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18話〜紫苑、熟慮断行の末に〜


あれから私は荷物をまとめて、エピスティニ家に戻る準備をした。


迎えに来た馬車に荷物を積み終わると、私は従者に


「少し待っててくださる?…1箇所だけ、寄って行きたいところがありますの。」


と伝えた。











私は、王宮の東館に来ていた。


確か、ここの最上階にある貴賓室にお姉様が寝かされているそうね。


私は、追い返されるかもしれないと思いながらも、貴賓室へ向かった。





「申し訳ありません、この部屋はアレクシス様しかお通しすることができません。」


貴賓室の目の前には2人の見張りが付いていた。


―――やっぱり入れないのね、仕方ないわ。


私は諦めて、来た道を戻ろうとすると


「やあ、エリザベート…ここに何しに来たんだい?」


そこにはアレクシス様が立っていた。


「あ、アレクシス様…。」


アレクシス様と一緒なら、入れてもらえるかもしれないわ。


「アレクシス様…私、お姉様にお会いしたいの…!どうか一目で良いから会わせて…。」


今できる精一杯の上目遣いでお願いすると


「ああ、構わないよ。おいで。」


と私を部屋に招き入れてくださった。





「お姉様…。」


そこにはお姉様が横たえられていた。


見た目はただ眠っている様だけど…。


「不思議だよね、ずっと眠っている。」


アレクシス様は、お姉様の手に自分の手をそっと重ねてそう言った。


静まり返る室内。重く引かれたカーテンの隙間から薄く光が差し込んでぼんやりと部屋が明るくなっている。


お姉様の正しい呼吸だけが聞こえている。


「…お姉様は、もう目覚めないのでしょうか?」


私が独り言のように呟くと、アレクシス様はふっと笑って


「どうだろうね…もしかしたら、フィーリアはもう目覚めたくないのかもしれないよ。」


と言いましたの。それで私、はっとなって


「そんな…。私、お姉様に謝りたいのに…。」


と言うと、アレクシス様は驚いた顔をして


「エリザベート…一体どうしたんだい、そんなことを言って。」


私はアレクシス様に、お姉様に対する思いをぶつけた。


「私、王妃教育を受けて分かったんです。私には王妃は務まらないって…。でも、今までお父様もお母様も、私こそ《紫水晶の女神》で、王妃に相応しいって育ってきて…。お姉様が王妃教育を受けていた時は、なんてことないって感じでやっていらしたように見えてたから…私には簡単にできると思いましたの。でも…全然そんなことありませんでしたわ。」


私が話している間、アレクシス様は静かに耳を傾けてくださった。


「私は、今までお姉様を見下していたの。だからお姉様に謝りたい。簡単には許してもらえないだろうけど…。」


そう言ってアレクシス様を見つめると、アレクシス様は


「そうだったんだね、エリザベート。…フィーリアが目覚めたら伝えておくよ。必ず。」


と言ってくださった。アレクシス様の目にうっすらと涙が滲んでいたようにも見えましたけど、気のせいかしら。





貴賓室から出た私とアレクシス様は、一緒に東館を出て私の馬車まで歩いて行った。


私の馬車の前まで来て、私はアレクシス様の手を取って


「ありがとうございますわ、アレクシス様。お元気で。」


と最後の挨拶をすると、アレクシス様も笑みを浮かべて


「こちらこそありがとう、エリザベート。君の幸せを祈っているよ。」


と手を握りしめて答えてくださった。


こうして私とアレクシス様は本当のお別れをした。





馬車の中で、私はアレクシス様との思い出を振り返る。


初めこそ、アレクシス様がお目当てというよりは、お姉様から婚約者の地位を奪うことが目的だったけれど、気が付いたらアレクシス様のことが大好きになっていましたわ。




アレクシス様―――。




段々と沈んでいく夕陽を見つめながら、私は胸が締め付けられるような苦しさと涙が止まらなかった。













「どういうことかしら、エリザベート。」


帰宅すると、やっぱりお母様は怒っていた。


「折角のチャンスだったのに…!これじゃあ貴女は王妃になれないじゃない!!」


バシッとお母様は手に持っていた扇子を閉じて私を睨む。


「も、申し訳ありませんでしたお母様…。でも、私は…私には王妃は…無理でした…。」


やっぱりお母様は許してくださらなかったわ。それならもう、私がこの家にいる意味はないですわね。 


私は両掌にギュッと力を込める。


「今からでも遅くありません。もう一度王宮に戻って―――「私、出家致します。」


お母様がぴたりと動きを止める。でもすぐに額に青筋を立てて


「何ですって?今何と言ったのエリザベート。」


わなわなと震えるお母様。出家はつまり修道院に入るということ。そして一生家には戻らないということ。


「お母様はそんなこと絶対に許しません!」


そう言ってお母様は部屋から出て行ってしまった。


私は、初めてお母様に逆らった興奮で感情が昂り、気が付いたら涙を流していた。


そんな私にお父様は


「…一体王宮で何があったんだい?」


と私の肩に手を置いて優しく尋ねてくださった。


私は王宮での王妃教育のこと、お姉様に謝りたいこと、そしてこの家には居られないと感じたことをお父様にお話しした。


お父様は、うんうんと聞いてくださって


「エリザベートがそう決めたのなら、お父様からお母様に話してあげよう。」


それで良いかい?と聞いてくださったお父様に、私はこくんと頷いた。

















「エリザベート、本当に行くんだね?」


心配そうなお父様と、少し後ろで扇子で口元を隠しそっぽを向いているお母様。


お父様は、あの後お母様を説得してくださって、私は修道院行きが決まった。


私は両手でお父様の手を取り、優しく微笑んで


「ええ…エリザベートは行きます。―――お父様、お母様、今までありがとうございました。」


ちらりとお母様を見ると、こちらを全く見てくれない。


それもそうよね…だってせっかく王妃教育を受けさせてもらえたのにも関わらず、それを投げ出して地方の修道院に出家するんですから。


「お父様、お母様、お元気で…。」


「ああ…。会いに行くよ、エリザベート。」


お父様は振り返り


「ヴィクトリア、エリザベートが行ってしまうよ。」


とお母様を呼んでくださったけど、お母様は微動だにしなかった。




ねえ、お母様…お母様にとって私は何だったのでしょう?




お母様が愛していたのはエリザベート・エピスティニ?それとも…《紫水晶の女神》?




走り出した馬車の中で、私は今までの人生とこれからの人生について考える。




どうか、これからの人生は




エリザベートという1人の人間を愛してくれる世界がありますようにと願いながら。


【12/27〜1/3は毎日20時に更新中!】


いつも読んでくださってありがとうございます。


お陰様で、第18話をもって第4章完結となりました。


1/3からは第5章を更新する予定です。


第5章は、フィーリアが主人公に戻り、戦争危機を回避すべく、隣国マギア帝国へと行くところから始まります。


1/3以降は、以前と同様に毎週月・木・金曜日の20時に更新する予定です。


いつも皆様のPV数に励まされています!


引き続き応援よろしくお願い致します!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


ひとつでも「面白い」と感じていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると嬉しいです。


とても励みになり、執筆続行の支えになります。


これからも読者様に楽しんでいただける展開を届けられるよう頑張ります。


どうぞよろしくお願いいたします!

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