第19話〜旅路、鴻鵠之志を抱いて〜
いよいよ、マギア帝国へ出発する時が来た。
私はこの1週間、タラクシア公国との戦争回避のため、マギア帝国大使館に、マギア帝国の協力を要請する旨を書簡でやり取りをしていた。
そして先日、遂にマギア帝国本国から皇帝との謁見の許可が降りた。ただし…王太子が1人でマギア帝国に行くという条件付きで。
そこで、私が1人でマギア帝国に行くことになった。
私は執務室で、出発の準備をしていた。
馬車でマギア帝国に行くには片道2日は掛かるらしい。初めての遠出、しかも国外なので少し胸が高鳴っている。
「フィーリア姉様、やっぱり僕もついていきたいです。」
心配そうに私を見つめるミハイル。
ミハイルにも来てもらいたいところは山々だけれど、私がコーディカスを離れる間、王太子の仕事が滞ってしまっては余計に国の情勢が不安定になりかねない。
だから私は、王太子の仕事をミハイルに託した。
「大丈夫よミハイル…きっと交渉を成功させてみせるわ。だから、私に任せて。」
そう言って私が微笑むと、ミハイルはしゅん…と子犬のように悲しそうな顔をした。
こんな姿、普段の冷静沈着なミハイルしか知らない人だったら驚くでしょうね。
私がくすっと笑うと、ミハイルはむぅっとしながら
「姉様、マギア帝国の皇帝―――アンサス・レコス=マギア様は若くして即位した方で、歴代のマギア皇帝の中でもずば抜けて優秀らしいです。僕がマギア帝国に1年間留学していた時に聞いた話だと、かなり合理的で冷徹な方だと言われていました。」
だから、心配なんですと言ってぷいっとそっぽを向いてしまった。
「ごめんなさいね、ミハイル…つい、可愛くって。」
と私はフォローしたつもりだったのに、ミハイルはいじけたまま唇を尖らせていた。
そういうところが可愛いのに。
ふと時計を見ると約束の時間が近づいてきた。
「ミハイル…私、そろそろ出発するわね?」
ミハイルの顔を覗き込んで言うと、ミハイルはまた心配そうな顔をして
「姉様…。ついて行きたいところですが…どうかお気を付けて。」
とようやく着いて行くのを諦めてくれた。
「ええ、もちろんよ。それまで、コーディカス王国をよろしくね、ミハイル。」
私は執務室を出て、迎えの馬車が待つ玄関へ急いだ。
「マギア帝国大使のソフォス・ピライオスと申します。どうぞよろしくお願い致します。」
丁寧なコーディカス語で挨拶をするマギア帝国大使。背は低く、禿頭で大きな眼鏡を掛けている。
今回は、マギア帝国まで私と同行してくれるようだ。
「ああ、よろしく。」
握手を交わしてから私は馬車に乗り込んだ。
「―――!?」
私が馬車に乗り込むと、そこには不思議な光景が広がっていた。
1人用の重厚なソファが4脚と、コーヒーテーブルが1卓、大きな窓には蔦柄の薄いカーテン。壁紙はアイボリーで、無垢材の腰壁のダークブラウンとのコントラストが美しい。天井には花をモチーフにしたシャンデリア、床には赤地に金刺繍の絨毯。そして…暖炉が1基。
馬車のサイズからしてあり得ない空間が広がっていたのだ。
「こちら、空間魔法により少しだけ内装が広くなってございます。旅の道中、ゆるりとお過ごしくださいませ。」
そう言って大使は、驚いて身動きが取れない私の後ろで深々と一礼をした。
これがマギア帝国が誇る魔法なのね。
マギア帝国は強大な魔法国家で、その軍事力は近隣諸国と比較して圧倒的な力を持っている。…だからこそ、今回戦争危機を回避すべく協力を要請しに行くのだが。
そして、貿易では、薬品や茶葉、宝石などの名産品があり、コーディカス王国内でも人気のものばかりだ。
ただ、謎が多い国であり、他国から基本的に旅行などでは入国することができない。コーディカス王国からは、毎年1人ずつ留学生を派遣しているが、それ以外ではマギア帝国に入国する方法は今のところない。
初めてのマギア帝国…ドキドキする。
私はいつの間にか走り出した馬車の中で、まだ見ぬマギア帝国に想いを馳せた。
―――2時間程経っただろうか。
馬車の中とは思えないくらい快適で、時間が経つのがあっという間だった。…寧ろ、快適すぎるくらいだ。馬車特有の揺れを全く感じない。
ハッとして私は窓に駆け寄り外を見ると…そこは、一面の空。
空!?
私は窓に駆け寄り、窓に顔を押し付けて下を見ると―――街や人々が小さく見え、凄いスピードで移動していることが分かった。
「と、飛んでるわ…。」
と私が小さく漏らすと、ピライオス大使はにっこりと笑って
「ええ、下道で行きますと揺れますし、何より時間が掛かりますからね…なるべく王太子殿下に負担をかけないようにと皇帝陛下から仰せつかっておりますので。」
そして大使はちらっと腕時計を見やり
「…あと30分程でマギア帝国上空に入ります。マギア帝国に入ってからもう3時間程で帝城に到着致します。今しばらくお待ちくださいませ。」
と一礼して、別室へ下がっていった。
馬車で2日掛かるはずだったのに、ざっと5時間30分くらいで帝城についてしまう予定なのね…本当に魔法って凄いわ。
あまりにも日常からかけ離れた光景をいくつも目の当たりにした私は、この先何が起きても驚かないわね、とこの時は思っていた。
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1/11 修正を行いました。
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