いの森と言われる、深い森だったはず。


「大丈夫ですよ。テアに付いてきてくださいな。」


よっこいしょ、と馬車から降りて鬱蒼と木が生い茂る森の中へ歩き出すテア。私も慌てて降りてその後ろをついて行く。






5分ほど歩いただろうか。


「さぁ、着きましたよ。」


急に視界が開けたと思ったら―――そこには、美しい泉が広がっていた。


泉の水は透明で、青深い底までよく見える。


泉の周りは色とりどりの草花で埋め尽くされ、柔らかな花の香りで満たされている。


今までずっと暗い森の中を歩いてきたので、余計にこの泉が眩しく感じる。


「綺麗…。」


私が目を細めてそう呟くと、テアは横でうんうんと頷いて


「そうでしょう。私が…いえ、私のお気に入りの場所なのよ。」


と言って微笑んだ。


「素敵…ありがとうテア。」


私もテアに微笑み返した。


すると


「誰…?」


不意に誰かが私たちの背後から声を掛けてきた。私は驚いて振り向くとそこには








黒色の髪と瞳を持つ少年が立っていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


ひとつでも「面白い」と感じていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると嬉しいです。


とても励みになり、執筆続行の支えになります。


これからも読者様に楽しんでいただける展開を届けられるよう頑張ります。


どうぞよろしくお願いいたします!


本作は、毎週 月・木・土の20時に更新予定です。

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