第20話〜邂逅、驚天動地となりて〜
「王太子殿下、帝城に到着致しました。大変お疲れ様でございました。」
6時間弱馬車に乗ったというのに、全く疲労を感じなかった。
むしろ、身体が軽いくらいだ。
「ようこそ、マギア帝国へ。こちらへどうぞ。」
馬車の降り口には、口髭を蓄えた品のいい執事が私を待っていた。
ここから先は彼が案内してくれるようだ。
「それでは私はここで失礼致します。」
深々と一礼するマギア大使。
「ああ。助かった。礼を言う。」
そう言って私は馬車から降り、帝城に入っていく。
一度馬車を振り返ると、もうそこには馬車は跡形もなかった。
私が通されたのは、豪華な内装の応接室だった。
馬車の内装と似ていたが、美しい風景画や、金の装飾が付いた花瓶に生けられた花々など、より華やかな内装になっている。
よく見ると、シャンデリアや壁の蝋燭が浮いていたり、風景画の草木が風に揺れていたりしている。これも魔法なのね。
私はそわそわしながら応接室のソファに座っていると
ガチャ
と扉が開いた。
―――白金色の髪に金色の瞳。透き通るような白い肌。弱冠21歳という若さだが、その顔立ちには威厳が表れていて、神々しいという表現がしっくり来る。
皇帝の仕草一つ一つに目を奪われる…纏う空気さえキラキラ輝いているように見えた。
この方が、アンサス・レコス=マギア帝…。
私はその圧倒的な存在感に身動き一つ取れなかった。
皇帝は静かに私の向かいの椅子に座り、腕を組んだ。
「…それで?」
皇帝は金色の瞳で私をじっと見つめる。
私の全てを見透かされているようなまっすぐな瞳。
「タラクシア公国との戦争危機のため、我が国の助力を必要としているとか。」
いきなり本題に入ってきた皇帝。合理的だという前評判は確かみたい。
私は、ここで弱腰になっては行けないと思い、グッと力を込めて
「…はい。コーディカス王国の軍事力だけでは、正直タラクシア公国に太刀打ちできません。そこで、貴国のお力添えを頂きたい。」
と、澱みなくマギア語で答え、負けじと見つめ返す。
沈黙で満たされる室内。
どのくらいの時間が経っただろうか、もしかしたらほんの数十秒だったのかもしれないが、私には何時間のようにも感じた。
ようやく皇帝は小さく溜息をついて口を開いた。
「…なるほど。それで…我々が貴殿の国に協力する利点は?」
条件…そうよね。そう来ると思ったわ。
私は、マギア帝国に出発する前の国王との会話を思い出す。
「アレクシスよ…マギア帝国は強大な国じゃ。味方についてもらえるならこれ以上心強いことはない。―――しかし、何事にも交換条件は必要じゃ…。現状ではマギア帝国にはコーディカスを助ける義理はないからの…。」
ここ数日でかなりやつれてしまった国王。玉座にもたれかかるようにして座っている姿は本当に痛々しい。
「はい、父上。…ですが、一体何を交換条件に?」
私が尋ねると、国王は大きな溜息をついて
「正直…コーディカスからマギア帝国に差し出せるものなど殆どないのが現状じゃ…。同盟が組めれば1番良いのじゃが…。最悪の場合は―――」
言葉に詰まった国王は、目を閉じて静かに首を振る。まるで、最悪な場合という想定を頭から振り払うように。
「とにかく、今回の戦争危機だけでも良い。何らかの形で協力をしてもらえるよう、交渉してくれ。」
頼む、と言って国王は下がっていった。
相当気苦労があるのだろう。
なんとしても、マギア帝国の協力を得なければ。
私は、与えられた重大な任務に緊張しつつも、絶対に交渉を成功させてやると意気込んだ。
「―――我が国には、機械産業の技術が豊富です。その技術を共有し、共同開発ができれば、と。」
コーディカス王国の強みは機械産業だ。機械による大量生産や部品の加工技術はコーディカスで産まれた。中でも蒸気機関車の発明は、コーディカスが誇る機械技術の結晶でもある。
私は、皇帝の様子を伺う。
皇帝は、くっくっと笑い立ち上がった。
「悪くはない…が、私にはもっと欲しいものがある。」
一歩ずつ、ゆっくりと私に近付いてくる皇帝。
ここで動揺を見せてはいけない。私は何食わぬ顔をして
「それは、一体何でしょうか?」
と私は座ったまま返す。
皇帝は何故か口元に笑みを浮かべ、私の真横まで来て、テーブルに片手をついて私の顔を覗き込んだ。
「マギア帝国は宝石の産地として有名だが…我が国にはない宝石が、コーディカス王国にはあると聞いている。」
そんなもの、私は聞いたことがない。
確かに私は宝石には疎いが、それにしてもそんな宝石が存在するのだろうか。
私が懸命に考えていると、皇帝は笑みを浮かべたまま、私の顎に手を添えて
「その宝石は《紫水晶の女神》と言うそうだ。」
と言った。
え…私、今アレクシスの身体よね…?
私は目を見開き、硬直してしまった。
いや、私が元の身体だったとしても初対面で顎に手を添えるなんて…それより今、《紫水晶の女神》って―――
全然頭が追いついていないが、とにかく何か言おうと私が口を開きかけた瞬間、皇帝はそっと私の耳元でこう囁いた。
「…よく頑張っているね
フィーリア。」
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1/11 修正を行いました。
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